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第7話 異世界の女王
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数日後の夜。
順子は寮の自室で携帯電話を握りしめ、深呼吸を繰り返していた。
表示された番号は、匿名の掲示板に書かれていた倶楽部のもの。
指先が震えながらも、発信ボタンを押した。
「……はい、ラウンジ○○でございます」
低く落ち着いた声が受話器から響く。
順子はどもりながらも、紹介を受けて興味を持ったと伝えた。
「……学生の方ですね。面接というより、まずは雰囲気を見ていただくのが早いでしょう。数日後の夜にお越しください」
電話を切った瞬間、心臓が早鐘のように打ち続けた。
(……本当に、電話しっちゃった……)
――そして指定された日。
繁華街から少し外れたビルの一室。
厚い扉の前で足が止まる。
高級感のある真鍮の取っ手を前に、呼吸が浅くなる。
(戻ろうかな……でも……整形費用のことを思い出して……)
勇気を振り絞り、順子は扉を押した。
「お待ちしておりました」
出迎えたのは、タキシード姿の中年の男性。
落ち着いた笑顔を浮かべ、柔らかな声で言う。
「どうぞ、こちらへ」
バックヤードを抜け、奥へと案内される。
重厚なカーテンが開かれると、そこには別世界が広がっていた。
高級ホテルのラウンジを思わせる広々とした空間。
シャンデリアの光が柔らかく反射し、ゆったりと流れるジャズの旋律。
革張りのソファには、スーツ姿の紳士たちがグラスを傾けている。
「……すごい……」
思わず順子の唇から漏れる。
その視線の先で、彼女は息を呑んだ。
全身を漆黒のラバースーツに包み、ハイヒールのロングブーツを履いた女性が、口だけを隠すのものではなく、完全に頭と顔を覆う黒いラバーマスクをつけたままグラスを運んでいたのだ。
艶やかな素材がライトを受けて妖しく光り、彼女の動きに合わせてきしむような質感が漂う。
(……本当に……いるんだ……!)
店長は微笑みながら囁いた。
「ここは“素顔を隠して楽しむ世界”です。あなたのように、顔を見せたくない、別の自分でいたい――そういう方にこそ居場所がある」
順子の鼓動は激しく高鳴っていた。
怖さと興奮、その両方に揺さぶられながら、彼女はその光景から目を離せなかった。
先日の電話のやりとりで、今夜は見学と気に入れば体験入店に向けた準備が目的だった。
店長が柔らかい笑みを浮かべながら説明する。
「よければ順子さん、体験入店に備えて、ボディサイズを詳しく測らせていただきたいんです」
「ラバースーツは体にぴったりフィットしてこそ、美しく見えるものですから」
順子は少し緊張して声を潜める。
「……はい。体験入店をお願いします。」
店長は手を差し出し、安心させるように続ける。
「でも心配はいりません。私ではなく、うちのリーダー格の女性にお願いするので、優しく測りますよ」
順子の視線が少し揺れた。
「リーダー格の方……」と小さく呟くと、店長は静かに頷き、ドアの向こうに声をかけた。
カツ、カツ――。
高いヒールの音が近づき、やがて扉が開く。
そこに現れた女性の姿を見て、順子は息を呑んだ。
黒光りするラバーレオタードが、ボディラインに隙なくフィットしている。
その上にアンダーバストコルセットが締め上げられ、胸元から腰の曲線が強調されていた。
脚には黒のパンティストッキング、さらにその上に網タイツを重ね、妖艶な光沢と透け感が織りなすコントラスト。
太腿から足元へと続くニーハイ丈のエナメルブーツは艶やかに輝き、存在感を放っていた。
そして何より目を引いたのは、そのマスク。
艶やかな黒のラバーマスクの上からシルバーのフェイスカバーを合わせ、さらにマスクの上から流れるように被せられた長いシルバーのウィッグ。
