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第2話 順子のライブ配信
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その夜。
順子はいつものように自室の机にスマホを立てかけた。部屋の外は静まり返り、両親はまだ仕事で帰っていない。
ベッドの上に置かれた黒いラバー製のマスク。
彼女は迷いなくそれを手に取り、頬に触れる火傷跡を覆い隠すように顔へとつける。
次にワインレッドのサングラスをかけ、髪をアップスタイルに変更する。
「……よし」
鏡の中に映るのは、もう順子ではない。
サングラスで目はワインレッドの濃いレンズを通してわずかに見える。口はラバー製のマスクで覆う。
いつもなら人目を避けて俯く顔が、今は堂々とこちらを見返していた。
配信用アプリを開き、カメラの赤いランプが灯る。
「こんばんは、ラバーマスクガールです!」
明るい声が部屋に響いた。
順子の胸はドキドキしていたが、それは恐怖ではなく、抑えきれない高揚感だった。
――今日は嬉しいことがあった。
クラス替えで理恵と一緒になったこと。
悟に「よろしくな」と声をかけられたこと。
理恵が「応援してあげる」と笑ってくれたこと。
その全部が、順子を弾ませていた。
「ねえ、みんな! 今日は最高の一日だったんだよ!」
画面越しに、彼女は手を振る。
コメント欄には「かわいい!」「声が元気!」と次々に文字が流れていく。
素顔ではとてもできないことを、順子はマスクの向こうで自由に楽しんでいた。
その笑顔は、火傷跡に縛られた彼女自身へのささやかな反抗のようでもあった。
ーーーーーーー
配信は夜遅くまで続いた。
画面越しに集まるリスナーたちは、誰も順子の顔の火傷を知らない。
ただ、ワインレッドのレンズから覗く目元の輝きと、明るく響く声だけがすべてだった。
「学校で嫌なことがあっても、ここに来れば元気になる!」
「ラバーマスクガールちゃん、今日も可愛い!」
「もっと話して~」
次々に流れるコメントに、順子は自然と笑みをこぼす。
(ここでは誰も、私を傷跡で判断しない……)
普段の学校生活では下を向き、声を小さくして存在を消そうとしている自分。
けれど、この場所では違った。
マスクの下に隠れている限り、順子は自由だった。大胆で、明るく、誰とでも気軽に話せる。
「……今日ね、クラス替えがあったんだ」
順子はリスナーに向かって、素直に話し始める。
「大好きな友達と一緒のクラスになれて、すごく嬉しかったの」
コメント欄には「よかったね!」「友達大事!」と温かい言葉が並ぶ。
そしてほんの少しだけ勇気を出して付け加える。
「……それから、気になる人にも、声をかけてもらえて」
一瞬、順子は照れ笑いを浮かべてマスクに手を当てた。
リスナーたちは「おお!」「恋の予感?」「きゃー!」と盛り上がる。
(素顔じゃ絶対に言えないことも、ここなら話せるんだ……)
順子にとってこの場所は、孤独な食卓の寂しさを埋める時間であり、
「火傷のある順子」ではなく「ラバーマスクガール」として生きられる、もうひとつの居場所だった。
配信を終えてマスクを外した時、頬の痕は相変わらずそこにあった。
だけど、胸の奥にはほんの少し、温かい灯が残っていた。
ーーーーーー
翌日の教室。窓の外から春の柔らかい光が差し込み、生徒たちの声と鉛筆の音が静かに混ざっている。
理恵はいつもの明るい笑顔で順子の隣に座った。
「ねえ、今日こそ悟と話してみたら?」
順子は心の中でドキドキしていた。昨夜のラバーマスク配信で感じた高揚もまだ胸に残っている。
「う、うん……」
小さく頷くだけの順子に、理恵はにこやかにウィンクする。
すると、教室の後ろから「おはよー!」と元気な声が響いた。悟が二人の机に近づいてくる。
「おはよ、順子、理恵。昨日はありがとう、教室で会えて嬉しかったよ」
順子の心臓は跳ねた。嬉しさと緊張で、声がうまく出ない。
理恵が微笑みながら目で「大丈夫だよ」と伝える。
しかし、その瞬間、順子の心の中に突然、不安と羞恥が混ざり合った。
(火傷の跡を見られるのが怖い……自分をさらけ出す勇気はまだない……)
咄嗟に口が開いた。
