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第一章 ーFirst Attackー
第6話 『お風呂回①・バイクと魔女とお風呂』
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■夜の水野邸にて
静かな夜の帳が今治の町に降りていた。
水野邸のガレージには、納車されたばかりの赤黒のGSX-R125──悠真の愛機「ワルキューレ」が、同じくこの日に納車されたばかりの志保のバイオレットパールのXSR125と並んで停められていた。どちらもピカピカに磨かれた車体が、軒下の照明に照らされて美しく輝いている。
それはまるで、ようやく再会した親子のようなバイクたちの姿だった。
⸻
■静寂の浴室、湯けむりと回想
水野邸の広々とした浴室には、仄かに湯気が立ちこめていた。
湯船には一糸纏わぬ姿の志保が、静かに肩まで浸かっている。白磁の肌に水面が映り、波紋がゆらゆらと揺れる。瞼を閉じ、志保はふうっと息を吐いた。
「……今日は、色々あったわね。でも、しまなみブルーのみんなに受け入れられて良かった……」
その表情は安堵と幸福に満ちていた。まるで長い旅路の果てに、ようやくたどり着いた“居場所”を得た人のように。
――そして、ふと脳裏に浮かぶのは、あの昼間の出来事。
⸻
■近見山展望台の出来事
あの展望台には、夏の陽射しがまだ残っていた。眩しい青空と、山の向こうに広がるしまなみの海。そんな絶景を背にして、志保にぴったりとしがみついて離れない少女の姿があった。
「えへへ……なんだか夢みたいだよ~」
その声は、瀬戸結。
大きな瞳を輝かせて、まるで少女漫画の主人公のように顔をほころばせていた。
「志保さんが、あの“しまなみの魔女”で……しかも私たちの仲間になってくれるなんて!」
志保は少し驚いたように目を見開き、微笑んだ。
「あら、結さんは私のことを知ってるのね?」
「そりゃあ、凛ちゃんに動画何回も見せられたもん! 私もすっかりファンになっちゃったよ!」
後ろから現れた彩花が「へぇ~そうなんか!」と興味津々の声を上げる。
「そんなに凄いんやったら、ウチも見てみたいなぁ」
「動画、スマホに入ってるからいつでも見られるよ!」と凛が胸を張る。
「彩花も見る?」
「ほんま? じゃ、サクッと見てみよか!」
凛のスマホを手に取り、かつての志保──“しまなみの魔女”の走りを見る彩花。映像を見つめる目が、段々と真剣なものに変わっていく。
「……」
再生が終わると、彼女はぽつりと呟いた。
「……ウチの知ってるバイクの動きちゃうわ、これ……!」
凛が得意気に笑う。
「どう? 凄いでしょ?」
「いや凄いも何も……志保さん、こんな凄まじい特技があったやなんて! ウチもファンになりそうやわ!」
悠真も驚いた表情で言葉を添える。
「ボクもびっくりしたよ。だって一緒に住んでるのに、まだ知らないことがあるなんて。志保さんって本当にミステリアスだよね」
志保は笑顔を浮かべながら軽く頭を下げた。
「うふふ。褒めてくれてありがとうね、彩花さん……悠真さん、彩花さんも、黙ってて本当にごめんなさいね」
彩花は手を振って笑う。
「ええって、そんな気にせんでも! しかしこのチーム、立ち上げてまだ間もないのに、まさか魔女なんて二つ名があるライダーが入ってくれるなんて、夢にも思わんかったわ。なぁ、結ちゃん?」
――しかし、その時。結は少しだけ首を横に振って、柔らかく笑って言った。
「……魔女とか、そんなの関係ないよ。志保さんは志保さんだもん」
その言葉に、場の空気がふっと変わる。
凛も、志保も、驚きながらその言葉を胸に刻む。
「私……今の美人で優しくて、少し悪戯好きな志保さんが大好きなの。だから嬉しいんだ。志保さんと一緒に走れることが。それがたまたま、“魔女”なんて呼ばれるほどの腕前だったってだけ」
思わず志保は、胸がいっぱいになって、結をそっと抱きしめた。
「結さん……ありがとうね。私も嬉しいわ、貴女と一緒に走れることが。だから……一緒に、バイクを楽しみましょうね。私たちのリーダーさん」
「うんっ!!」
その光景に、悠真が微笑みながら呟いた。
「ふふ……結さん、デレデレだね」
