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死んだはずの男
しおりを挟むレイブンがエルルーシアの家族を連れて来ると、レイブンはテラスを出ようとするが、イザークが止めた。
「貴方も残って下さい。事件の事を知っているんですよね?今の彼女には、少しでも多くの味方が必要です。貴方も彼女を守りたいなら力を貸して下さい」
イザークがそう話すと、レイブンはギュッと唇を噛み締めた。
イザークが先ほどの事を説明していく、そして犯人を取り調べたのは自分達の班で、イザーク達騎士団のミスであると頭を下げた。
「頭を上げて下さい。私達があんな事を言わなければ避けられた事かもしれません。私達にも原因はあるので騎士団だけの責任ではありません。私達も犯人の身内による復讐など様々な危険を考えるべきでした。娘がこれ以上傷つかない事を優先に考えていたので···正常な判断ができていなかったのでしょう」
ドミニコフ侯爵の気持ちも皆理解できたので皆が黙り込んでしまった。
「おじさん、おばさん···今回は俺がついていながら、本当にすみませんでした。目を離した俺の責任です」
レイブンは、自分への怒りを堪える為にギリッと強く自らの手を握りしめる。
あまりに強く握りしめすぎたのか、ポタポタと血が滴っていた。
「あのさぁ···もう、そうやって謝り合うのやめない?そんな事してて事件は解決するの?もう過ぎてしまった事はどうにもできないでしょ?今しなきゃいけないのは、これからどうするか?って話し合いじゃないの?」
ずっと黙っていたグレイが口を開いた。
「起きてしまった事に関してはもうどうにもできない。けど、今から起きる事に関しては頑張れば防ぐ事ができる」
グレイは、冷静になれと言わんばかりに周りを見回す。
「重要なのは、もうこれ以上エルが傷つかない事でしょ?エルが安心して暮らしていけるように考えてあげる事が、エルを守れなかった事への償いにもなる。僕は、妹が前みたいに何にも恐れず笑って暮らせるようにしてあげたいって一番に考えるけど、皆は違うの?」
グレイの言葉で皆が冷静になった。
そうだ、今やらなきゃいけない事は、彼女が安心して暮らしていけるようにする事。
自分達のミスを後悔し、謝り合う事ではない。
「騎士団は、犯人の家族関係をすぐに調べ聴取します。もし、エルルーシア嬢の警備が足りない場合はすぐに、騎士団で警備を補充できるようにします。いつでも騎士団にご連絡下さい」
ドミニコフ家は小規模ではあるが、私兵団を所有している。
屋敷や領内の巡回、警備は私兵団の仕事だ。
しかし、私兵団だけでは間に合わない緊急時には、王都の騎士団に応援を要請する事もある。
「では、我が家でも屋敷内及び屋敷の周辺の警備を強化しましょう」
「父上、万が一騎士団の要請が必要になった時に、他の貴族に、エルの事で変な噂を立てられると不味い。情報は騎士団上層部や一部の団のみで制限をかけた方がいい。災害時の合同訓練とかの名目で我が家の領地で行事を開いたらどうかな?そうすれば、領地内に騎士団が来ても違和感がない」
私兵団を有する領地で事件や大規模な災害があった時、指揮系統が混乱する場合がある。
私兵団を有する領地では、それを防ぐ為、年に数回騎士団と合同訓練を実施する事がある。
合同訓練をうまく利用すれば、他の貴族達に妙な勘繰りをされる事はないだろう。
エルルーシアの名誉を守る為にも、できるだけ、他の貴族達に勘繰られないようにしたい。
できるだけ短期で事を片付けるのが望ましい。
「では、そのように上層部に掛け合ってみましょう」
とりあえずドミニコフ侯爵領で、合同訓練を開催するという方向に話はまとまった。
「レイブン、君はなるべくアリアナと一緒にエルを見舞ってあげてくれるかい?君たちが側にいてくれるとエルも心強いと思うんだ。なるべく側に居てやってほしい。お願いできるかい?」
そういうと、ドミニコフ侯爵はレイブンにそっとハンカチを渡した。
