【R18】【挿絵多い】ラバーマスクガール

まへまへ

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第9話 体験入店

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鏡の中――。

赤い瞳が妖しく光を放ち、艶やかな黒の装束が照明を受けてきらめいていた。

それはもう「順子」という名の少女ではなかった。

頬の火傷の痕など、どこにもない。

コンプレックスの象徴だった赤黒い影は、黒いラバーの艶に覆い尽くされている。

「傷跡のある女の子」ではなく、誰もが振り向かざるを得ない異形の存在がそこに立っていた。

「……すごい……」

順子は小さく声を漏らした。

喉が震え、言葉が掠れる。

視線を逸らしたいのに、どうしても鏡から目を離せない。
(こんな私……知らない……)

胸元をコルセットに締め上げられた身体は、呼吸のたびに張り詰めて艶めき、ブーツに縛られた脚は細く長く誇張されている。

ラバーグローブに覆われた指先を持ち上げてみると、そこにあるのは柔らかな女子大生の手ではなく、冷たく光る異質な存在感を持つ「女王の手」だった。

ゾクリ、と背筋を駆け抜ける。

全身が自分ではないような、けれど確かに「なりたかった誰か」に触れている実感。

その矛盾が、順子を昂らせた。
(……私……綺麗……)

唇が勝手に震える。

「綺麗」――ずっと欲しかった言葉。

けれど順子の胸に今、芽生えつつあるのは「可愛い」でも「優しい」でもない。

もっと濃く、もっと危うい欲望に満ちた、美しさの実感だった。

ラバー越しに伝わる熱。

圧迫感と呼吸の制限が、逆に自分を現実から遠ざけ、心を解き放つ。

「順子」でいる限り決して手に入らない自由。

――その仮面を被ることで、彼女は初めて「生きている」と感じた。

「……私……このまま……」

呟いた言葉は、自分でも聞き取れないほど小さかった。

けれど鏡の中の存在は、その囁きを肯定するかのように妖しく微笑んで見えた。

リーダー格の女性――アキは、完成した順子をじっと見つめ、落ち着いた声で語り始めた。



「順子さん、私のこの店での名前はアキ。これから大切なルールをお伝えします。しっかり覚えてくださいね」

その声音は柔らかいが、確かな威厳を帯びていた。

「まず、この店でのあなたの名前は、ハルカ。」

ラバー越しに身を固くした順子――いや、“ハルカ”は自然と姿勢を正す。

「この店では、お客様があなたに触れることは絶対にありません」

アキの言葉に、順子の胸から緊張がひとつ解けた。

「あなたの仕事は、頼まれた飲み物や食事を、その姿で運ぶこと。ただそれだけです」

一拍置き、アキは視線を深める。

「ただし――お客様に呼び止められたら、必ずその命令に従ってください。それが、この店の“キャスト”の絶対条件です」

(命令に……従う……?)

順子の胸にざわめきが走る。けれど、不思議と強い恐怖はなかった。

むしろ、未知の扉が開かれるような緊張と期待が混じり合っていた。

アキはさらに続けた。

「そしてもうひとつ。この店のキャストたちは、店長と私を除いて、誰も互いの素顔を知りません。お互いを識別するのは、このバッジに記された“源氏名”だけです」

差し出された黒いバッジには、銀色の文字でこう刻まれていた。

――ハルカ。

順子は息を呑み、両手でそっとそれを受け取る。

胸元に当てた瞬間、ラバースーツの艶やかな黒に銀の文字が映えた。
(……私は順子じゃない。ここでは“ハルカ”なんだ……)

その事実が、彼女の心を安堵で満たしていく。

素顔を誰にも知られず、過去の影も、火傷の痕も、ここでは存在しない。

あるのはただ――仮面の下に隠された「ハルカ」という新しい存在だけ。

アキは順子の肩に手を置き、優しく微笑んだ。

「大丈夫。あなたはもう、この店にふさわしいキャストになっていますよ、ハルカ」

その名前を呼ばれた瞬間、順子の胸は熱く波打ち、マスクの内側で唇が小さく震えた。

安堵と昂揚が入り混じった笑みが、密着した仮面の下でそっと形づくられていた。

鏡の中に映るのは、黒く艶めくラバーに全身を包まれ、赤い瞳を光らせた自分――いや、ハルカだった。
(……すごい……これが……私?)

コルセットに締め付けられた腰、艶やかに光を反射する胸元、脚を長く強調する編み上げブーツ。

全身を覆う圧迫感は苦しさではなく、むしろ快感に近い。

肌がすべて覆われているのに、逆に裸よりも露わにされているような、背徳的な昂ぶりがこみあげてくる。
(この姿で……人前に出るの? 見知らぬ人たちの前に……)

想像するだけで、胸がざわついた。

羞恥と興奮が入り混じり、下腹部に熱が宿る。

夜の配信でカメラ越しに見せていた“仮面の私”が、現実世界でも舞台に立とうとしている。

その事実が、信じられないほどのエロティックな高揚感を生んでいた。

「準備はいい?」

背後からアキの声が落ちてくる。

ハルカはマスク越しに鏡を見つめ、震える息を整え、そして小さく頷いた。

「……はい」

アキは満足そうに微笑み、ハルカの手を軽く取った。

「では、行きましょう」

重厚な扉が開かれる。

奥からは、低く流れるジャズの旋律とグラスの触れ合う音、そして静かなざわめきが聞こえてくる。

アキに導かれ、ハルカはフロアへと足を踏み入れた。

ラバーブーツのヒールが床を叩くたび、空気が揺れるように感じる。

視線が――確かに、自分に注がれていた。
(あぁ……見られてる……!)

その瞬間、羞恥は甘美な快感に変わり、ハルカは仮面の下で熱く微笑んだ。


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