「……もう、二度と私に話しかけないで」
悟の顔が一瞬、固まる。目がほんのわずかに曇った。
「え……? 俺、嫌われたのかな……」
理恵は慌てて順子の肩に手を置いた。
「順子……!? 大丈夫?」
順子はうつむき、机の端を握りしめる。
胸の奥は昨夜のハイテンションな自分とは真逆の、冷たい孤独でいっぱいだった。
悟はその場でしばらく言葉を失ったまま、順子をじっと見つめる。
その視線は怒りでも軽蔑でもなく、ただ「どうして?」という戸惑いだけを残していた。
理恵は小声で順子に囁く。
「……順子、心配しすぎだよ。悟は悪くないのに」
しかし順子はまだ顔を上げられず、心の中で自分を責めるしかなかった。
ーーーーーー
放課後の学校を出ると、順子は足早に家路を急いだ。
廊下でのざわめきも、教室での心のざわつきも、すべて遠くに感じられる。
家に着くと、鍵をかけ、静かな自室のドアを閉めた。
机の上には、昨日と同じ黒いラバーマスクが置かれている。
順子は迷わず手を伸ばし、顔に着け変身する。
目だけがわずがに見えるその姿の中で、鮮やかに施したアイメイクだけが光を受けて輝く。
「……もう、どうしてあんなこと言っちゃったんだろ…。」
声は小さいが、抑えきれない感情が震えていた。
スマホの配信アプリを開き、赤いランプが点灯する。
「こんばんは、ラバーマスクガールです……」
順子はカメラに向かって深呼吸を一つしてから続けた。
「今日ね……学校で、嬉しいこともあったのに、私、変なこと言っちゃった……」
コメント欄には、すぐに励ましの言葉が流れ始める。
「大丈夫だよ!」
「泣かないで!」
「ラバーマスクガールちゃんならきっと大丈夫!」
順子は胸がいっぱいになり、でも涙は溢れなかった。
マスクの向こうでなら、弱い自分も、失敗した自分も、さらけ出せる。
誰にも見えないし、誰も傷つけない。
「……ごめんね、今日話しかけてくれた人。怖くて、逃げちゃったんだ」
彼女は目を伏せながらも、カメラ越しに力強く手を振った。
(誰かに見てもらえるだけで、少し安心できる……)
その夜、順子はラバーマスク姿の中で、自分の感情を自由に揺らし、
学校で抑え込んでいた胸のもやもやを、一つずつ解きほぐしていった。
順子はいつものように自室の机にスマホを立てかけた。部屋の外は静まり返り、両親はまだ仕事で帰っていない。
ベッドの上に置かれた黒いラバー製のマスク。
彼女は迷いなくそれを手に取り、頬に触れる火傷跡を覆い隠すように顔へとつける。
次にワインレッドのサングラスをかけ、髪をアップスタイルに変更する。
「……よし」
鏡の中に映るのは、もう順子ではない。
サングラスで目はワインレッドの濃いレンズを通してわずかに見える。口はラバー製のマスクで覆う。
いつもなら人目を避けて俯く顔が、今は堂々とこちらを見返していた。
配信用アプリを開き、カメラの赤いランプが灯る。
「こんばんは、ラバーマスクガールです!」
明るい声が部屋に響いた。
順子の胸はドキドキしていたが、それは恐怖ではなく、抑えきれない高揚感だった。
――今日は嬉しいことがあった。
クラス替えで理恵と一緒になったこと。
悟に「よろしくな」と声をかけられたこと。
理恵が「応援してあげる」と笑ってくれたこと。
その全部が、順子を弾ませていた。
「ねえ、みんな! 今日は最高の一日だったんだよ!」
画面越しに、彼女は手を振る。
コメント欄には「かわいい!」「声が元気!」と次々に文字が流れていく。
素顔ではとてもできないことを、順子はマスクの向こうで自由に楽しんでいた。
その笑顔は、火傷跡に縛られた彼女自身へのささやかな反抗のようでもあった。
ーーーーーーー
配信は夜遅くまで続いた。
画面越しに集まるリスナーたちは、誰も順子の顔の火傷を知らない。
ただ、ワインレッドのレンズから覗く目元の輝きと、明るく響く声だけがすべてだった。
「学校で嫌なことがあっても、ここに来れば元気になる!」
「ラバーマスクガールちゃん、今日も可愛い!」
「もっと話して~」
次々に流れるコメントに、順子は自然と笑みをこぼす。
(ここでは誰も、私を傷跡で判断しない……)
普段の学校生活では下を向き、声を小さくして存在を消そうとしている自分。
