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第24話 『寄り道マシマシ、しまなみ日和』

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Scene.01 しまなみ出発モーニング

 朝の今治港近く。コンビニ駐車場に、四台の原付二種が並んでいた。
 潮の香りと、まだ柔らかい日差し。エンジンをかける前から、旅の始まりを告げる空気がそこにあった。

 「よし、みんな揃ったね。今日は、ゆるっと寄り道しながら走ろっか」

 結がスマホホルダーにスマホをセットし、ナビアプリを起動しながら声をかける。

 「どこ寄るんやろな~。楽しみやわぁ」
 CT125の上で彩花が笑う。涼しい朝風がポニーテールを揺らし、ウインドシールド越しに目を細めた。

 凛はCB125Rのキーを回し、静かにエンジンを始動させながら結に軽く頷く。
 「あたしは亀老山がメインかな。今日は展望台、晴れてそうだし」

 「そうだね、あとで動画に残したいから……カメラ、スタート」
 悠真はGROMのハンドルに付けたアクションカムの録画ボタンを押し、赤い点滅を確認する。

 「記録、残すんやな~。そんなんできるん、ちょっとカッコええやん?」
 「ありがとう」悠真は少し照れ笑いを浮かべた。



Scene.02 来島海峡大橋の上、五つのエンジンが風になる

 四台のエンジンが一斉に目を覚ます。スロットルを開け、高架のループを登り切ると、来島海峡大橋の白い骨組みが視界いっぱいに広がった。

 「うわ……風つよっ!」
 彩花の声がインカム越しに弾ける。

 「でも気持ちいいね。海、めっちゃ綺麗」
 結が言うと、全員が「うん」と返した。

 海の青と空の青が混じり合い、遠くまで続く橋のラインが美しい。悠真はアクションカムの映像を意識しながらも、その景色を目に焼きつけた。



Scene.03 原付道での虫アタック

 橋を降り、原付専用道に入った瞬間だった。
 海沿いの田畑を抜けるルートに差し掛かると、夕方でもないのに小さな虫が無数に漂っていた。

 ――パチンッ、パチンッ。

 「……うわっ!? なんか当たった!」
 悠真が声を上げる。次の瞬間、結も叫んだ。
 「ひゃっ、シールドにいっぱい……!」

 「おーっと、これは“しまなみ恒例・虫の洗礼”やな」
 彩花が笑うが、ヘルメットの前面にはしっかり犠牲者が張り付いている。

 「うわ、あたしのシールド、模様付きになってんだけど……」
 凛がぼやくと、悠真はバイクを降りてタンクバッグを漁り始めた。

 「あ、ウェットティッシュあるから拭こ……」
 それを見た凛が慌てて制止する。
 「ちょっと待った! それってアルコールタイプじゃない?」

 「うん、アルコール入りだけど……なんで?」
 「なんでって、ポリカーボネートのシールド傷めるよ! 曇ったりヒビ入ったりするから、やめときなって」
 「えっ、そうなの……知らなかった」

