異界一の危険な一冊の本を託された!

勝手丸翠那

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迷惑メールからの強制招待状

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吹雪いている雪山の山頂に一人の女性がへたり込んでいる。

「なんで……こんなことに……」

黒髪の女性、彼女は安井凛という。
雪山の山頂にいるはずのなのにそこのコンビニまでいってきますという感じの薄いパーカー、ジーンズの姿をしているが寒くなさそうだ。
息を吐く彼女の顔は絶望をしていた。
『カミサマや天使サマもひでぇことしやがるよな。無作為に選んだニンゲンにさ』
彼女の脇から声がする。
だが、あるのは煌びやかな銀細工と宝石を施されたの分厚い辞書のような一冊の本が無造作に置いてあり、それがバカバカと派手な音を立てて笑いながら話している。
『軍隊の一員だったり、政治に詳しいヤツだったら世界無双できるのになー』
はやし立てる本に凛は無言で拳でぶん殴るとイデェッと叫びが吹雪く雪山に響いた。


こんなファンタジーな喋る本を託される数時間前。
安井凛は東京近郊に近いアパートの一室にいた。
彼女は休みもなく残業も働いたが翌年の春、精神的に心と感情が死んでしまった。
働いていた仕事を辞めて借りた部屋も解約し、故郷に帰ろうと荷造りをしていた。
片付けがそろそろ佳境に入ってきたところにスマホがメールが届いた音が聞こえたので休憩がてらにスマホを見た。
学生時代の友人らからではなく一通の迷惑メールであった。
タイトルは『勇者ではない冒険者を募集!』と書かれてあった。
いつもはメールを開かずに捨ててしまう凛はその内容が気になり、メールをあけてしまった。
内容は『まるでゲームのような世界観で魔導書を片手に好きなところへ旅ができます。他種族の仲間やペットも飼えて自分の家も作れるぞ!』
凛はとあるオンラインゲームの新しいシリーズかと閉じようとするがメールの戻る項目がなくなっていた。
するとメールがどんどん、下へ下へ内容が流れていく。
『自分が正義の味方でも悪の魔王になれる世界、自分だけの楽園を手に入れたくないですか?』
スマホが乗っ取られたのかと電源を切ろうとするがなぜか切れない。
不安に泣きそうになっている凛のスマホは文字の羅列でいっぱいになっていく。
『おめでとうございます。あなたは「自身の境遇の改善」を願ってますね。そんなあなたにはエデニアの世界に招待しましょう』
この文字と同時にスマホを窓から外へ放り投げた涙目だった凛はホッとした顔をしたが部屋の中の様子が変わっていた。
見慣れた部屋が半分真っ白い空間に浸食されかけていた。
「なぜ、その四角の小さな箱を投げたのですか。その手紙を開いた時点であなたに拒否も首肯もないのですよ」
最古の宗教画で見たことのあるような天使が凛が投げたスマホを不思議そうな顔で持って立っていた。
「アナタは誰ですか。ぼ、僕を…僕をどうするんですか?!」
言葉は理解できていないというニュアンスで絞り出して距離をとる。
その問いに天使は微笑むと同時に部屋が真っ白い空間に完全に浸食されてしまう。
小さな悲鳴をあげる凛に諭すように答えた。
「どうするも何も。この魔導書をあなたに授けましょう。その代わりにとある世界を旅をして欲しいのです」
手をかざすと南京錠みたいな錠にロックされ、鎖に巻かれたハードカバーの本を現れた。しかも、宙に浮いている。
「自由に生きるのもよし、国を治めるのもよし、自分の欲を満たすのもできます」
大小様々な光の球が現れ、ふんわりと天使の周りを浮遊している。
不安そうに不審者を見ている視線を向けてる凛を怖がらせないように光の球を侍らせてる微笑んでいる天使。
 沈黙が流れる中、とてもシュールな絵面である。
「他の人でもいいじゃないですか!」
声を荒上げたのは凛の方だった。
「そもそもアナタは何者なんですか!信用してくれって言われたってできないんですよ!」
怒って地団駄を踏みたい彼女に天使は困ったような顔をした。
「これは失礼しました。手紙の送り主の使いの型番号はU型四号です」
困惑した顔をしたのを尻目に天使……U-四としよう。彼はにっこりと微笑むと同時に宙に浮いてる本の南京錠に光の球が集まり出した。

