【R18】【挿絵多い】ラバーマスクガール

まへまへ

文字の大きさ
8 / 58

第8話 これが私?

しおりを挟む
体験入店の日を明日に控えた順子は、朝から落ち着かなかった。

大学の講義に出席しても、教授の言葉が耳をすり抜けていく。

ノートを取っていても、手は動いているのに頭には全く入ってこない。
(……明日、本当にあそこに行くんだ……)

寮に戻ると、他の学生たちは試験の準備や友達との雑談に忙しそうだった。

その光景を横目に、順子は自室にこもり、ベッドに腰を下ろす。

窓の外には都会のネオンが瞬いている。

自分がこれから踏み出そうとしている世界が、現実なのかどうかも分からなくなる。
(……整形のためにお金が欲しい。でも、私は……何をしようとしてるんだろう)

スマホを手に取り、いつものように配信アプリを開く。

黒いラバーマスクをつけ、カメラの前に座ると、不思議と安心感が胸に広がる。

「こんばんは……明日ね、ちょっと特別なことがあるんだ」

リスナーのコメントが一斉に流れる。

「特別ってなに?」
「ドキドキする」
「何か挑戦?」

順子は言葉を濁しながら笑った。

「秘密。でもね、きっと……私が変わるための一歩になると思う」

リスナーたちからは「応援してる!」「楽しみにしてる!」といった声が次々に寄せられ、画面の向こうから勇気をもらった気がした。

配信を終えると、部屋は再び静寂に包まれる。

ベッドに横たわりながら、順子は明日のことを思った。
(……怖い。でも、やめたくない。あの女性が言ってくれた……“似合いますよ”って言葉……信じたい)

瞼を閉じても眠気は訪れず、胸の奥で期待と不安が渦を巻いていた。

――そして夜は、静かに更けていった。


ーーー体験入店の当日。

順子は指定された時間に店を訪れ、バックヤードの一室に案内された。

そこに現れたのは、あのリーダー格の女性。

今日も全身黒光りのラバースーツに包まれ、威厳と美しさを漂わせていた。



「順子さん、準備はいいですか?」

女性は柔らかな声で問いかける。

順子は緊張のあまり喉がからからになりながらも、かすかに頷いた。

女性は小さな袋から薄い黒布を取り出し、順子に手渡す。

「これに着替えてください。普通の下着は線が浮いてしまいますから、下はこのTバックだけで。上は何もつけないでください」

順子は一瞬、息を呑んだ。
(……下着くらいは着けると思ってたのに……)

だが女性の真剣な眼差しに背を押され、順子は震える手で服を脱いでいく。

全身を晒すような心許なさに頬が熱くなる。

――けれど、彼女を信じるしかなかった。

女性は瓶に入った透明なオイルを手に取り、順子の腕や脚に滑らせる。

冷たい液体が肌を走り、その後に広がる温かさに思わず身を震わせた。

「オイルを塗らないと、スーツに身体が入らないんです。リラックスして」

(……そんなに密着するの?)

差し出された黒いラバースーツ。

脚を通した瞬間、肌にぴたりと貼りつくような感覚が走る。

それは布ではなく、まるで第二の皮膚を纏うようだった。

「腰まで引き上げて……そう、そのまま腕を通して」

女性のサポートを受けながら、順子は徐々に全身を覆われていく。

胸を押さえ込む強烈な圧迫感。

呼吸をするたび、空気と一緒に自分の鼓動がスーツに跳ね返ってくる。

「最後にマスクです。目だけが開いています。口の部分は呼吸ができる程度の加工よ。」

女性は黒光りするマスクを持ち上げ、順子の顔に被せた。

冷たさが頬を包み、鼻と口の周りにわずかな隙間だけが残る。

背後で紐を編み上げる音が聞こえ、次第に顔全体が締め付けられていく。

「……っ!」

順子は声にならない吐息を漏らす。

肌に密着する感覚が強烈で、まるで自分の顔の輪郭そのものが塗り替えられていくようだった。

呼吸は少し苦しい。けれど、そこに言葉にできない快感が混ざる。
(……私……変わっていく……!)

鏡の中には、もう「順子」ではない誰かが映っていた。

全身を黒光りのスーツに覆われ、目だけを覗かせる存在。

その姿に順子自身が息を呑み、足が震える。

女性はそっと順子の肩に手を置いた。

「とてもよく似合っています。あなたはもう、ここで輝く人です。」

その言葉に、順子の胸は熱く高鳴り、今までにない昂揚感に全身を支配されていた。

リーダー格の女性は、鏡の前で震える順子を見つめ、にこやかに頷いた。

「これから、あなたを完成させましょう」

差し出されたのは赤いカラコン。

ラバーのマスク越しに女性の手が器用に順子の瞳にレンズを入れていく。

視界に広がる赤い光彩。鏡を覗くと、そこには自分ではない異質な存在がこちらを見返していた。

次にコルセット。黒の艶やかな革が腰を締め上げ、さらに身体の曲線を強調する。

「息がしづらいでしょう。でも、このラインはあなたの武器になるわ」

女性は楽しげに囁く。

足元には編み上げの厚底ヒールのロングブーツ。

ブーツの口を広げられ、順子の足が押し込まれる。長い編み紐を一段ずつ締め上げていくたび、足からふくらはぎ、そして太腿にまで快感に近い拘束感が広がっていく。

手にはラバーグローブ。指先までぴたりと包み込まれ、もう素肌はどこにも存在しない。
(……完全に覆われていく……私はもう順子じゃない……)

さらにボンテージデザインのアクセサリー。

胸元には光沢あるベルト状の飾り、腰には鎖を模した装飾。

ラバースーツをより異質で、美しく、そして妖艶な存在へと変えていく。

最後に――化粧。

マスクの目元を縁取るように、濃いアイシャドウが塗られる。

まつ毛には長いつけまつげが重ねられ、視線は鋭く妖しく変貌する。
唇は鮮やかな赤。ラバーマスクの黒に対し、異様なほど艶めいて映えた。

リーダー格の女性は一歩下がり、完成した順子を見て満足そうに微笑む。

「……完璧よ。あなたは今、この店にふさわしい“存在”になった」

鏡の中に映るのは、かつて火傷の跡に悩んでいた女子大生ではなかった。

黒光りするボディ、赤い瞳、妖艶な姿。

そこに立つのは、観る者を支配できそうな漆黒のラバー姿。

順子の胸は大きく高鳴り、息は乱れ、頭の中は熱で霞む。
(……これが、私……?)

恐怖と陶酔と、そして背徳的な快楽が入り混じり、心を震わせていた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

継承される情熱 還暦蜜の符合

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...