ラバーの黒とシルバーの対比が、圧倒的な非日常の美しさを作り上げていた。
「……すごい……」
順子は思わず小さく呟き、目を離せなかった。
他のキャストたちとは明らかに違う。
その姿には威厳と気品があり、ただのセクシーさを超えて、まるで異世界の女王のような圧倒的存在感があった。
(こんな人が……リーダー格……)
頬が自然に熱を帯び、心臓が早鐘を打つ。
コンプレックスを抱え、顔を覆うことに憧れてきた順子にとって、その姿はただの「憧れ」ではなく――
自分もこうなりたい、と強烈に心を揺さぶるものだった。
順子は完全に見とれていた。
女性はマスクで顔を覆っているが、目元から柔らかい視線が順子に向けられていた。
女性は静かに順子の前に立ち、優しい声で話しかける。
「こんばんは、順子さん。今日の準備でお手伝いさせてもらいます。無理に何かをさせることはありません。あなたの意思を最優先しますからね」
順子は胸が高鳴り、手に汗をかきながらも小さく頷く。
「……お願いします」
女性はにっこりと微笑み、順子の肩にそっと手を置く。
「大丈夫ですよ。ここでは、あなたのペースで進めればいいんです」
順子は深く息を吸い込み、覚悟を決めるように頷いた。
店長に案内され、順子はリーダー格の女性とともに更衣室へ向かった。
「ここでサイズを測ります。服を脱いで下着姿になっていただけますか?」
順子は胸の奥がざわつくのを感じながら、頷き、指示に従った。
薄い下着姿になった順子の前に、黒光りのラバースーツ姿の女性が立つ。
全てをマスクに隠された顔の表情は見えないが、体の動きや所作から漂う品格と自信に、順子は息をのむ。
女性は優しく微笑むように声をかけた。
「順子さん、とてもきれいなボディラインですね。絶対にラバースーツも似合いますよ」
順子は頬が熱くなり、思わず下を向いてしまう。
だが、目の端でその女性の黒光りした姿に見入ってしまう自分がいた。
(……美しい……この人は、どんな顔をしてるんだろう。きっと綺麗な人なんだろうな……)
女性は順子の肩や腰、腕のラインを丁寧に測りながら、時折励ますように声をかける。
「動きやすさも大事ですからね。順子さんの体型なら、マスクとスーツでしっかり魅力を出せますよ」
順子は羞恥心と、なぜか胸の奥が熱くなる興奮を同時に感じた。
体を測られながらも、目の前に立つ女性の存在感に圧倒され、心が揺れる。
(……この人のように、私も堂々と立てるようになるのかな……)
測定はゆっくりと丁寧に進む。
順子は緊張と恥ずかしさを抱えつつ、未知の世界への一歩を踏み出している自分を意識していた。
採寸が終わり、ラバースーツ姿の女性は柔らかく順子に声をかけた。
「今日はここまでにしましょう。初めてで疲れたでしょう。」
順子は下着の上から服を着直しながら、小さく頷いた。
「……はい。なんだか、頭がぐるぐるして……」
女性は優しく笑い、店長の元へと案内してくれる。
店長は手帳を開きながら言った。
「では、体験入店の日を決めましょうか。順子さんのご都合に合わせます」
順子は緊張で喉が渇きながらも、授業の予定を思い出しつつ日を指定した。
店長は頷き、記録をつける。
その横で、リーダー格の女性が静かに言った。
「その日に、あなたにぴったりのラバースーツとマスクを用意しておきます。きっと、順子さんに似合いますよ」
その一言が、順子の胸を強く打った。
(……私に似合うもの……この人が選んでくれる……)
店を出ると、夜風が頬を冷たく撫でた。
だが順子の身体は火照ったままだった。
寮の部屋に戻っても、頭の中には黒光りするスーツの女性の姿や、店内の異様な空気が繰り返しよみがえる。
布団に入っても心臓の鼓動が止まらない。
(……怖い。でも……楽しみで仕方ない……)
