【R18】【挿絵多い】ラバーマスクガール

まへまへ

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第10話 初めての「命令」

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フロアに一歩足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

グラスの音も、低く流れる音楽も、すべてが遠くに霞んでいく。

――熱い。

視線が、確かに自分に突き刺さっていた。
(見てる……私を見てる……!)

全身を覆うラバースーツは光を反射し、赤い瞳が妖しく揺れている。

客たちはソファに腰掛け、あからさまに言葉を発することはない。

だが、その沈黙こそが雄弁だった。

「なんだ、この女は」

「誰だ、この艶やかな存在は」

心の中で投げかけられる視線を、ハルカは敏感に感じ取っていた。

羞恥で頬が火照る――

いや、ラバーに覆われた頬は見えないはずなのに、全身が赤くなっていく気がした。
(……もっと……もっと見てほしい……)

胸を締め付けるコルセットが、呼吸のたびに乳房を押し上げる。

その膨らみを、誰かの視線が確かに追っている。

脚を一歩踏み出すごとに、編み上げのブーツがきしみ、太腿から腰のラインへと目が滑っていく気配がある。
(あぁ……こんなに注がれるなんて……。私、順子のときは誰も見てくれなかったのに……)

その対比が、背徳の快感をさらに増幅させる。

頭の奥がじんじんと痺れ、妄想が膨らむ。

――この場で誰かが私を押し倒したら?

――このまま視線で貫かれながら、命令され、従ってしまったら?

そんな淫らな幻想が脳裏を駆け巡る。

ラバーの締め付けとブーツの重さが、逆にその妄想を現実味のあるものに変えていく。
(もっと……もっと見て……。私を欲しがって……!)

マスクの下、唇が熱を帯びて開き、舌先が震える。

それはお客様には届かない。

けれど視線を浴びるだけで、ハルカはまるで裸以上に曝け出されている感覚に陥っていた。
(私……もう戻れない……)

その確信に似た快感が、全身を駆け巡っていた。


フロアの中央、視線を浴びて熱に浮かされているハルカのもとへ、一際目立つ艶やかなラバー姿でアキが静かに歩み寄った。

「初めてなのに……堂々としているわね」

アキは耳元に顔を寄せ、低い声で囁く。

その言葉に、ハルカはマスクの下で小さく笑みを浮かべ、かすれた声で答えた。

「……なんだか……エッチな気分になっちゃって……」

アキの目が一瞬、驚きに見開かれる。

だがすぐに艶やかな笑みを浮かべ、肩を軽く叩いた。

「……素質、あるわね」

アキは近くのテーブルに置かれたドリンクを取り上げ、ハルカに手渡す。

「じゃあ、その気持ちのまま……初めてのお客様へ行ってらっしゃい」

ハルカの心臓がどくんと跳ねた。

緊張と昂揚が入り混じり、ラバーに覆われた全身に熱がこもる。

両手でグラスを持ち、視線を意識しながらソファ席へと歩み寄った。



お客様は紳士然とした年配の男性。

手元に文庫本を置き、穏やかな目をこちらに向ける。

「ありがとう」

差し出されたグラスを受け取りながら、彼はハルカを見上げ、口元に笑みを浮かべる。

「新人さん、かな?」

その言葉に、ハルカの胸は大きく跳ね、赤い瞳の奥が熱を帯びる。

羞恥か、快感か――そのどちらとも言えない感情が、喉元までせり上がってきていた。

ーーーー

お客様はハルカを見つめ、低く落ち着いた声で命令した。

「ハルカ、今感じている気分を、言葉にせず身体で表現して、私に教えてくれ」

ハルカの胸はドクンと跳ねた。

ラバースーツとマスクに包まれた全身は熱く、緊張と昂揚で震えている。

――言葉ではない……身体で……

難しい命令に、頭の中はざわめいた。

羞恥と快感、両方が入り混じり、胸の奥が熱く疼く。
(……私、正直に……伝えたい……!)