けれど、この場所では違った。
マスクの下に隠れている限り、順子は自由だった。大胆で、明るく、誰とでも気軽に話せる。
「……今日ね、クラス替えがあったんだ」
順子はリスナーに向かって、素直に話し始める。
「大好きな友達と一緒のクラスになれて、すごく嬉しかったの」
コメント欄には「よかったね!」「友達大事!」と温かい言葉が並ぶ。
そしてほんの少しだけ勇気を出して付け加える。
「……それから、気になる人にも、声をかけてもらえて」
一瞬、順子は照れ笑いを浮かべてマスクに手を当てた。
リスナーたちは「おお!」「恋の予感?」「きゃー!」と盛り上がる。
(素顔じゃ絶対に言えないことも、ここなら話せるんだ……)
順子にとってこの場所は、孤独な食卓の寂しさを埋める時間であり、
「火傷のある順子」ではなく「ラバーマスクガール」として生きられる、もうひとつの居場所だった。
配信を終えてマスクを外した時、頬の痕は相変わらずそこにあった。
だけど、胸の奥にはほんの少し、温かい灯が残っていた。
ーーーーーー
翌日の教室。窓の外から春の柔らかい光が差し込み、生徒たちの声と鉛筆の音が静かに混ざっている。
理恵はいつもの明るい笑顔で順子の隣に座った。
「ねえ、今日こそ悟と話してみたら?」
順子は心の中でドキドキしていた。昨夜のラバーマスク配信で感じた高揚もまだ胸に残っている。
「う、うん……」
小さく頷くだけの順子に、理恵はにこやかにウィンクする。
すると、教室の後ろから「おはよー!」と元気な声が響いた。悟が二人の机に近づいてくる。
「おはよ、順子、理恵。昨日はありがとう、教室で会えて嬉しかったよ」
順子の心臓は跳ねた。嬉しさと緊張で、声がうまく出ない。
理恵が微笑みながら目で「大丈夫だよ」と伝える。
しかし、その瞬間、順子の心の中に突然、不安と羞恥が混ざり合った。
(火傷の跡を見られるのが怖い……自分をさらけ出す勇気はまだない……)
咄嗟に口が開いた。
「……もう、二度と私に話しかけないで」
悟の顔が一瞬、固まる。目がほんのわずかに曇った。
「え……? 俺、嫌われたのかな……」
理恵は慌てて順子の肩に手を置いた。
「順子……!? 大丈夫?」
順子はうつむき、机の端を握りしめる。
胸の奥は昨夜のハイテンションな自分とは真逆の、冷たい孤独でいっぱいだった。
悟はその場でしばらく言葉を失ったまま、順子をじっと見つめる。
その視線は怒りでも軽蔑でもなく、ただ「どうして?」という戸惑いだけを残していた。
理恵は小声で順子に囁く。
「……順子、心配しすぎだよ。悟は悪くないのに」
しかし順子はまだ顔を上げられず、心の中で自分を責めるしかなかった。
ーーーーーー
放課後の学校を出ると、順子は足早に家路を急いだ。
廊下でのざわめきも、教室での心のざわつきも、すべて遠くに感じられる。
家に着くと、鍵をかけ、静かな自室のドアを閉めた。
机の上には、昨日と同じ黒いラバーマスクが置かれている。
順子は迷わず手を伸ばし、顔に着け変身する。
目だけがわずがに見えるその姿の中で、鮮やかに施したアイメイクだけが光を受けて輝く。
「……もう、どうしてあんなこと言っちゃったんだろ…。」
声は小さいが、抑えきれない感情が震えていた。
スマホの配信アプリを開き、赤いランプが点灯する。
「こんばんは、ラバーマスクガールです……」
順子はカメラに向かって深呼吸を一つしてから続けた。
「今日ね……学校で、嬉しいこともあったのに、私、変なこと言っちゃった……」
コメント欄には、すぐに励ましの言葉が流れ始める。
「大丈夫だよ!」
「泣かないで!」
「ラバーマスクガールちゃんならきっと大丈夫!」
順子は胸がいっぱいになり、でも涙は溢れなかった。
マスクの向こうでなら、弱い自分も、失敗した自分も、さらけ出せる。
誰にも見えないし、誰も傷つけない。
「……ごめんね、今日話しかけてくれた人。怖くて、逃げちゃったんだ」
彼女は目を伏せながらも、カメラ越しに力強く手を振った。
(誰かに見てもらえるだけで、少し安心できる……)
その夜、順子はラバーマスク姿の中で、自分の感情を自由に揺らし、
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