神々の遊戯に巻き込まれ無双した件

杜乃真樹

文字の大きさ
10 / 16

第9話 開戦

しおりを挟む
 セフィーシア城を中心に広がる大森林、外周には何人たりとも立ち入ることができない結界が張られていたが結界は消滅、外部からの侵入を容易にした。

 タイミング的にセクレシアへ転生したことが結界の消滅に関係しているのは間違いなく、偶然とはいえルーファ達が大森林へと逃げ込む助けとなった。

 偶然が重なり生まれた一つの小さな波紋は遊戯神にとって取るに足らない事象の一つでしかない。だがその小さな波紋が一つ二つと増えて行けばやがて大きな波へと変わる。

 そんな小さな波紋の一つ、大森林外周を東に向け移動する一団も三時間程直進すればルーファ達が襲撃を受け南下したルートへ辿り着く。

 痕跡を発見出来れば遅かれ早かれセフィーシア城へと辿り着くだろう。だが痕跡を発見できず、ルートを読み間違え北、または東方向へと進んだ場合、敵の索敵範囲に入ってしまう恐れがある。

 見捨てることを前提とするなら痕跡を発見できずルートを見誤ってくれた方が何かと都合が良いのだが、瞳一杯に涙を浮かべるルーファを見ていると見過ごすことが出来ない。

 対話を主軸としルーファを連れ今すぐ接触を図ると明言すれば守護者達を表面上納得させることが出来るだろう。千差万別、完全に同じ考えを持つ者など存在せず多少の差異はある、だからこそ納得できるだけの根拠を明示することに意味がある。

 何一つ話すことはできないが命を懸けてほしいと懇願されても、信頼関係が構築される前では余程のお人好しでもない限り命を懸けることなど出来ない。

「颯斗様。先程御話になられた一団ですが、何者かの襲撃を受けているようです。ただ、一つ気になる点が・・・・・・」

 レイスからの報告を受け探知範囲を大森林全域に広げ状況を調べることにした。大森林外周の結界消失に伴い時間の経過と共に人や動物、魔物の流入が始まっており反応総数は三百を優に超え現在も増加の一途を辿っている。

 北部外周付近に絞ると三十程度の反応があり動物や魔物以外に限定すれば十一、内訳は今にも消えてしまいそうな弱弱しい反応が九つ、ズバ抜けて強い反応が二つ、その内一つはルーファを襲った獣人と同様の禍々しさを感じる。

「見え透いた誘いに乗るのは癪(しゃく)ですが、静観したところで多少の時間稼ぎにしかならないでしょう。最悪こちらの位置情報を把握される可能性もあります。ここは誘い乗り速やかに殲滅するが上策かと」

「よっしゃーっ!! そんな奴らまとめて俺がぶっ倒してやるぜ!!」
 
「カイ・・・・・・ 単独行動を禁止されているのを忘れたのですか?」

 やる気に満ち溢れ今にも走り出そうにしているカイには申し訳ないがレイスが言うように今回も出番はない。単独行動を好む性格や実力など不安要素が多く簡単に許可を出すことができない。

「颯斗様にお願いがありますニャ」

 普段は暴走気味のカイを諫(いさ)める役に徹していたミィが珍しく神妙な面持ちで話しかけてきた。

「カイの同行をお許しくださいです・・・・・・ 戦わなくても同行できれば自分がどんニャに未熟なのか理解できると思うのニャ」

 安全な任務を宛がうより、多少危険を伴ったほうが成長率という点において明確な差が生まれる。だがそれは現実ではなくゲームでの話であり、危険性を理解しているからこそ簡単に許可することができない。