ガチャンッ

重々しい錠が開く音がした。
本のハードカバーがあき、バラバラと一枚一枚めくれていく。
「さて、あなたにはこの世界ではない違う世界でこの本を持ち旅をしていただきます」
「きょ、拒否します!」
間髪言わずに言ったのと同時にページがピタッととまる。
凛側にそのページはイラストで人の手が親指を立てているというものだった。
「おやおや、この本も興味がでてきたそうですよ」
気を失いそうになっている凛にU-四は微笑みかけた。
「自己紹介は後で本人がするでしょう。この世界では言葉を話せられませんし」
パタンと本が自分の意思で閉じたようで音もなく凛のそばに落ちた。
重量のある音に凛はビクッと肩を震わせた。
「先ほどの質問を返答をしましょう」
微笑んでいたU-四はスッと真顔に戻った。
「今、エデニアにて人々が争い、神々が住む場所まで犯そうとしています」
そのエデニアという世界の地図が表示される。
「人々の一部は私利私欲のために人々を殺害してます」
地図に広大な大地があり緑から赤へ、色が変わっていく。
「挙げ句の果てには眠りについている創造神やきちんと政治や盟約を結んでいる魔王を倒せばかなりの地位を約束するという愚かな者が生まれ落ちました」
陸の一面が真っ赤に染まり、 ドクロのマークが現れた。
どうやらゲームオーバーを表現しているらしい。
狼狽している凛を眺めてからU-四は寂しそうに微笑み、赤く染まった地図を消した。
「ですので、あなたにはこのエデニアを救って欲しいのです」
説明できたという満足げなU-四に対して凛は迷惑メールから発生した違う世界を救え、という言葉に震えていた。
「詐欺じゃないですか!」
吠えるように叫ぶとまだわかりませんか、という顔をされる。
「いいえ、どの陣営につくかによっては一国の王なんて余裕ですよ」
パキンという音がしたと思ったら、凛側の白い空間が割れた。
「その手にしてる本、あなたが望めば『なんでも叶う』代物……」
このままではラチが開かないと判断したようだ。
「その選択があなたにとってよきことを最果ての地より祈ります。凛さん」
名前を呼ばれた凛はU-四を見ようとするが暴吹雪が顔に当たりその雪を払い除けてU-四を見るがU-四の姿がなく、空間もなくなっていた。



そして、本がぶん殴られたところである。
利き手の右手をさすりながら凛は泣き出しそうな顔でまた、本をぺちぺち殴る。
『いででででっ。やめてくれっ』
どうやらこの本、物理ダメージはいるようだ。
『いいのか、オレの魔法で寒さやら暴風やらを防御してやってるんだぞ』
ムッとした顔をしていたがぺちぺちとやっていた手を止めると本はため息を吐くように金属製の装飾が擦れる音がした。
本が喋ったという現実を信じられずにじっと見た。
『お前がいる世界では本が喋らないのは当然のことだろうな』
ガチャンガチャンと楽しげに装飾が擦れる音に凛はげんなりとした顔をした後にポツリと呟くように言う。
「……ファンタジーの世界の住人じゃないので知らないわ」
まじめ腐った返答を聞いた本は装飾が擦れる音がやめてしまい、しばらく暴風の音が当たりを包んだ。
先に口を開いたのは本の方であった。
『それよりもオマエの名前は安井凛か。……仕事を辞めて田舎に帰る引越し準備の最中だったのか』
凛の名前とこれまでの経緯が綴られているページが開かれてそれを見た凛は驚いた。
「な、なんで僕のことが書かれてるの?」
頭が真っ白にながらもそのページに触れる。
『それはオレにもわからん』
触れられた本はくすぐったそうに紙が震える。
『オレの名前は「悪魔の魔導書デーモン オブ グリモア 」。よろしく頼むぜ』
悪魔の魔導書と名乗った本を見つめて言葉を出そうとした次の瞬間、空から複数の獣の咆哮が響いた。
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