50 / 58
第50話 到着
しおりを挟む
車内には、エンジンの低い音とタイヤが舗装路を踏むリズムが響いていた。
運転席の悟は前方を見つめながらも、後部座席の麗子子と助手席の順子の話が気になって仕方がない。
「麗子さんの“女王バージョン”、ほんとにすごかったです」
順子が、思い出したようにぽつりと言う。
「背筋がゾクってするくらい。照明が当たるたびに、ラバーの艶が変わって……あれ、完全に“芸術”ですよ」
「やだ~、やめてよ~」
麗子は照れたように笑いながらも、まんざらでもない顔。
「でも、順子だってすごかったじゃない。あの黒と白のスーツのライン、あれは完全に“禁断の美”ってやつね」
順子は顔を赤らめて両手を振る。
「や、やめてくださいよ~! あれはお店の照明マジックです!」
「照明マジックって言うけど、あのときのお客さん全員、順子に目を奪われてたわよ? 空気がピンって張りつめてたもん」
麗子の声には、ほんのり誇らしさが混じっている。
「“ああ、後輩がちゃんと育ったなぁ”って思ってたんだから」
順子は思わず笑って、少しだけ視線を落とす。
「……ありがとうございます。麗子さんがいたから、私ここまで頑張れたんですよ」
そんな二人の会話を、悟は前を見つめたまま無言で聞いていた。
だが、その口元は――明らかに緩んでいる。(……麗子さんの女王バージョン……順子の黒と白のラバー……)
頭の中で、勝手に再生される映像。
妄想が止まらない。
「……悟?」
バックミラー越しに、順子が眉をひそめた。
「……ん? な、なに?」
「なに? じゃないよ!」
順子は身を乗り出し、悟の頬を両手でむぎゅっとつねる。
「いてててっ! ちょ、順子! 運転中だから危ないって!」
「顔がにやけてるの! バレバレ!」
麗子は後部席で大笑いしていた。
「もう、悟くん……妄想しなくても大丈夫よ」
麗子はにやりと笑い、少し声のトーンを落とす。
「今日は、二人の妖艶なラバーガールを、たっぷりと見せてあげるんだから……ね?」
悟はその言葉に、思わず口元が緩む。
(え、えっ、マジか……!)
頭の中で膨らんでいた妄想が、現実に近づく予感に興奮を抑えられない。
「ほら、またニヤニヤしてる! つねっちゃうからね」
順子が悟の頬を軽くつねる。
「い、痛っ! でも……順子、その顔……恥ずかしいけど……なんか嬉しいな」
悟の声は、少し震えている。
「ふふっ、ほら、麗子さんもニヤニヤしてるでしょ?」
順子は二人を交互に見て、小さく笑う。
「んふふ……そうね。今日は存分に楽しませてもらうから、覚悟してね、悟くん」
麗子は後部席で背筋を伸ばし、妖艶に微笑む。
悟はハンドルを握ったまま、つい再び頬をつねられ、慌てて手を動かす。
「い、痛っ……でも、楽しみすぎて……もう、どうにでもなれって感じだな」
車内は笑いと小さな緊張感が混じった、不思議な高揚感に包まれていた。
ーーーーーー
車は静かに山道を上がっていった。
左右には木々が生い茂り、遠くからは風に揺れる葉の音だけが聞こえる。
対向車は一台もなく、昼間なのにどこか神秘的な雰囲気が漂っていた。
「……この先、誰もいなさそうね」
順子が窓の外を見ながら呟く。
「うん、静かすぎるくらいだな」
悟も窓から景色を眺めつつ頷く。
しばらく進むと、古びたパーキングが視界に入った。
舗装は少し荒れていて、年季の入った公衆トイレと公衆電話がぽつんと建っている。
遠くには鳥居が小さく見え、奥に古い神社の屋根も確認できた。
「ここにいったん停めて様子を見てみようか」
悟がハンドルを握りながら提案する。
車を降りた三人は、山の冷たい空気を吸い込みながら駐車場の端へと歩く。
周囲に人影はなく、風に揺れる木々の葉と小鳥のさえずりだけが耳に入る。
「鳥居、あそこね。くぐってみようか」
麗子が指差す方向に皆の視線が向く。
三人は鳥居をくぐり、古い神社へと続く小道を歩き始めた。
小道は思ったより整備されており、ハイヒールでも歩けそうな平坦な道だ。
左右には低い木々や苔むした石が点在し、古い神社の静謐な空気を引き立てている。
「ここなら、撮影も安心してできそうね」
麗子が立ち止まり、二人に向かって微笑む。
「確かに。人もいなさそうだし、トイレもあるし」
順子が横目でトイレを確認しながら答える。
「じゃあ、ここにしようか」
麗子は満足そうに頷き、順子と悟も自然に同意する。
三人は荷物を整え、森の静寂に包まれた神社へ向かって歩き始めた。
心地よい緊張感と期待が入り混じり、今日の撮影の始まりを予感させる。
運転席の悟は前方を見つめながらも、後部座席の麗子子と助手席の順子の話が気になって仕方がない。
「麗子さんの“女王バージョン”、ほんとにすごかったです」
順子が、思い出したようにぽつりと言う。