その夜、順子は興奮と混乱で眠れぬまま、体験入店の日をただ心待ちにするのだった。
順子は寮の自室で携帯電話を握りしめ、深呼吸を繰り返していた。
表示された番号は、匿名の掲示板に書かれていた倶楽部のもの。
指先が震えながらも、発信ボタンを押した。
「……はい、ラウンジ○○でございます」
低く落ち着いた声が受話器から響く。
順子はどもりながらも、紹介を受けて興味を持ったと伝えた。
「……学生の方ですね。面接というより、まずは雰囲気を見ていただくのが早いでしょう。数日後の夜にお越しください」
電話を切った瞬間、心臓が早鐘のように打ち続けた。
(……本当に、電話しっちゃった……)
――そして指定された日。
繁華街から少し外れたビルの一室。
厚い扉の前で足が止まる。
高級感のある真鍮の取っ手を前に、呼吸が浅くなる。
(戻ろうかな……でも……整形費用のことを思い出して……)
勇気を振り絞り、順子は扉を押した。
「お待ちしておりました」
出迎えたのは、タキシード姿の中年の男性。
落ち着いた笑顔を浮かべ、柔らかな声で言う。
「どうぞ、こちらへ」
バックヤードを抜け、奥へと案内される。
重厚なカーテンが開かれると、そこには別世界が広がっていた。
高級ホテルのラウンジを思わせる広々とした空間。
シャンデリアの光が柔らかく反射し、ゆったりと流れるジャズの旋律。
革張りのソファには、スーツ姿の紳士たちがグラスを傾けている。
「……すごい……」
思わず順子の唇から漏れる。
その視線の先で、彼女は息を呑んだ。
全身を漆黒のラバースーツに包み、ハイヒールのロングブーツを履いた女性が、口だけを隠すのものではなく、完全に頭と顔を覆う黒いラバーマスクをつけたままグラスを運んでいたのだ。
艶やかな素材がライトを受けて妖しく光り、彼女の動きに合わせてきしむような質感が漂う。
(……本当に……いるんだ……!)
店長は微笑みながら囁いた。
「ここは“素顔を隠して楽しむ世界”です。あなたのように、顔を見せたくない、別の自分でいたい――そういう方にこそ居場所がある」
順子の鼓動は激しく高鳴っていた。
怖さと興奮、その両方に揺さぶられながら、彼女はその光景から目を離せなかった。
先日の電話のやりとりで、今夜は見学と気に入れば体験入店に向けた準備が目的だった。
店長が柔らかい笑みを浮かべながら説明する。
「よければ順子さん、体験入店に備えて、ボディサイズを詳しく測らせていただきたいんです」
「ラバースーツは体にぴったりフィットしてこそ、美しく見えるものですから」
順子は少し緊張して声を潜める。
「……はい。体験入店をお願いします。」
店長は手を差し出し、安心させるように続ける。
「でも心配はいりません。私ではなく、うちのリーダー格の女性にお願いするので、優しく測りますよ」
順子の視線が少し揺れた。
「リーダー格の方……」と小さく呟くと、店長は静かに頷き、ドアの向こうに声をかけた。
カツ、カツ――。
高いヒールの音が近づき、やがて扉が開く。
そこに現れた女性の姿を見て、順子は息を呑んだ。
黒光りするラバーレオタードが、ボディラインに隙なくフィットしている。
その上にアンダーバストコルセットが締め上げられ、胸元から腰の曲線が強調されていた。
脚には黒のパンティストッキング、さらにその上に網タイツを重ね、妖艶な光沢と透け感が織りなすコントラスト。
太腿から足元へと続くニーハイ丈のエナメルブーツは艶やかに輝き、存在感を放っていた。
そして何より目を引いたのは、そのマスク。
艶やかな黒のラバーマスクの上からシルバーのフェイスカバーを合わせ、さらにマスクの上から流れるように被せられた長いシルバーのウィッグ。
ラバーの黒とシルバーの対比が、圧倒的な非日常の美しさを作り上げていた。
「……すごい……」
順子は思わず小さく呟き、目を離せなかった。
