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第8話 これが私?
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体験入店の日を明日に控えた順子は、朝から落ち着かなかった。
大学の講義に出席しても、教授の言葉が耳をすり抜けていく。
ノートを取っていても、手は動いているのに頭には全く入ってこない。
(……明日、本当にあそこに行くんだ……)
寮に戻ると、他の学生たちは試験の準備や友達との雑談に忙しそうだった。
その光景を横目に、順子は自室にこもり、ベッドに腰を下ろす。
窓の外には都会のネオンが瞬いている。
自分がこれから踏み出そうとしている世界が、現実なのかどうかも分からなくなる。
(……整形のためにお金が欲しい。でも、私は……何をしようとしてるんだろう)
スマホを手に取り、いつものように配信アプリを開く。
黒いラバーマスクをつけ、カメラの前に座ると、不思議と安心感が胸に広がる。
「こんばんは……明日ね、ちょっと特別なことがあるんだ」
リスナーのコメントが一斉に流れる。
「特別ってなに?」
「ドキドキする」
「何か挑戦?」
順子は言葉を濁しながら笑った。
「秘密。でもね、きっと……私が変わるための一歩になると思う」
リスナーたちからは「応援してる!」「楽しみにしてる!」といった声が次々に寄せられ、画面の向こうから勇気をもらった気がした。
配信を終えると、部屋は再び静寂に包まれる。
ベッドに横たわりながら、順子は明日のことを思った。
(……怖い。でも、やめたくない。あの女性が言ってくれた……“似合いますよ”って言葉……信じたい)
瞼を閉じても眠気は訪れず、胸の奥で期待と不安が渦を巻いていた。
――そして夜は、静かに更けていった。
ーーー体験入店の当日。
順子は指定された時間に店を訪れ、バックヤードの一室に案内された。
そこに現れたのは、あのリーダー格の女性。
今日も全身黒光りのラバースーツに包まれ、威厳と美しさを漂わせていた。
「順子さん、準備はいいですか?」
女性は柔らかな声で問いかける。
順子は緊張のあまり喉がからからになりながらも、かすかに頷いた。
女性は小さな袋から薄い黒布を取り出し、順子に手渡す。
「これに着替えてください。普通の下着は線が浮いてしまいますから、下はこのTバックだけで。上は何もつけないでください」
順子は一瞬、息を呑んだ。
(……下着くらいは着けると思ってたのに……)
だが女性の真剣な眼差しに背を押され、順子は震える手で服を脱いでいく。
全身を晒すような心許なさに頬が熱くなる。
――けれど、彼女を信じるしかなかった。
女性は瓶に入った透明なオイルを手に取り、順子の腕や脚に滑らせる。
冷たい液体が肌を走り、その後に広がる温かさに思わず身を震わせた。
「オイルを塗らないと、スーツに身体が入らないんです。リラックスして」
(……そんなに密着するの?)
差し出された黒いラバースーツ。
脚を通した瞬間、肌にぴたりと貼りつくような感覚が走る。
それは布ではなく、まるで第二の皮膚を纏うようだった。
「腰まで引き上げて……そう、そのまま腕を通して」
女性のサポートを受けながら、順子は徐々に全身を覆われていく。
胸を押さえ込む強烈な圧迫感。
呼吸をするたび、空気と一緒に自分の鼓動がスーツに跳ね返ってくる。
「最後にマスクです。目だけが開いています。口の部分は呼吸ができる程度の加工よ。」
女性は黒光りするマスクを持ち上げ、順子の顔に被せた。
冷たさが頬を包み、鼻と口の周りにわずかな隙間だけが残る。
背後で紐を編み上げる音が聞こえ、次第に顔全体が締め付けられていく。
「……っ!」
順子は声にならない吐息を漏らす。
肌に密着する感覚が強烈で、まるで自分の顔の輪郭そのものが塗り替えられていくようだった。
呼吸は少し苦しい。けれど、そこに言葉にできない快感が混ざる。
(……私……変わっていく……!)