「背筋がゾクってするくらい。照明が当たるたびに、ラバーの艶が変わって……あれ、完全に“芸術”ですよ」
「やだ~、やめてよ~」
麗子は照れたように笑いながらも、まんざらでもない顔。
「でも、順子だってすごかったじゃない。あの黒と白のスーツのライン、あれは完全に“禁断の美”ってやつね」
順子は顔を赤らめて両手を振る。
「や、やめてくださいよ~! あれはお店の照明マジックです!」
「照明マジックって言うけど、あのときのお客さん全員、順子に目を奪われてたわよ? 空気がピンって張りつめてたもん」
麗子の声には、ほんのり誇らしさが混じっている。
「“ああ、後輩がちゃんと育ったなぁ”って思ってたんだから」
順子は思わず笑って、少しだけ視線を落とす。
「……ありがとうございます。麗子さんがいたから、私ここまで頑張れたんですよ」
そんな二人の会話を、悟は前を見つめたまま無言で聞いていた。
だが、その口元は――明らかに緩んでいる。(……麗子さんの女王バージョン……順子の黒と白のラバー……)
頭の中で、勝手に再生される映像。
妄想が止まらない。
「……悟?」
バックミラー越しに、順子が眉をひそめた。
「……ん? な、なに?」
「なに? じゃないよ!」
順子は身を乗り出し、悟の頬を両手でむぎゅっとつねる。
「いてててっ! ちょ、順子! 運転中だから危ないって!」
「顔がにやけてるの! バレバレ!」
麗子は後部席で大笑いしていた。
「もう、悟くん……妄想しなくても大丈夫よ」
麗子はにやりと笑い、少し声のトーンを落とす。
「今日は、二人の妖艶なラバーガールを、たっぷりと見せてあげるんだから……ね?」
悟はその言葉に、思わず口元が緩む。
(え、えっ、マジか……!)
頭の中で膨らんでいた妄想が、現実に近づく予感に興奮を抑えられない。
「ほら、またニヤニヤしてる! つねっちゃうからね」
順子が悟の頬を軽くつねる。
「い、痛っ! でも……順子、その顔……恥ずかしいけど……なんか嬉しいな」
悟の声は、少し震えている。
「ふふっ、ほら、麗子さんもニヤニヤしてるでしょ?」
順子は二人を交互に見て、小さく笑う。
「んふふ……そうね。今日は存分に楽しませてもらうから、覚悟してね、悟くん」
麗子は後部席で背筋を伸ばし、妖艶に微笑む。
悟はハンドルを握ったまま、つい再び頬をつねられ、慌てて手を動かす。
「い、痛っ……でも、楽しみすぎて……もう、どうにでもなれって感じだな」
車内は笑いと小さな緊張感が混じった、不思議な高揚感に包まれていた。
ーーーーーー
車は静かに山道を上がっていった。
左右には木々が生い茂り、遠くからは風に揺れる葉の音だけが聞こえる。
対向車は一台もなく、昼間なのにどこか神秘的な雰囲気が漂っていた。
「……この先、誰もいなさそうね」
順子が窓の外を見ながら呟く。
「うん、静かすぎるくらいだな」
悟も窓から景色を眺めつつ頷く。
しばらく進むと、古びたパーキングが視界に入った。
舗装は少し荒れていて、年季の入った公衆トイレと公衆電話がぽつんと建っている。
遠くには鳥居が小さく見え、奥に古い神社の屋根も確認できた。
「ここにいったん停めて様子を見てみようか」
悟がハンドルを握りながら提案する。
車を降りた三人は、山の冷たい空気を吸い込みながら駐車場の端へと歩く。
周囲に人影はなく、風に揺れる木々の葉と小鳥のさえずりだけが耳に入る。
「鳥居、あそこね。くぐってみようか」
麗子が指差す方向に皆の視線が向く。
三人は鳥居をくぐり、古い神社へと続く小道を歩き始めた。
小道は思ったより整備されており、ハイヒールでも歩けそうな平坦な道だ。
左右には低い木々や苔むした石が点在し、古い神社の静謐な空気を引き立てている。
「ここなら、撮影も安心してできそうね」
麗子が立ち止まり、二人に向かって微笑む。
「確かに。人もいなさそうだし、トイレもあるし」
順子が横目でトイレを確認しながら答える。
「じゃあ、ここにしようか」
麗子は満足そうに頷き、順子と悟も自然に同意する。
三人は荷物を整え、森の静寂に包まれた神社へ向かって歩き始めた。
心地よい緊張感と期待が入り混じり、今日の撮影の始まりを予感させる。
0
あなたにおすすめの小説
継承される情熱 還暦蜜の符合
MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。
しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。
母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。
同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる