【R18】【挿絵多い】ラバーマスクガール

まへまへ

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第5話 美容整形

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春の午後。

桜が散り始めたキャンパスに、スーツケースを転がしながら順子は足を踏み入れた。

大学寮――新しい生活の拠点。

真新しい白い建物の前に立つと、胸が高鳴ると同時に、不安で足がすくむ。

「ここから……私の新しい生活が始まるんだ」

部屋に入ると、シンプルな机とベッドが迎えてくれた。

知り合いは誰もいない。高校時代の理恵も悟もいない。

自分で全てを作っていかなければならない。

翌日から始まった大学生活は、想像以上に忙しかった。

講義、レポート、専門書の厚みに圧倒されながらも、順子は「看護師になりたい」という強い思いで机に向かい続けた。


――けれど夜になると。


寮の自室で静寂に包まれると、順子は机の引き出しから黒いラバーマスクを取り出す。

「……やっぱり、これがないと落ち着かない」

頬を覆うようにマスクをつけいつものように変身する。

鏡の前に立つと、昼間の自分とは全く違う存在がそこに現れる。

配信を始めると、すぐにコメントが流れ始めた。

「おかえり!待ってたよ!」

「今日も綺麗だね、ラバーマスクガール!」

順子は自然と笑みを浮かべた。

ここでは火傷の跡を気にしなくてもいい。

顔を覆うことで、むしろ「解放された自分」になれる。

だが、ある夜の配信の終わり。

マスクを外し、鏡に映った自分を見つめると、心の奥に違和感が芽生えた。

「昼間は看護師を目指す学生で……夜は仮面をかぶった私。……どっちが本当の私なんだろう」

寮の小さな部屋に、その問いだけが響き続けた。

ーーーーーー

四月の後半、選択科目の履修登録の時期。

看護師になるために必須ではない授業がいくつも並ぶ中、順子の目を引いたのはひとつの講義だった。

――「美容医療とメディカルケア」。
(……美容整形。私の顔も……もし変えられるなら)

胸の奥で小さな期待と、罪悪感のようなものが同時に芽生えた。

それでも順子は迷わず、その科目に履修登録を入れた。


ーーー講義当日。

教室に集まった学生たちは思った以上に多く、女性だけでなく男性の姿もあった。

壇上に立った講師は、美容外科で長年経験を積んだという医師だった。

「美容整形というと、“贅沢”“自己満足”という印象を持つ人もいるでしょう。けれど、実際は深い心の問題と結びついているケースが多いんです」

順子は息を呑んだ。

スライドには、事故や火傷で顔に跡を負った人が、施術を受けることで自信を取り戻した例が紹介されていく。

「整形は、単に“美しくなる”だけじゃありません。失われた自己肯定感を取り戻す治療でもあるんです」

講師の言葉が、順子の胸を貫いた。
(……私も……変われるのかな)

ノートを取る手が震えていた。

顔の火傷の跡。鏡を見るたびに感じてきた痛み。

それが「医学の力で変えられるかもしれない」と思うと、抑えきれない希望が広がっていく。

講義が終わる頃、順子は決意に似た強い気持ちを抱いていた。

「……もっと知りたい。整形のこと」

けれどその一方で、心の奥底から小さな声が囁く。

――それって、“今の自分”を否定することになるんじゃないの?

順子は資料を抱えたまま、しばらく教室の席を立てずにいた。



ーーーー休日の午後。

順子は大学の資料を抱え、街の中心にある美容クリニックへと足を運んだ。

高級感のあるエントランスに足を踏み入れると、心臓が強く脈打つ。

「いらっしゃいませ。本日はカウンセリングですね」

受付スタッフの柔らかい笑顔に迎えられ、順子はぎこちなく頷いた。

待合室には雑誌やパンフレットが並び、整った内装に「別世界」に来たような感覚があった。

呼ばれてカウンセリングルームに入ると、白衣を着た医師が優しい声で話しかけてきた。

「今日はどんなことでお悩みですか?」

「……小さい頃の火傷の跡を……少しでも薄くしたくて」

医師は真剣に順子の頬を見つめ、メモを取りながら説明を始めた。

「この部位なら、皮膚移植やレーザー治療の併用が考えられます。ただし一度では難しく、複数回にわたる施術が必要です」

スライドや症例写真を見せながら、医師は丁寧に説明してくれる。

順子の心に希望が広がっていく――

だが次の言葉で現実に引き戻された。

「費用は……おおよそトータルで150万円から200万円はかかると思います」

息が止まった。

「もちろん分割払いも可能ですが、学生さんだと保証人が必要になることが多いですね」

「……そう、ですか……」



ーーー帰り道。

街の喧騒の中を歩きながら、順子の足取りは重かった。
(150万円……そんなの、親に頼めるわけない。忙しい両親に……無理だよ)

寮に戻り、机に座ったまま順子は資料を見つめる。

そこには「希望」と「現実」がはっきりと書かれていた。

――整形すれば、自分は変われるかもしれない。

――けれど、届かない金額の壁が立ちはだかっている。

順子は両手で顔を覆い、小さくつぶやいた。

「どうすれば……いいんだろう」
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