彩花も楽しそうに笑って頷く。
「そうやなぁ、ほんまに」
⸻
■回想が終わり、再び浴室
湯船の中で志保はそっと瞳を開き、ぽつりと呟いた。
「……あの時の結さん、とても可愛かったわね」
ふわりとした笑みが浮かぶ。
そこへ、浴室のすりガラス越しに影が差した。
「志保さ~ん! バスタオル足りなくなってたから補充しとくね~」
「あら、ありがとう悠真さん。良かったら、一緒に入らない? うふふ」
「……!! 入りません!! もうまた志保さんは、いつもそうやってからかうんだから~!!」
「あら私は本気よ? 女同士なんだから、問題ないじゃない。うふふ」
「志保さんが“うふふ”って言ってる時点で、からかってるの確定なの! 第一、ボクは心は女の子だと思ってるけど、体は男なんだからそういうことはいけません!」
「……もう、悠真さんはつれないわね~。いつも悠真さんのお風呂の時に私が入ってきても頑なに断ってくるし……そんなに私って魅力ないのかしらね?」
「だからってボクがお風呂に入ってる時にいつも裸で突撃するの、本当にやめてよね!!」
それでも、志保の問いの余韻が残る中で、悠真は小さな声で呟いた。
「(むしろ魅力的だから困ってるんじゃないか……)ぶつぶつ……」
――その呟き、ばっちり聞こえていた。
「あらあらまぁまぁ!……悠真さん、私のこと、そういう風に思ってたのね!?」
志保がぱしゃりと湯船から立ち上がり、そのまま脱衣所の扉を勢いよく開けた。
あまりの早さと目の前の志保の裸に悠真は硬直した。
「う……うわ……ちょっ、ちょっと志保さん、な、何して……!?」
「トランスの貴女には、女の子のイロハを色々教えてきたけど……凛さんとの将来のためにも、女の身体のこともきちんと覚えてもらわないとね! さっ、一緒に入りましょ!!」
「志保さん力強っ!! そ、そんなボク心の準備が!! わっ、わっ、キャー!!」
湯気の向こう、バタバタと抵抗する足音と、情けない悲鳴が響く。
――そして、悠真はそのまま、志保に引きずられるように浴室へと消えていった。
To be continued...
静かな夜の帳が今治の町に降りていた。
水野邸のガレージには、納車されたばかりの赤黒のGSX-R125──悠真の愛機「ワルキューレ」が、同じくこの日に納車されたばかりの志保のバイオレットパールのXSR125と並んで停められていた。どちらもピカピカに磨かれた車体が、軒下の照明に照らされて美しく輝いている。
それはまるで、ようやく再会した親子のようなバイクたちの姿だった。
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■静寂の浴室、湯けむりと回想
水野邸の広々とした浴室には、仄かに湯気が立ちこめていた。
湯船には一糸纏わぬ姿の志保が、静かに肩まで浸かっている。白磁の肌に水面が映り、波紋がゆらゆらと揺れる。瞼を閉じ、志保はふうっと息を吐いた。
「……今日は、色々あったわね。でも、しまなみブルーのみんなに受け入れられて良かった……」
その表情は安堵と幸福に満ちていた。まるで長い旅路の果てに、ようやくたどり着いた“居場所”を得た人のように。
――そして、ふと脳裏に浮かぶのは、あの昼間の出来事。
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■近見山展望台の出来事
あの展望台には、夏の陽射しがまだ残っていた。眩しい青空と、山の向こうに広がるしまなみの海。そんな絶景を背にして、志保にぴったりとしがみついて離れない少女の姿があった。
「えへへ……なんだか夢みたいだよ~」
その声は、瀬戸結。
大きな瞳を輝かせて、まるで少女漫画の主人公のように顔をほころばせていた。
「志保さんが、あの“しまなみの魔女”で……しかも私たちの仲間になってくれるなんて!」
志保は少し驚いたように目を見開き、微笑んだ。
「あら、結さんは私のことを知ってるのね?」
「そりゃあ、凛ちゃんに動画何回も見せられたもん! 私もすっかりファンになっちゃったよ!」
後ろから現れた彩花が「へぇ~そうなんか!」と興味津々の声を上げる。
「そんなに凄いんやったら、ウチも見てみたいなぁ」
「動画、スマホに入ってるからいつでも見られるよ!」と凛が胸を張る。
