【R18】【挿絵多い】理想の女

まへまへ

文字の大きさ
25 / 46

第25話 外の世界に晒されるアキ

しおりを挟む
ドアノブに手をかけた瞬間、アキの心臓は大きく跳ねた。

外に出れば、もう後戻りはできない。

ここまで作り上げてきた“アキ”という姿が、初めて本当の意味で人目に晒されるのだ。

――カチャ。

ドアが開くと、朝の空気が一気に流れ込んできた。ひんやりとした風が頬を撫でる。

普段なら何気なく感じる空気なのに、今日はまるで全身を透かされるような感覚に変わっている。

アキは恐る恐る一歩を踏み出した。

アスファルトにヒールの音が軽く響く。

その小さな音さえも、まるで街中に宣言しているかのように大きく感じられる。

「……見られてる……?」

誰もいないはずなのに、背中に無数の視線を感じてしまう。

頬が熱くなり、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。

それでも――隣には麗子がいる。

笑顔で腕を引き、軽やかに歩き出す彼女の存在が、緊張に押し潰されそうな心を支えてくれる。

不安と同時に、胸の奥に広がっていく高揚感。

「いま、私は……アキとして外に出たんだ」

その実感が、震える足を前へと運ばせていた。

玄関を離れ、二人並んで歩き出す。

ヒールのコツコツという音が、静かな住宅街に小気味よく響いた。

ただ歩いているだけなのに、アキの胸は早鐘のように打ち続けている。

――私は、女の子として歩いている。

それだけの事実が、全身を熱くし、同時に凍らせもする。

視線。

誰かが窓から見ているかもしれない。

角を曲がれば、誰かとすれ違うかもしれない。

普段なら何でもない道が、今日は舞台のランウェイのように思えて仕方がなかった。

「落ち着いて。普通に歩いてれば、誰も気づかないわ」

隣で麗子が小声で囁く。その言葉に少し救われる。

けれど、救われながらも――

胸の奥では、ぞくぞくするような高揚感が膨らんでいく。

もし気づかれたらどうしよう。

もし“男”だと知られたら――。

……でも、それでもいい。

今の私は“アキ”なんだ。

心の中でそう繰り返すと、恐怖と背中合わせのスリルが甘美に変わっていった。

足音が一歩ごとに、自分の存在を確かめるように響く。

街の景色も、空気の匂いも、何もかもが違って見えた。

細い住宅街を抜けると、遠くから車の音と人の話し声が聞こえてきた。

曲がり角を過ぎると、そこには人通りの多い大通りが広がっていた。

アキの喉がカッと乾く。

通勤の人、買い物帰りの主婦、部活に向かう学生――それぞれが思い思いに歩いている。

ただそこに混ざるだけなのに、世界が一気に眩しく見えた。

「……行こう、アキ」

麗子が軽く腕を引く。

一歩、踏み出す。

そしてすぐに、無数の視線が自分に突き刺さったような錯覚に襲われた。

男性の目が、女性の目が、自分の姿を確かめている――

そんな気がしてならない。

胸が早鐘を打つ。背筋が硬直する。

けれど、どこかで理解している。

大半の人はきっと気にも留めていない。

視線を感じているのは、自分の心が勝手に作り上げた幻かもしれない。

……なのに、それがたまらなくスリリングだった。

「私はいま、完全に女として人混みに紛れてるんだ」

その実感が、恐怖と同じくらいの熱をアキの心に与えていた。

麗子が横で、何気ない顔をして歩いている。

その自然さが、アキにとって何よりの救いだった。

アキは胸の奥のざわつきを押し込めるように、心の中で繰り返した。

――大半の人は、きっと気にも留めていない。

そう自分に言い聞かせながら、視線をまっすぐ前へと向ける。

けれど、人とすれ違うたびに――ほんの一瞬、相手の瞳が自分に向く。

学生も、買い物袋を下げた主婦も、仕事帰りの男性も。

アキの横顔、髪、脚、全体をちらりと目で追っていく。

「……っ」

アキの心臓はまた跳ね、緊張で喉が詰まる。気づかれた? それとも怪しまれた?

だが隣を歩く麗子は、内心で別のことに気づいていた。

――違う。これは不審の目じゃない。

すれ違う人たちが視線を向けるのは、アキが“綺麗な女性”だから。

金髪の艶やかな揺れ。細い首筋。自然に揺れるスカートの裾。

すべてが目を引き、思わず視線を奪う。

それは疑いの眼差しではなく、ただ美しいものに向けられる純粋な好奇心と称賛。

麗子は横目でアキを見て、口元を緩めた。

「……ふふ、やっぱりアキ、ちゃんと女の子に見えてる」

アキはその言葉の意味を理解できず、困惑したまま歩を進める。

でも頬の熱は、不安だけではないものに変わりつつあった。



アキの歩幅は自然だが、無意識に背筋が伸びている。

ヒールを履いたせいで身長はさらに高くなり、女性としてはかなりの長身。

補正下着のおかげでウエストはきゅっと引き締まり、ヒップや胸のラインも理想的に整っている。

街の中で見る人々の目線が、思わずアキに留まるのも無理はない。

金髪の髪は朝の光に反射して輝き、顔立ちは言わずもがな美しい。

整った眉、長いまつげ、透明感のある肌。歩くだけで、どこか華やかな空気をまとっている。

麗子は横で、その光景を面白そうに見ていた。

「……本当に、目立つわね」

声には笑いが含まれている。

「いや、アキ……いや、一平、あなたって……」

アキ自身はまだ人目に慣れていないせいで、少し緊張し、歩くたびに視線を感じて心臓が高鳴る。

けれど、その緊張が、どこか背中を押すような昂揚にも変わっていた。

「私……本当に、女の子としてここに立ってる……」

心の中でそう呟くと、視線の熱に照れながらも、自然に胸が張り、歩みを止められなくなる。

麗子は微笑みながら、そっとアキの腕に触れた。

「ね、言ったでしょ。大丈夫。ちゃんと女の子に見えてるんだから」

アキはその言葉に少しだけ安心しながらも、目立つ自分の姿に内心でドキドキしていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

名もなき春に解ける雪

天継 理恵
恋愛
春。 新しい制服、新しいクラス、新しい友達。 どこにでもいる普通の女子高生・桜井羽澄は、「クラスにちゃんと馴染むこと」を目指して、入学早々、友達作りに奔走していた。 そんな羽澄が、図書室で出会ったのは—— 輝く黒髪に、セーラー服の長いスカートをひらりと揺らす、まるで絵画から抜け出したような美しい同級生、白雪 汀。 その綺麗すぎる存在感から浮いている白雪は、言葉遣いも距離感も考え方も特異で、羽澄の知っている“普通”とは何もかもが違っていた。 名前を呼ばれたこと。 目を見て、話を聞いてもらえたこと。 偽らないままの自分を、受け入れてくれたこと—— 小さなきっかけのひとつひとつが、羽澄の胸にじわりと積もっていく。 この気持ちは憧れなのか、恋なのか? 迷う羽澄の心は、静かに、けれど確かに、白雪へと傾いていく—— 春の光にゆっくりと芽生えていく、少女たちの恋と、成長の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...