鏡の中には、もう「順子」ではない誰かが映っていた。
全身を黒光りのスーツに覆われ、目だけを覗かせる存在。
その姿に順子自身が息を呑み、足が震える。
女性はそっと順子の肩に手を置いた。
「とてもよく似合っています。あなたはもう、ここで輝く人です。」
その言葉に、順子の胸は熱く高鳴り、今までにない昂揚感に全身を支配されていた。
リーダー格の女性は、鏡の前で震える順子を見つめ、にこやかに頷いた。
「これから、あなたを完成させましょう」
差し出されたのは赤いカラコン。
ラバーのマスク越しに女性の手が器用に順子の瞳にレンズを入れていく。
視界に広がる赤い光彩。鏡を覗くと、そこには自分ではない異質な存在がこちらを見返していた。
次にコルセット。黒の艶やかな革が腰を締め上げ、さらに身体の曲線を強調する。
「息がしづらいでしょう。でも、このラインはあなたの武器になるわ」
女性は楽しげに囁く。
足元には編み上げの厚底ヒールのロングブーツ。
ブーツの口を広げられ、順子の足が押し込まれる。長い編み紐を一段ずつ締め上げていくたび、足からふくらはぎ、そして太腿にまで快感に近い拘束感が広がっていく。
手にはラバーグローブ。指先までぴたりと包み込まれ、もう素肌はどこにも存在しない。
(……完全に覆われていく……私はもう順子じゃない……)
さらにボンテージデザインのアクセサリー。
胸元には光沢あるベルト状の飾り、腰には鎖を模した装飾。
ラバースーツをより異質で、美しく、そして妖艶な存在へと変えていく。
最後に――化粧。
マスクの目元を縁取るように、濃いアイシャドウが塗られる。
まつ毛には長いつけまつげが重ねられ、視線は鋭く妖しく変貌する。
唇は鮮やかな赤。ラバーマスクの黒に対し、異様なほど艶めいて映えた。
リーダー格の女性は一歩下がり、完成した順子を見て満足そうに微笑む。
「……完璧よ。あなたは今、この店にふさわしい“存在”になった」
鏡の中に映るのは、かつて火傷の跡に悩んでいた女子大生ではなかった。
黒光りするボディ、赤い瞳、妖艶な姿。
そこに立つのは、観る者を支配できそうな漆黒のラバー姿。
順子の胸は大きく高鳴り、息は乱れ、頭の中は熱で霞む。
(……これが、私……?)
恐怖と陶酔と、そして背徳的な快楽が入り混じり、心を震わせていた。
大学の講義に出席しても、教授の言葉が耳をすり抜けていく。
ノートを取っていても、手は動いているのに頭には全く入ってこない。
(……明日、本当にあそこに行くんだ……)
寮に戻ると、他の学生たちは試験の準備や友達との雑談に忙しそうだった。
その光景を横目に、順子は自室にこもり、ベッドに腰を下ろす。
窓の外には都会のネオンが瞬いている。
自分がこれから踏み出そうとしている世界が、現実なのかどうかも分からなくなる。
(……整形のためにお金が欲しい。でも、私は……何をしようとしてるんだろう)
スマホを手に取り、いつものように配信アプリを開く。
黒いラバーマスクをつけ、カメラの前に座ると、不思議と安心感が胸に広がる。
「こんばんは……明日ね、ちょっと特別なことがあるんだ」
リスナーのコメントが一斉に流れる。
「特別ってなに?」
「ドキドキする」
「何か挑戦?」
順子は言葉を濁しながら笑った。
「秘密。でもね、きっと……私が変わるための一歩になると思う」
リスナーたちからは「応援してる!」「楽しみにしてる!」といった声が次々に寄せられ、画面の向こうから勇気をもらった気がした。
配信を終えると、部屋は再び静寂に包まれる。
ベッドに横たわりながら、順子は明日のことを思った。
(……怖い。でも、やめたくない。あの女性が言ってくれた……“似合いますよ”って言葉……信じたい)
瞼を閉じても眠気は訪れず、胸の奥で期待と不安が渦を巻いていた。
――そして夜は、静かに更けていった。
ーーー体験入店の当日。
順子は指定された時間に店を訪れ、バックヤードの一室に案内された。
そこに現れたのは、あのリーダー格の女性。
今日も全身黒光りのラバースーツに包まれ、威厳と美しさを漂わせていた。
「順子さん、準備はいいですか?」
女性は柔らかな声で問いかける。
順子は緊張のあまり喉がからからになりながらも、かすかに頷いた。
女性は小さな袋から薄い黒布を取り出し、順子に手渡す。
「これに着替えてください。普通の下着は線が浮いてしまいますから、下はこのTバックだけで。上は何もつけないでください」
順子は一瞬、息を呑んだ。
(……下着くらいは着けると思ってたのに……)
だが女性の真剣な眼差しに背を押され、順子は震える手で服を脱いでいく。
全身を晒すような心許なさに頬が熱くなる。
――けれど、彼女を信じるしかなかった。
女性は瓶に入った透明なオイルを手に取り、順子の腕や脚に滑らせる。
冷たい液体が肌を走り、その後に広がる温かさに思わず身を震わせた。
「オイルを塗らないと、スーツに身体が入らないんです。リラックスして」
(……そんなに密着するの?)