「彩花も見る?」
「ほんま? じゃ、サクッと見てみよか!」
凛のスマホを手に取り、かつての志保──“しまなみの魔女”の走りを見る彩花。映像を見つめる目が、段々と真剣なものに変わっていく。
「……」
再生が終わると、彼女はぽつりと呟いた。
「……ウチの知ってるバイクの動きちゃうわ、これ……!」
凛が得意気に笑う。
「どう? 凄いでしょ?」
「いや凄いも何も……志保さん、こんな凄まじい特技があったやなんて! ウチもファンになりそうやわ!」
悠真も驚いた表情で言葉を添える。
「ボクもびっくりしたよ。だって一緒に住んでるのに、まだ知らないことがあるなんて。志保さんって本当にミステリアスだよね」
志保は笑顔を浮かべながら軽く頭を下げた。
「うふふ。褒めてくれてありがとうね、彩花さん……悠真さん、彩花さんも、黙ってて本当にごめんなさいね」
彩花は手を振って笑う。
「ええって、そんな気にせんでも! しかしこのチーム、立ち上げてまだ間もないのに、まさか魔女なんて二つ名があるライダーが入ってくれるなんて、夢にも思わんかったわ。なぁ、結ちゃん?」
――しかし、その時。結は少しだけ首を横に振って、柔らかく笑って言った。
「……魔女とか、そんなの関係ないよ。志保さんは志保さんだもん」
その言葉に、場の空気がふっと変わる。
凛も、志保も、驚きながらその言葉を胸に刻む。
「私……今の美人で優しくて、少し悪戯好きな志保さんが大好きなの。だから嬉しいんだ。志保さんと一緒に走れることが。それがたまたま、“魔女”なんて呼ばれるほどの腕前だったってだけ」
思わず志保は、胸がいっぱいになって、結をそっと抱きしめた。
「結さん……ありがとうね。私も嬉しいわ、貴女と一緒に走れることが。だから……一緒に、バイクを楽しみましょうね。私たちのリーダーさん」
「うんっ!!」
その光景に、悠真が微笑みながら呟いた。
「ふふ……結さん、デレデレだね」
彩花も楽しそうに笑って頷く。
「そうやなぁ、ほんまに」
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■回想が終わり、再び浴室
湯船の中で志保はそっと瞳を開き、ぽつりと呟いた。
「……あの時の結さん、とても可愛かったわね」
ふわりとした笑みが浮かぶ。
そこへ、浴室のすりガラス越しに影が差した。
「志保さ~ん! バスタオル足りなくなってたから補充しとくね~」
「あら、ありがとう悠真さん。良かったら、一緒に入らない? うふふ」
「……!! 入りません!! もうまた志保さんは、いつもそうやってからかうんだから~!!」
「あら私は本気よ? 女同士なんだから、問題ないじゃない。うふふ」
「志保さんが“うふふ”って言ってる時点で、からかってるの確定なの! 第一、ボクは心は女の子だと思ってるけど、体は男なんだからそういうことはいけません!」
「……もう、悠真さんはつれないわね~。いつも悠真さんのお風呂の時に私が入ってきても頑なに断ってくるし……そんなに私って魅力ないのかしらね?」
「だからってボクがお風呂に入ってる時にいつも裸で突撃するの、本当にやめてよね!!」
それでも、志保の問いの余韻が残る中で、悠真は小さな声で呟いた。
「(むしろ魅力的だから困ってるんじゃないか……)ぶつぶつ……」
――その呟き、ばっちり聞こえていた。
「あらあらまぁまぁ!……悠真さん、私のこと、そういう風に思ってたのね!?」
志保がぱしゃりと湯船から立ち上がり、そのまま脱衣所の扉を勢いよく開けた。
あまりの早さと目の前の志保の裸に悠真は硬直した。
「う……うわ……ちょっ、ちょっと志保さん、な、何して……!?」
「トランスの貴女には、女の子のイロハを色々教えてきたけど……凛さんとの将来のためにも、女の身体のこともきちんと覚えてもらわないとね! さっ、一緒に入りましょ!!」
「志保さん力強っ!! そ、そんなボク心の準備が!! わっ、わっ、キャー!!」
湯気の向こう、バタバタと抵抗する足音と、情けない悲鳴が響く。
――そして、悠真はそのまま、志保に引きずられるように浴室へと消えていった。
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