パラサイトシングル

杜乃真樹

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第11話 不都合な真実 前編

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 荒れに荒れたファイバーの配信が終わった後、配信することなく眠りについた。

 有名な配信プラットフォームと違い誰でも簡単に始めることができ全員が配信者でありリスナーだからなのか距離が近いのだろう。

 しゃち子のように配信したり視聴して楽しむという本来の目的から逸脱した人は比較的コミュニケーションを取りやすいアプリに必ず一定数存在している。

 問題は出会い厨と呼ばれる人との距離感なのかもしれない。

 どう接しどう対応するのか。トラブルを呼び込みそうだと判断したなら問答無用で即ブロックするのも自分だけじゃなくリスナーを守る手段の一つだと言える。

 判断材料が少なく見誤る事だってあるだろう。だがメタバースという世界だからこそ数回コメントを見ただけで本質が見てくることもある。

 例えば挨拶の有無、何万人も同時接続しているライブ中継なら考えられなくもないがリインカーネーション等の配信アプリなら人気配信者でも精々数十人。

 タイミング次第では一桁人数の場合だってあるのだから最低限のルールとマナーが守れなければ遅かれ早かれ問題を起こす可能性が他のリスナーより高いと判断されても仕方のない事かもしれない。

 という具合に昨日のファイバーの配信を思い出し自問自答しながら出かける準備を進めている。

 今日は配信で使える話のネタ探しを兼ね、隣町に去年オープンした商業施設まで足を延ばし連日行列ができるという評判のラーメンを味わおうと思っているのだが、日曜ということもあり相当な人数、並んでいるんじゃないだろうか。

 現在時刻は午前十時、出発するには少し早いのだが行列に並ぶことを考えれば丁度いい時間とも言える。

 商業施設までは最寄りのバス停から乗り換えなく行け片道三十分、歩いていくには遠くバス移動が最善策だろう。

 そして最寄りのバス停からバスに乗り到着した時刻は十一時五分。ラーメン店の開店時刻は十一時、今なら行列ができていたとしても大して待たずに食べられる。

 ラーメン店へ向かい歩いているとショルダーバッグに入れていたスマホから着信を知らせるが音が聞こえてきた。

 どうせ母親か華純が何か買ってきてほしいと頼みごとをするために連絡してきたのだろうと思いながらスマホを取り出してみると驚くことにファイバーと表示されていた。

 何度か電話で話したことがあるが毎回電話前にDMで電話して良いか聞いてくれていたこともあり珍しいと驚きながらも電話に出ることにした。

「もしもし今、少し話せますか?」

 いつもの明るい雰囲気と違い落ち込んでいるような口調で元気が無く、何か聞いてほしそうな雰囲気が伝わってくる。

「今、外出してて・・・・・・ そうだ!! 暇してるなら飯でも行かない? 風流軒っていうラーメン屋に向かってたんだけど場所が分からなくてさ」

「その店のラーメン、凄く美味しいですよ。俺、行ったことあるんで案内出来ますよ」

 時として口実というものが必要になる。誰かに話を聞いてもらいたいと思っていても申し訳ない気持ちから言い出せない。

 そんな気持ちを何度も経験してきたからこそラーメン店への道が分からないと伝えることで口実を作ることにした。待ち合わせは電話しているときに目に入ったカフェ、別の場所にしても良かったのだが本当に迷子になったら笑えない。

 バス停のすぐ傍の路地を入ったところにあるそのカフェは、知る人ぞ知るといった感じでファイバーが行ったことがなければ待ち合わせ場所にはしていなかっただろう。

「いらっしゃいませ」

 店内はジャズが流れ落ち着いた雰囲気で店主と思われる白髪の男性が出迎えてくれた。入り口付近の席に座るとコーヒーを注文しファイバーの到着を待っていると同年代と思われる男性が入店してきた。

 そして後を追うように女性が一人してきて先程入ってきた男性が座るテーブルへと向かい腰を下ろす。

 待ち合わせに使われているところをみると、やはり知る人ぞ知る店なのかもしれない。落ち着いた雰囲気、出されたコーヒーも美味しく客も少なく居心地の良い店と出会えたのはラッキーだった。

 コーヒー一杯でファイバーが到着するまで凌ごうと思っていたがあまりの美味しさに飲み干してしまい追加注文していると聞き覚えのある名前が聞こえてきた。

「しゃち子さんって綺麗ですよね。モテるんでしょ?」

「そんなことないですよ。結婚してますって話すと引いちゃう人多くて」

 似たような名前を聞き間違えたのだと思いたかったが聞こえてくる話は否定するための要素ではなく確定するに足りる情報の数々と信じられないような話の数々。

「以前、ファイバーって人に言い寄られて喧嘩したって言ってたから」

「あぁ。あの人、ホントしつこいのよね」

(やばい。早く店を出なきゃ・・・・・・ いやその前に待ち合わせ場所を変えよう)

 連絡を取り待ち合わせ場所を変更してもらおうと思った次の瞬間、店の扉が開きファイバーが入ってきた。

「すみません。少し渋滞してて遅くなり・・・・・・ おいっ!! そいつ誰なんだよ」

 ファイバーの視線はしゃち子と男性の方へ向けられ強い口調を投げかけている。

 先程、連れの男性に話していたことが真実だったのだろうか。

 親しくなったばかりで本名すら名乗り合っていないのだから知らない顔があるのは至極当然の事なのかもしれないが、リスナーの前で話していた事とのギャップに思考が追い付かない。


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