「だから自分を傷つけてはダメだよ?エルが悲しむ」
ドミニコフ侯爵はレイブンの気持ちを察していた。
娘を誰よりも気にかけ、優先し大事にしてくれるレイブンを息子のように可愛がり気に入っている、アリアナもそうだ。
だから今回の事で娘との関係がぎこちなくなるのではないかと心配していた。レイブンは娘の事になると責任感が強すぎるからだ。
あの事件が起きた時も、屋敷内の警備の不備は侯爵である自分の失態だというのに···レイブンは、あの給仕の男がエルに邪な気持ちを抱いている事に気づけなかった事を悔いていた。
そして、私兵団に混ざりボロボロになるまでエルを守れるようにと鍛練を続けた。
エルの為なら、自らを痛めつけてしまう危うさもあるから心配だったのだ。
「とりあえず話はここまでにしましょう。変に勘繰られてもいけない。ここのテラスは隣の休憩室まで繋がっています。休憩室の横に騎士団が借りている部屋があります。警備もしっかりしているのでそこでエルルーシア嬢を休ませてあげて下さい。」
密談が終わり、各々が違和感ないようにテラスから離れる。
レイブンとグレイは、エルルーシアをイザークが用意してくれた部屋に連れて行き、大きめなカウチソファーにエルルーシアを寝かせた。
「なあレイブン···あんまり思い詰めるなよ?少し頭冷やせ。アリアナを一人で会場においてきたんだろ?僕はアリアナに説明してくるからエルの事は任せたからな?エルが起きた時にまだそんな顔してたらぶん殴るからね?」
そういうと、グレイが部屋を出ていく。
「エル···側にいるって約束したのに約束守れなくてごめん···。誰よりも守りたい存在なのにいつも上手くいかない···本当に情けないよな」
そのくせに嫉妬心だけは一人前。
エルが心を開くのは、家族以外の異性では自分だけという自信があった。
でも···あの時、エルがイザークに体を委ね泣いている姿を見て、頭が真っ白になった。
途端に心の中を黒い感情が支配者した。
エルと初めて出会ってから、長い年月をかけてやっとここまでの信頼関係が築けたのに···。
イザークは、一瞬でエルからの信頼を得た。
あの人見知りの激しいエルは、そう簡単に他人に体を委ねる事はない。
悔しかった···。
そしてエルを一人にしてしまった事を激しく後悔した。
犯人と瓜二つの男を見てしまったのだ。
周りに頼れる人間がいなかったからこそ、イザークに頼るしかなかったんだ。
それほどまでの怖い思いと···心細い思いをエルにさせてしまった····。
エルを守る···側にいると約束したのに···。
許せないのはイザークじゃない···。
俺自信に怒りを感じてるんだ。
エルに会わせる顔がない···。
約束も守れなかったのに、どんな顔して会えばいい?
アリアナが恋愛感情に近い気持ちをエルに抱いている事に気づいてから、アリアナの気持ちは叶わないと知っていても···エルに恋愛感情を抱く人間が側にいるだけで、不安になり心が乱れる。
あの無防備で純粋な天真爛漫さは、無自覚で人を惹き付けてしまう。
何度、この手の中に閉じ込めてしまえたら···と思ったかわからない。狂気とも思える感情に支配されそうになる。
でも···そんな事をすれば、エルのあの花が咲き誇るような、天使のような笑顔は見れなくなってしまうだろう···。
俺にとって···たった一人。
この世界で、唯一の光であるエル。
彼女を自分の汚い闇に染めたくない。
誰よりも大切な存在だからこそ、壊したくない。
エルの心が、俺だけのものになればいいのに····。
だから俺は、エルを誰よりも甘やかす···。
俺の側から離れたくならないように···。
俺が側にいなきゃダメになるくらい···俺に依存すればいい。
「エル····愛してるよ。誰よりも君を····」
眠るエルの額にキスを落とした。
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