「ダメですかニャ?」

「貴女もカイ同様、颯斗様の御考えを理解する努力をした方が良い」

「考えってニャンの・・・・・・ もしかして、焼き」

「違います!! ・・・・・・貴女はもう少し颯斗様の御考えを読み解く努力をしたほうがいいと言っているのです」

 何か思いついたのか続け様に何か話そうとしたミィの言葉に被せるようにレイスが声を張る。

 呆れているのは間違いなさそうだが嫌悪感や怒りといった感情はなさそうに見える。思いのほか仲が良いのかもしれない。

 十秒程の沈黙、指摘され自分なりに答えを探し考えが纏まったのか晴れやかな表情をしたミィが話し始める。

「誘い出す理由が陽動ニャら転移での急襲を想定して動くべきだけど、すぐに殺さニャいところをみると襲撃者は単独行動、たぶんこちらの情報は掴んでニャいと思う。だから情報を得られる前に倒せば問題解決ニャ。それと編成は戦闘要員一名、サポート役一名、最低でも二名で対応すれば問題なく倒せると思う。私ならサポート役に適任ですしカイを同行させても対処できます・・・・・・ 戦うのは苦手だから他の人に任せますニャ」

 感情に左右されず状況を踏まえ考えられる中で最良の案を提示する。それが例え間違っていたり多少ズレた答えだとしても自ら考え案を出すことに意味がある。

「際どいですが及第点としておきましょう・・・・・・ 颯斗様、ミィ・アルファウスからの献策けんさく、如何いたしますか?」

「・・・・・・ 今回はミィ、カイ、サティナの三人に任せる。ただし無茶だけはしないように!! 名誉の死なんて望んでないし絶対に許さないからね」

 話し終えると跪き話を聞いていたサティナが立ち上がると真剣な表情でミィに歩み寄る。

「あのお。私、ミィちゃん言っておきたいことがあるんですよねぇ・・・・・・ 今回は大目に見ますけど、また颯斗様を困らせちゃうと・・・・・・ 許さない!! ですよぉ」

 玉座の間全体が高濃度の闇属性魔力に包まれたが一瞬で浄化され消失する。

 純白と漆黒、光と闇を象徴した二翼を持ち清純清楚を絵にかいたような容姿、柔らかく優しい口調、天使族ということもあり常に光属性魔力が薄く全身を覆っている聖女のような雰囲気を持つサティナが発したとは思えない魔力と言葉に、あのミィですら素直に謝罪の言葉を口にしていた。





                大森林北部

「陣形を維持、怪我人は中央へ!! グレイスまだやれるな?」

「無茶ばかり言いやがって。あぁーっ、もう来るんじゃなかった」

 レザーアーマー、薄汚れたフード付き外套がいとうに身を包んだ獣人の男は鋼鉄製の剣を構え陣形を立て直すべく声を張り仲間を鼓舞し続ける。だが姿、気配、殺気、何も認識できない攻撃を受け一人、また一人と力尽き崩れ落ちていく。

 手持ちの治癒ポーションは既に使い果たし魔力も枯渇寸前、辛うじて立ってはいるが気を抜くと意識が飛びそうになるのを精神力だけでねじ伏せているが限界は近い。

「ウィクス。す、すまん。先に寝る。あ、後は頼ん、だ・・・・・・」

「グ、グレイス⁉」

 幼少期から共に切磋琢磨してきた親友であり戦友のグレイスが力尽きその場に崩れ落ちた。互いに支え合っていたからこそ極限状態でも折れることなく立っていられたが支えを失ったことで心が絶望へと向かい加速していく。

「ここまでか・・・・・・」

 負荷が大きければ大きい程、小さな亀裂は瞬く間に巨柱を蝕み急速に倒壊へと向かわせる。倒れ身動きが取れない九名を連れ離脱することは不可能、責任感、人間性、その全てが重い枷となり選択肢を極限まで狭めていった。

 その時、前方に薄気味悪い魔力を持つ獣人らしき人物が姿を現す。全身を斑模様の体毛に覆われ装備どころか服すら着ておらずウィクスが知る同胞とは明らかに違っている。

「今はこれで我慢しろ!! すぐに大物が釣れる・・・・・・」

 小声で断片的、何を話しているのか分からないが言葉を発している点だけで獣人だと判断した。自身の知識が全てじゃないと自分自身に言い聞かせ同胞だ、助かったのだと思いたかっただけなのかもしれない。

