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第3話 『出会いは駐輪場で』

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Scene.01 駐輪場の衝撃

 夕暮れ前、会社の裏手にある駐輪場。
 仕事帰りの結は、疲れた身体を伸ばしながら歩いていた。今日も一日、デスクに向かいっぱなし。
 けれど、その小さな疲労感も、バイクに跨がる瞬間には消える――そう知っているから、足取りは自然と軽かった。

 ところが、その駐輪場の一角で、結は思わず足を止めた。

 「なに……このカブ、めっちゃカッコいい……」



 視線の先。
 夕陽に照らされたカーキ色のホンダCT125ハンターカブが、ひときわ存在感を放っていた。
 フロントには風防。リアには焼き色が美しいチタンカラーのツーリングボックス。
 そして、静かに光を反射するヨシムラのマフラー。

 ただの通勤車ではない。
 このバイクは――走るために生まれた、持ち主の魂が宿った一台だった。

 結は小さな声を漏らしてしまう。

 「まさかね……女性がこのバイク乗ってるなんて……!」

 その時。

 「お、見てくれとった? ウチのハンターカブちゃん」

 背後から軽やかな声が響いた。
 驚いて振り返った結の目に映ったのは、長いポニーテールを揺らし、ラフなジャケット姿で笑う女性。
 彼女はにっこりと笑い、CT125の横にしゃがみこんだ。



 「うち、営業部の伊吹いぶき 彩花あやか言います~。結ちゃんやんな?」

 「えっ、あ、はい……総務の瀬戸です。え、どうして私の名前……?」

 「んー、結ちゃん、最近バイク通勤始めたって有名やで? 『ちっちゃくて可愛い子がジスペケ乗ってる』って、そりゃ話題にもなるわ」

 「えっ、そ、そうなんですか……?」

 (うわっ……もうバレてるんだ……!)

 結の頬が赤くなるのを見て、彩花は声を上げて笑った。
 その笑い声は、どこか人懐っこくて、心地よかった。



Scene.02 バイクは“人をつなぐ”

 「ていうか結ちゃん、バイク初心者なんやろ? ジスペケ選ぶとこ、センスええやん?」

 「えっ……あ、ありがとうございます……。でも、まだ怖くて、街中でうろうろするぐらいしかできてなくて……」

 「ふふ、最初はみんなそうやってビビりながら乗るんやで。ウチも、カブ以外のバイクで昔はよくエンストしまくっとったし」

 彩花はリアボックスを軽く叩き、得意げに笑った。

 「キャンプも好きでな、このハンターカブで色んなとこ行ってるんよ。しまなみはもちろん、徳島とか、高知の川原とか。まーじ、最高やで?」

 結の目が輝く。

 「……すごい。バイクでキャンプとか、私にはまだ想像もつかないです……」

 「ふふ、でも、ツーリングの風景見たら、すぐやりたくなるって。バイク女子の血が騒ぐってやつやな~!」

 彩花の自然な関西弁は、夕陽に溶け込むようにあたたかかった。
 結は胸の奥がじんわりと温まり、知らず知らずのうちに笑顔になっていた。



Scene.03 偶然とつながり

 数日後。昼休み。
 社内食堂の端、窓から陽が差し込む席に、結と彩花は並んで座っていた。

 「でな、しまなみ海道を原付で走るときって、注意すべき橋がいくつかあってな……」

 彩花はスマホで写真を見せながら、楽しそうに語る。
 大島の急カーブ、伯方大島大橋の強風ポイント、そして生口島の絶景スポット。
 結はメモを取りながら、夢中で聞き入っていた。

 「へ、へぇ……詳しいんですね……」

 「そらもう、生粋の原付二種好きやからなウチ! でもさ、結ちゃんが一人でツーリング始めようとしてるって聞いてな……」

 「えっ、一人じゃないんです。実は、……高校生の子と友達になってて。名前は凛ちゃんって言うんですけど、原付仲間で……」

 「凛……? もしかして、橘 凛ちゃん?」

 「えっ!? 知ってるんですか!?」

 「うん、ウチの妹が同じ学校でな。『バイク通学のかっこいい女子高生』ってめっちゃ噂になっとるんよ」

 「うわっ……やっぱり、すごい子だったんだなぁ」

 「それとな、凛ちゃんのバイク屋、実はウチも通ってんねん。今治オートセンターやろ?」

 「そうです!私のバイクも今治オートセンターなんですよ!すっごい偶然!」

 「ま、凛ちゃんはええ子やと思うで。せやったらさ、ウチもツーリング混ぜてや? どーせ暇しとったし!」

 「えっ、本当に!?」

 「当たり前やん!女の子だけで走るツーリング、めっちゃ楽しそうやし。今度の連休とか、ちょうどええ感じちゃう?」

 「うん、絶対楽しい……! じゃあ、みんなで計画立てませんか?」

 「おっしゃ、おもろなってきたで~!」

 笑い合う二人の距離は、この時すでにぐっと近づいていた。



Scene.04 静かに膨らむ輪

 その日の夕方。
 会社の玄関を出た結は、夕焼け空を見上げて小さく息をついた。
 スマホが震える。凛からのメッセージだった。

 《凛:伊吹 彩花さんって、確かにうちのお客さんよ。ちょっと驚いた》

 《結:そっちも驚いたんだね! ツーリング、行けそうだよ。彩花さんも乗り気だった!》

 画面越しのやりとりが、自然と笑みを誘う。

(ひとりじゃなかった。こうやって、仲間が増えていくんだ)

 駐輪場へ戻り、GSX-S125のキーを回す。
 エンジンが小さく震え、胸の鼓動と重なった。

 ――遠くへ、風の向こうへ。
 まだ見ぬ景色を探す旅が、静かに始まりつつあった。



 ――彼女たちはまだ知らない。
 このしまなみの風が、自分たちの人生を変えていくことを。

To be Continued...
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