【R18】【挿絵多い】理想の女

まへまへ

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第19話 仕事終わりの一緒の夕食

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麗子が机の上の指先を見つめながら唇を噛んでいたそのころ――。

一平もまた、会社のデスクに座り、パソコン画面を前にしていた。

だが、仕事の内容はほとんど頭に入ってこない。

ふとした瞬間に思い出してしまうのだ。
(あのときの俺……)

赤いラバーに包まれた自分の身体。

ヒールの高さでふらつきながらも、白いカラコン越しに麗子を見つめていた。

あの視線――。

本当に自分が“女”として見られている気がして、背筋に電流が走った。

「うっ……」

思わず、手元のマウスを握りしめる。

隣の同僚が不思議そうに振り向いたので、慌てて咳払いして取り繕った。
(やばい……俺、顔赤くなってる……!)

画面に映る自分の反射を横目で確認すると、耳まで真っ赤になっているのがわかった。

ただ見られていただけなのに、あんなに高揚した。

声を震わせながら「女同士にして」と口にしたときの、あのゾクゾク感――。

「……」

ペンを持つ手に力が入り、文字が滲む。
(麗子に……また見られたい。俺を、あの化け物の女として見てほしい……)

胸の奥で湧き上がる欲望に、自分でも震える。

夫として、男としての自分がかすれていくような感覚。

怖いはずなのに、逆にそこへ堕ちていくのが心地よかった。

(……次は、アキになって街に……)

机に向かっているはずなのに、頭の中ではもう別の世界が広がっていた。

金髪のウィッグ、黒いラバーのシリコンスーツ。

昨日、麗子が見せてくれた“アキ”の姿に自分が重なる。

街を歩き、誰かの視線を浴びる――そんなイメージが浮かんだだけで、背筋がぞくりとした。

(夢みたいだよな……俺が“アキ”になって外に出るなんて)

胸の奥が熱くなる。

けれど同時に現実的な問題も突きつけられる。

(でも……着る服、ないじゃん……)

ラバーやスーツはあっても、それはあくまで“内側”。

街に出るなら、当然“外に着る服”が必要だ。

しかし、さすがに麗子の服はサイズが小さすぎる。

袖を通すことさえできないだろう。

(あの身体に合う服……ちゃんと揃えなきゃダメだよな。でも俺が自分で買いに行くとか……絶対無理だし……)

想像すればするほど、現実の壁にぶつかって苦笑してしまう。

頭をかきながら、ひとり溜息をついた。
(どうしよう……。でも……やっぱり、やってみたい。アキになって、麗子に隣を歩いてほしい……)

胸の奥にしまいきれない想いが、じわじわと膨らんでいくのを感じていた。

ーーーその日の夕食

仕事を終えて家に戻ると、台所からいい匂いが漂ってきた。

テーブルには、麗子が用意した肉じゃがと味噌汁、焼き魚。

「おかえり」と微笑む麗子の姿に、ほんの少しだけ胸のざわめきが和らいだ。

二人並んで箸を動かす。しばらくは仕事の話や、同僚の愚痴。

いつもと変わらない会話なのに、一平の頭の片隅にはずっと“アキ”が残っていた。

ふと、麗子が箸を置いて一平を見た。

「……で、どう? 昨日言った“練習”の話」

「……ああ、アキになるってやつ?」

不意を突かれて、少し箸を止めてしまう。

麗子はくすりと笑う。

「そう。やっぱり想像した?」

一平は咳払いで誤魔化したが、頬が赤くなるのを止められなかった。

「……したけどさ。街に出るなんて、無理だよ。服もないし」

「服?」

麗子は首を傾げて、わざといたずらっぽく笑った。

「もしかして……ちゃんと“街仕様のアキ”になりたいってこと?」

「ち、違うって!」

慌てて声を荒げるが、余計に図星だと悟られる。

麗子は唇を押さえて笑いを堪える。

「ふふ……可愛い。想像だけで赤くなっちゃうなんて」

「……からかうなよ」

一平は視線を逸らすが、胸の奥に熱が灯る。

自分の妄想を言い当てられて、恥ずかしいのに否定しきれない。

麗子は柔らかい声で続けた。

「大丈夫。服のことなら、私が考えてあげる。だから――一歩ずつでいいの」

その一言に、一平の胸はきゅっと締めつけられた。

安心と同時に、また“赤い髪の化け物”や“アキ”の姿が頭に浮かんでしまい、箸が止まる。

一平が再び箸を動かし始めたころ、麗子は湯気の立つ味噌汁をすすり、ふと視線を横に流した。

その横顔を見つめながら、胸の奥に押し込めた欲望が、じわりと頭をもたげる。

――あの夜の“赤い髪の化け物”。

思い出すだけで心臓が跳ねる。

けれど、それを悟られるわけにはいかない。

「ねえ、一平」

唐突に口を開く。努めて明るい調子を装った。

「アキの練習もいいけど……またさ、あの“化け物”の姿も見たいな」

一平は箸を止めて、驚いたように顔を向ける。

「……え? 化け物って……」

「うん、赤い髪に、黒い肌のあれ」

麗子はさらりと笑ってみせた。

「正直、あの完成度にはびっくりしたの。怖いくらいだったけど……でも、不思議と目が離せなかった」

一平は耳まで赤く染めて、俯く。

「……そんなに、良かったのか?」

麗子は頬杖をついて、わざと軽い調子で返す。

「良かったっていうか……インパクトが強すぎて、忘れられないって感じ」

心の中で――
(本当は、もう一度見たい。あの“化け物”に惹かれてしまった自分を隠しながら)――

必死に取り繕った。

「だからさ」

麗子は茶碗を持ち直し、笑って言った。

「また見せてよ。一平の……赤い化け物」

一平の胸に、戸惑いと高揚が同時に広がった。

一平は少し考えるように箸をいじり、ふっと口角を上げた。

「……なあ麗子」

「ん?」

「もしかしてさ……“見る側の気持ち”がちょっと分かったんじゃない?」

麗子の手が一瞬止まる。

「は?」

一平はケラケラと笑い、からかうように身を乗り出した。

「まさか……あの赤い化け物の俺に惚れたんじゃないだろうな?」

「ちょっ……!」

麗子は顔を真っ赤にして慌てて茶碗を置いた。

「な、何言ってんのよ、バカッ!」

一平は机を叩いて大笑いする。

「いやー、麗子の顔、分かりやすっ! 完全に図星だな」

「ちがっ……! ちがうってば!」

麗子は必死に否定するが、耳まで赤く染まっているのは隠せなかった。

「ほら見ろ。ノックアウト~」

一平は勝ち誇ったように両手を広げ、楽しそうに笑う。

麗子は頬を赤らめながらも、意地で顔を上げ、一平の目をじっと見つめた。

「ふん、じゃあ私も一言だけ言ってあげる……」

「お、何だ?」

一平は身を乗り出して身構える。

「一平こそ……あの姿、楽しんでたでしょ?」

麗子は小さくニヤリと笑う。

「女になりきって、ラバーに包まれて……私の前で、めちゃくちゃに興奮してたくせに」

「えっ……な、なにそれ!」

一平は慌てて手を挙げるが、麗子は追い打ちをかけるように声を低く、甘く響かせた。

「見てるだけじゃなくて……触って、私に女の気持ちを教えてくれたくせに……」

「そ、そんなことない!」

一平は必死に否定するも、赤面で言葉が詰まる。

「嘘つき~」

麗子はからかい半分、楽しみ半分で肩に肘をぶつける。

「もう、見られてる方も見てる方も……どっちも倒錯してるんだから、仕方ないね」

一平は顔を手で覆い、声にならない笑いを漏らす。

「くっ……麗子……あんた、やり返すの上手すぎる……」

「ふふ、そうでしょ? ほら、私のほうがまだ上手よ」

麗子は再びニヤリと笑い、一平を見据えていたが、胸の奥で――“図星を突かれてしまった”動揺が渦巻いていた。
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