 獣人が現れてからというもの先程まで執拗に繰り返された攻撃は鳴りを潜め時間の経過と共に絶望が希望へと変化していった。

「助かった、のか・・・・・・」

「んな訳ねえだろ!! 用が済めば全員殺す。その前に・・・・・・」

 希望は絶望の中見出してしまうと再び立ち向かう力を奪う毒となることがある。抗う事すらできない絶望的状況下で有ればあるほど猛毒となり心を殺す。

 剣を握るどころか言葉を発するだけの体力すら残されておらず、歩み寄る獣人に抗おうとする心は完全に消えさり最後の時を待つことしかできなかった。










                大森林北部 転移地点

 微かに聞こえるうめき声、辺りには薄っすらと鉄錆のような臭いが漂い、微かな残留魔力を残すのみで人の姿は見えない。

「この先みたいニャ」

「腕が鳴るぜ!!」

「見学は黙ってるのニャ!! そんな事より翼隠さなくて良いのかニャ?」

 天使族は神の使い、畏怖の対象とされることもある為、翼を隠すようにとレイスから命を受けているにも拘らず隠そうとせず、サティナはじっと森の奥を見つめ、問い掛けに一切反応を示さない。

 心配になり再度話をしようとするがサティナの表情を見てミィは考えを改める。その歓喜に満ち溢れた表情を見て変質的な恐怖を感じてしまう。

「・・・・・・ 怖いニャ」

「? 何かありましたあ? あちらは準備万端でお待ちの様ですし、そろそろ行きましょうかあ。それと翼は隠しますから安心してくださいね」

 何事も無かったように森の奥へと向かい歩き始めたサティナの後を追いミィとカイも歩を進める。二分ほど進むと戦闘の痕跡が色濃く残る場所に辿り着く。鬱蒼うっそうと茂る木々、更に二百メートルほど進んだ先は少し開けており弱弱しいが人の気配を感じる。

「いい加減出てきたらどうニャ!! 覗き見とか気持ち悪いのニャ!!」

 進行方向右手にある木々のほうへ、ミィは嫌悪感を滲ませ虫でも見るような険しい表情で辛辣な言葉を投げかける、すると両手を上げた狐の獣人が姿を現す。

「驚かせて申し訳ない。俺はウィクス、依頼を受け仲間と森に入ったのは良いが魔物の襲撃にあっちまった。近くの街まで助けを呼びに行こうとしていたら声が聞こえたんで様子を見に来たって訳さ。そこで相談なんだが、もし治癒ポーションに余裕があるなら分けてもらえないだろうか? もちろん代金は言い値で払う」

「それはお困りですね。ポーションは持ち合わせておりませんが治癒魔法が使えますのでお役に立てると思いますよお」

「それは本当ですか? もし可能であれば力を貸して頂きたい。正直、助けを呼んで戻るだけの時間がない・・・・・・」

 笑顔で話を続けるサティナの話に割って入らず、怪訝けげんな表情を浮かべカイの動向を注視するミィにとって獣人が何者だろうと関係ない。勝てないと判断した時点で退却する腹積もりでいるからこそ、迅速な状況判断が重要となる。

 そんなミィの思いを知ってか知らでか、カイは珍しく何の口出しもせず話を聞くことに徹し、案内されるがままサティナと共に森の奥へと向かい歩く。

「本当に助かりました。皆さんと出会ってなければどうなっていたか・・・・・・ そうだ、この周辺で戦闘の痕跡のようなものを見かけませんでしたか? 賊に襲われた捜索対象者がこの辺りに身を隠したという情報を得たもので」

「この辺りで戦闘の痕跡ですか? うーん。見ていないですねえ」

 知らないのであれば仕方ないと笑いながら狐の獣人は森の一角、テニスコートほどの開けた場所へと案内すると深々と頭を下げる。

「頼む。仲間を助けてくれ・・・・・・」

 獣人の言葉に返答することなく中央付近で倒れている者達の傍へとサティナ達が歩み寄った次の瞬間、小規模な爆発が次々と起き大量の土煙が舞い上がると辺り一帯を飲み込んだ。

 一瞬で視界は奪われ一メートル先すら視認することが出来ない状況に陥ると同時に鋭い金属音が響き渡る。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...