他のキャストたちとは明らかに違う。
その姿には威厳と気品があり、ただのセクシーさを超えて、まるで異世界の女王のような圧倒的存在感があった。
(こんな人が……リーダー格……)
頬が自然に熱を帯び、心臓が早鐘を打つ。
コンプレックスを抱え、顔を覆うことに憧れてきた順子にとって、その姿はただの「憧れ」ではなく――
自分もこうなりたい、と強烈に心を揺さぶるものだった。
順子は完全に見とれていた。
女性はマスクで顔を覆っているが、目元から柔らかい視線が順子に向けられていた。
女性は静かに順子の前に立ち、優しい声で話しかける。
「こんばんは、順子さん。今日の準備でお手伝いさせてもらいます。無理に何かをさせることはありません。あなたの意思を最優先しますからね」
順子は胸が高鳴り、手に汗をかきながらも小さく頷く。
「……お願いします」
女性はにっこりと微笑み、順子の肩にそっと手を置く。
「大丈夫ですよ。ここでは、あなたのペースで進めればいいんです」
順子は深く息を吸い込み、覚悟を決めるように頷いた。
店長に案内され、順子はリーダー格の女性とともに更衣室へ向かった。
「ここでサイズを測ります。服を脱いで下着姿になっていただけますか?」
順子は胸の奥がざわつくのを感じながら、頷き、指示に従った。
薄い下着姿になった順子の前に、黒光りのラバースーツ姿の女性が立つ。
全てをマスクに隠された顔の表情は見えないが、体の動きや所作から漂う品格と自信に、順子は息をのむ。
女性は優しく微笑むように声をかけた。
「順子さん、とてもきれいなボディラインですね。絶対にラバースーツも似合いますよ」
順子は頬が熱くなり、思わず下を向いてしまう。
だが、目の端でその女性の黒光りした姿に見入ってしまう自分がいた。
(……美しい……この人は、どんな顔をしてるんだろう。きっと綺麗な人なんだろうな……)
女性は順子の肩や腰、腕のラインを丁寧に測りながら、時折励ますように声をかける。
「動きやすさも大事ですからね。順子さんの体型なら、マスクとスーツでしっかり魅力を出せますよ」
順子は羞恥心と、なぜか胸の奥が熱くなる興奮を同時に感じた。
体を測られながらも、目の前に立つ女性の存在感に圧倒され、心が揺れる。
(……この人のように、私も堂々と立てるようになるのかな……)
測定はゆっくりと丁寧に進む。
順子は緊張と恥ずかしさを抱えつつ、未知の世界への一歩を踏み出している自分を意識していた。
採寸が終わり、ラバースーツ姿の女性は柔らかく順子に声をかけた。
「今日はここまでにしましょう。初めてで疲れたでしょう。」
順子は下着の上から服を着直しながら、小さく頷いた。
「……はい。なんだか、頭がぐるぐるして……」
女性は優しく笑い、店長の元へと案内してくれる。
店長は手帳を開きながら言った。
「では、体験入店の日を決めましょうか。順子さんのご都合に合わせます」
順子は緊張で喉が渇きながらも、授業の予定を思い出しつつ日を指定した。
店長は頷き、記録をつける。
その横で、リーダー格の女性が静かに言った。
「その日に、あなたにぴったりのラバースーツとマスクを用意しておきます。きっと、順子さんに似合いますよ」
その一言が、順子の胸を強く打った。
(……私に似合うもの……この人が選んでくれる……)
店を出ると、夜風が頬を冷たく撫でた。
だが順子の身体は火照ったままだった。
寮の部屋に戻っても、頭の中には黒光りするスーツの女性の姿や、店内の異様な空気が繰り返しよみがえる。
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(……怖い。でも……楽しみで仕方ない……)
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