差し出された黒いラバースーツ。
脚を通した瞬間、肌にぴたりと貼りつくような感覚が走る。
それは布ではなく、まるで第二の皮膚を纏うようだった。
「腰まで引き上げて……そう、そのまま腕を通して」
女性のサポートを受けながら、順子は徐々に全身を覆われていく。
胸を押さえ込む強烈な圧迫感。
呼吸をするたび、空気と一緒に自分の鼓動がスーツに跳ね返ってくる。
「最後にマスクです。目だけが開いています。口の部分は呼吸ができる程度の加工よ。」
女性は黒光りするマスクを持ち上げ、順子の顔に被せた。
冷たさが頬を包み、鼻と口の周りにわずかな隙間だけが残る。
背後で紐を編み上げる音が聞こえ、次第に顔全体が締め付けられていく。
「……っ!」
順子は声にならない吐息を漏らす。
肌に密着する感覚が強烈で、まるで自分の顔の輪郭そのものが塗り替えられていくようだった。
呼吸は少し苦しい。けれど、そこに言葉にできない快感が混ざる。
(……私……変わっていく……!)
鏡の中には、もう「順子」ではない誰かが映っていた。
全身を黒光りのスーツに覆われ、目だけを覗かせる存在。
その姿に順子自身が息を呑み、足が震える。
女性はそっと順子の肩に手を置いた。
「とてもよく似合っています。あなたはもう、ここで輝く人です。」
その言葉に、順子の胸は熱く高鳴り、今までにない昂揚感に全身を支配されていた。
リーダー格の女性は、鏡の前で震える順子を見つめ、にこやかに頷いた。
「これから、あなたを完成させましょう」
差し出されたのは赤いカラコン。
ラバーのマスク越しに女性の手が器用に順子の瞳にレンズを入れていく。
視界に広がる赤い光彩。鏡を覗くと、そこには自分ではない異質な存在がこちらを見返していた。
次にコルセット。黒の艶やかな革が腰を締め上げ、さらに身体の曲線を強調する。
「息がしづらいでしょう。でも、このラインはあなたの武器になるわ」
女性は楽しげに囁く。
足元には編み上げの厚底ヒールのロングブーツ。
ブーツの口を広げられ、順子の足が押し込まれる。長い編み紐を一段ずつ締め上げていくたび、足からふくらはぎ、そして太腿にまで快感に近い拘束感が広がっていく。
手にはラバーグローブ。指先までぴたりと包み込まれ、もう素肌はどこにも存在しない。
(……完全に覆われていく……私はもう順子じゃない……)
さらにボンテージデザインのアクセサリー。
胸元には光沢あるベルト状の飾り、腰には鎖を模した装飾。
ラバースーツをより異質で、美しく、そして妖艶な存在へと変えていく。
最後に――化粧。
マスクの目元を縁取るように、濃いアイシャドウが塗られる。
まつ毛には長いつけまつげが重ねられ、視線は鋭く妖しく変貌する。
唇は鮮やかな赤。ラバーマスクの黒に対し、異様なほど艶めいて映えた。
リーダー格の女性は一歩下がり、完成した順子を見て満足そうに微笑む。
「……完璧よ。あなたは今、この店にふさわしい“存在”になった」
鏡の中に映るのは、かつて火傷の跡に悩んでいた女子大生ではなかった。
黒光りするボディ、赤い瞳、妖艶な姿。
そこに立つのは、観る者を支配できそうな漆黒のラバー姿。
順子の胸は大きく高鳴り、息は乱れ、頭の中は熱で霞む。
(……これが、私……?)
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