【R18】【挿絵多い】ラバーマスクガール

まへまへ

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第44話 アキの素顔

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深夜。

店内の照明はすでに落とされ、残っているのは控えめなフロアライトの明かりだけ。

営業を終え、キャストたちはそれぞれの荷物を抱えて帰っていった。

バックヤードのドアが閉まるたび、アキは一人ひとりに声をかけ、見送っていた。

――ありがとう。
――頑張ってね。
――また会える日まで。

その声はどこか優しく、そして別れのたびに、少しずつ夜に溶けていった。

最後のひとりを見送ったあと、店にはアキと店長、そしてハルカだけが残った。

倶楽部の夜が、完全に静寂に包まれる。

アキは花束を抱えたまま、ふとカウンターの隅に腰を下ろした。

マスクの奥から吐息が漏れる。

それは疲労ではなく、覚悟のような深い呼吸だった。

「……ハルカ」

「はい」

「この店のキャストの“素顔”を知っているのは、私と店長だけ――って話、覚えてる?」

その言葉に、ハルカはハッとしたように顔を上げた。

以前、入店したばかりの頃に聞いたことがある。

倶楽部における、もっとも厳格な掟。

「……はい。ルールですよね」

アキはゆっくりと頷いた。

「そう。だから、みんな安心して働けるのよ。どんな顔で、どんな過去があっても、このマスクの中にいる限り――“誰でもない自分”でいられる」

店長が静かに頷く。

その横で、ハルカは息を飲んでいた。

アキの言葉は、まるでバトンを渡す儀式のように響いていた。

アキは立ち上がり、花束を抱えた手でそっとハルカの肩に触れた。

「明日から、あなたがリーダーよ。だからあなたには、“キャストたちの素顔”を見る権利がある」

ハルカは目を丸くする。

「……え、私が?」

「そう。でも――自分の顔は、見せちゃダメ」

ハルカは息を詰めた。

「どうして……?」

アキはマスク越しに、ゆるやかに微笑む。

「それが、“この倶楽部のバトン”だから。次のリーダーに引き継ぐまでは、あなたは“誰でもない存在”として、この場所を守るの」

少しの沈黙。 

ハルカはゆっくりと頷いた。

「……わかりました。アキさん」

アキは満足そうに目を細めた。

「そう、それでいいの。あなたなら、きっと大丈夫」

その瞬間――静まり返った倶楽部に、時計の針の音だけが小さく響いていた。

アキの最後の夜。そして、ハルカの“新しい夜”が、静かに始まろうとしていた。

バックヤードの柔らかい光の中で、アキはゆっくりとハルカに歩み寄った。



手には艶やかな黒光りのラバーセット――女王バージョンの衣装が握られている。

「明日から、これを着なさい。私の私物も少し入ってるけど……全部、あげる」

アキはラバーをハルカに手渡しながら、優しい声で続けた。

「頑張ってね。……そして、今まで本当にありがとう」

ハルカは一瞬言葉を失い、手にしたラバーをぎゅっと握った。

アキはそのままそっとハルカを抱きしめる。

マスクの奥でハルカの心臓は早鐘のように鳴り、胸の奥に込み上げる寂しさを必死に抑えた。

ラバーマスクの中で、気づかれないように涙が一筋こぼれる。

それでもハルカは小さく頷き、アキの腕の温もりを感じながら、新しい夜に向けて覚悟を固めるのだった。

アキは抱きしめながら、低く、しかし真剣に囁いた。

「ハルカ――あなたなら、きっと大丈夫。自分を信じて、この場所を守ってね」

ハルカはその言葉に胸を熱くし、マスクの中で再び涙を拭った。


静かなバックヤードに、二人の呼吸だけが響く。

アキは真剣な顔でハルカに伝える。

「じゃあ…これから最後のバトンを渡すね。」

ハルカは目を見開き、思わず声を上げた。

「最後のバトンって……なに?」

アキは静かに微笑み、赤いカラコンを外して、床にウィッグをそっと置く。



「順番よ。私の番はここまで。これからはあなたがリーダー。だから……」

ゆっくりとマスクに手をかける。



ラバーの奥に隠れていた顔が、少しずつ、ハルカの目の前に現れる。

マスクを完全に外すと、アキの素顔――整った輪郭、柔らかな表情、透き通る肌、凛とした瞳――が光の中に浮かび上がる。

「……エッ!」

ハルカの声は思わず漏れた。








目の前に現れた素顔―――を見た瞬間、ハルカの脳裏にひらめきが走った。
(……あの人だ!大学の寮で、たまにすれ違う、長い黒髪のあの人……!)

思わず息を飲む。

本当に近くで見かけていた存在が、今、自分の目の前で、アキとして、そしてリーダーとして、こうしてバトンを渡している。

ハルカの心臓が大きく跳ね、目の前の現実とつながった瞬間、驚きと尊敬が入り混じった感情が体中に広がった。


アキは静かに話す。

「これが最後のバトン。あなたには知る権利がある。私のこの店での源氏名は「アキ」……


 ……本当の名前は「麗子」…。」


「アキさん!大学の先輩だったの!?しかも同じ寮に住んでるなんて…!」

ハルカの声は驚きで震えていた。

アキは思わず吹き出しそうになり、慌てて手で口元を押さえる。

「あんた…ムードぶち壊しじゃない…」

ハルカは顔を赤くして黙り込む。

アキはため息混じりに肩をすくめ、

「ま、いっか!」

いつものアキに戻る。

「はぁ~、もう、知らないふりするのが本当に大変だったわよ!あんたが悟と一緒に歩いてるの、見かけたときなんて、吹き出しそうになって慌てて逃げたんだから!」

ハルカは思わず吹き出す。

「えぇ!?全然わからなかったけど!?」

アキはプッと吹き出して笑いながら、

「そうだったの!だって、あんたが満開モードの顔して白いワンピース姿でバシッと決めてる姿、普段の順子の印象と全然違うんだもの。見つけた瞬間、目が点になったわよ!」

ハルカは照れ笑いを浮かべながら、心の中で「この先輩、面白すぎる…」と思った。

アキの大笑いが更衣室に響き渡り、二人の間には不思議な親近感と笑いが広がった。

ハルカは私服に着替え、アキも普段着に戻った。

店を出てると外の空気が心地よく、二人は肩を並べて歩き出す。

「ねぇ、店を出たら、私の名前は“麗子”だからね」



順子は少し驚きながらも、「え、えぇ?…麗子…」と口ごもる。

麗子はケラケラ笑いながら、「そうよ、大学や寮で見かけたら、今度は堂々と話しかけていいから」

「そ、そうなんだ…じゃあ、気軽に話していいってことね」

「そうそう、遠慮なんていらないの。ね、わかった?」

順子は照れくさそうに頷き、思わず笑みを浮かべる。

「うん、わかった…麗子先輩」

麗子は大笑いして、「うふふ、じゃあ今夜のことは店のキャストには秘密ね!」

二人は笑いながら、タクシー乗り場へと歩き出した。


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