ハルカはゆっくりと床に座り、ラバーブーツに覆われた脚を広げる。

手を顔にかざし、指先を口元にそっと当てる。

妖艶に揺れる赤い瞳は、マスク越しにお客様をしっかりと見つめた。

その仕草、目線、そして密着したラバースーツから伝わる身体の熱。

すべてが、彼女の高揚とエロティックな感情を隠さずに表現していた。

お客様の視線がさらに鋭く、興味深げに輝く。

そして、満足そうに笑みを浮かべると、そっとテーブルの上に封筒を置いた。

――10万円のチップ。

ハルカはその重みを感じ、全身に鳥肌が立つ。

恥ずかしさと快感、そして成功の高揚感が入り混じり、胸の奥が熱く沸き立った。

マスクの下の唇がかすかに震える。
(……私……やった……!)

初めて、身体だけで自分の気持ちを伝え、しかも相手に喜んでもらえた。

その実感が、ハルカをさらにラバーと仮面の世界に惹き込んでいくのだった。

フロアでの最初の勤務を終え、ハルカは控え室に戻った。

ラバーに包まれた身体は汗でしっとりと光り、心臓はまだ高鳴ったままだった。

「ハルカ、初めてとは思えないわね」

アキが微笑みながら近づき、肩に手を置く。

ハルカはマスクの下で顔を赤くしながらも、心の奥で湧き上がる誇らしさを隠せなかった。

「……ありがとうございます……」

声は震えていたが、どこか誇らしげだった。

アキはゆっくりと頷き、目を細める。

「身体で気持ちを表現するのも上手だったし、あの視線の使い方……素質、十分よ」

ハルカの胸が熱く高鳴る。

羞恥と快感、緊張と達成感が渦巻き、呼吸が少し荒くなる。
(……私……こんな自分……初めてかもしれない……)

アキは控え室の一角にある椅子に座るよう促す。

「少し落ち着きなさい。でも、その高揚感を忘れないで」

ハルカは腰を下ろし、深呼吸を一つする。

ラバースーツの締め付けが、まだ身体に心地よく残っている。

胸の奥で、まだ震える快感と、次に向かう期待が混ざり合っていた。

「次も頑張れる……」

マスクの下で小さく呟き、ハルカは自分の新しい“力”を感じた。

恥ずかしさも恐怖も、すべてラバーの下で変換され、快感と自信に変わっていく。

アキはそんなハルカを見て、軽く微笑み、控え室を後にした。

ハルカは息を整えながら、次の挑戦への胸の高鳴りを感じていた。

――初めてのフロア勤務は、彼女にとってただの始まりに過ぎなかった。

時間はあっという間に過ぎ、ハルカはお客様に命令されることはなかった。

しかしハルカはドリンクを運ぶだけで全身に視線を浴びる快楽に酔いしれていた。

胸の奥がずっと高鳴り、緊張と昂ぶりが混ざったまま、フロアで過ごす時間はまるで夢のようだった。

「今日はお疲れ様、ハルカ」

アキの声にハルカははっと我に返る。

「体験入店はどうだった? やっていけそう?」

優しく問いかけるアキの目に、誇らしさと期待が混ざっているのを感じた。

ハルカは小さく頷き、マスク越しに声を震わせながら答えた。

「楽しかったです……私、採用してほしいです」

アキは微笑みながら少し離れた場所へ歩き、店長を呼んだ。

店長が現れると、アキは手を差し伸べて言った。

「採用です」

ハルカは胸が高鳴り、言葉にならない嬉しさを感じた。

アキはさらに、ラバースーツやマスクを指さして告げる。

「今日着たスーツやマスクは、すべて持って帰ってお手入れしなさい。クスッ……私みたいに自前の人もいるくらいだから」

ハルカは思わず笑みがこぼれた。
(そうか……これから、私も……)

初めてのフロア勤務を終え、採用も決まり、ハルカはラバーに包まれた自分の新しい生活に、胸を弾ませながら歩き出すのだった。
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