 そこで彩花が得意げに口を挟む。
 「こういうときはな、ノンアルのやつか、水含ませたマイクロファイバーや。ウチはツーリングバッグに常備やで」

 「さすがエキスパート……」
 結が感心すると、彩花は胸を張る。
 「まぁな! しまなみ走っとる年季が違うんや」

 「で、その年季ある人のシールドにも、しっかり虫付いてるけどね」
 凛の冷静なツッコミに全員が吹き出した。



Scene.04 亀老山展望台での絶景

 虫との戦いを終え、再び走り出す。つづら折りの急坂を登り切ると、亀老山展望台の駐車場が現れた。

 階段を上りきった瞬間――
 「うわぁ……」全員が息をのむ。

 眼下に広がるのは、陽光にきらめく瀬戸内海と、幾重にも連なる島々。そして白く輝く大橋が、まるで空へ続く道のように架かっていた。

 「写真じゃ絶対伝わらんやつやな……」彩花が呟く。
 「風が……心まで吹き抜けるみたい」結の声は自然と小さくなる。

 悠真はカメラを外し、手持ちでゆっくりパノラマを撮る。
 「録画止めたくないけど……この景色、直接見ておきたい」

 「わかる。こういうのはデータより記憶だね」凛もシールドを上げて、風を感じた。



Scene.05 伯方島で塩ソフトに乾杯

 大島を抜けて伯方島へ。道沿いの看板を見つけた彩花が即反応する。
 「ほら見て! 伯方の塩ソフト! これは外せへんやろ!」

 全員が笑いながら駐車し、ソフトクリームを片手にベンチへ。

 「うわ、しょっぱ甘い……クセになる味や」
 「これ、動画でも映えるね」悠真が撮影し、結の口元をズームする。
 「ちょっと! 撮らないで!」
 笑い声が潮風に溶けていった。



Scene.06 大三島・海辺の鳥居で寄り道フォトタイム

 多々羅大橋を渡ってすぐ、大三島の潮風がふわっと香った。
 海沿いをしばらく走ると、左手に赤い鳥居がぽつんと海に立っているのが見えた。

 「あっ、あそこ!」
 結がインカム越しに声を上げる。
 「なになに? 宝くじ売り場でも見つけたんか?」彩花がすかさず返す。
 「なんでツーリング中に宝くじ……いや、あの鳥居が見えたから!」
 「鳥居って……あー、確かにええ感じやな。ほな寄るか」
 「ボクも行きたい。ああいうの、動画映えする」悠真が冷静に賛成する。
 「映えるとか言い出したらもうインスタ女子だね」凛が笑った。

 細い路地をゆっくり進み、波打ち際の小さな神社前に出る。
 海の中に立つ朱色の鳥居の向こうは、一面のキラキラした水面。
 波が寄せるたび、足元の小石がカラコロと音を立てた。

 「うわぁ……めっちゃ綺麗やん」
 「これ、時間帯バッチリだね。光の道ができてる」
 「……映画のワンシーンみたい」結が息をのむ。

 「じゃ、記念撮影や! 悠真ちゃん、三脚頼むわ」
 「了解です」
 悠真がカメラをセットし、全員の立ち位置を整える。
 「結さん、もうちょい右……凛ちゃんは半歩前。彩花さんは――」
 「ウチはもちろんセンターやろ?」
 「いや、真ん中は鳥居やから」
 「えー、鳥居に負けたわ……」
 「当然でしょ」凛が即答。
 「そらそうやな……って納得したら負けやん!」

 位置が決まり、悠真がシャッターのタイマーをセットして走って戻る。
 「はいチーズ!」
 カシャリ。
 全員自然な笑顔……のはずだったが、結が彩花を見て吹き出す。
 「ちょ、彩花さんだけキメ顔すぎ!」
 「いやこれが通常モードや!」
 「ほんなら次は全員キメ顔でいこ」
 「じゃああたしもやる」凛が腕を組む。
 「ボクも……って、なんでみんな急にモデルごっこ?」悠真が苦笑した。

 2枚目のシャッター音が波音に溶け、笑い声が海風に運ばれていった。
 この日いちばんの“ネタ写真”が、ここで誕生した。



Scene.07 夕暮れの帰路

 再びしまなみ海道を南下し、今治へ向かう。
 空は刻一刻と色を変え、橙から紅、やがて紫がかった群青へとグラデーションを描く。
 西の水平線近くには、沈みかけた太陽が大きく輝き、海面を金色に染めていた。

 「……やっぱ夕焼けのしまなみは反則やな」彩花がため息混じりに言う。
 「うん……なんか、走ってるだけで映画みたい」結も同意する。
 「映画やったらエンディングテーマ流れてる頃だね」凛が言うと、
 「じゃあ続編決定やな。次は泊まりキャンプ編」彩花がノリよく返す。

 「それ、いいな」悠真の声がインカムに乗る。
 「でもキャンプって寝袋で寝るんでしょ? 蚊とか……」
 「大丈夫や。しまなみの虫は優しい」
 「どこ情報それ」
 「さっきの原付道の虫アタック思い出せや」
 「優しさゼロだったよね!?」結がすかさずツッコミ。
 「歓迎や歓迎。ボディで挨拶してくるタイプや」
 「それ格闘でしょ!」凛が笑いながら返した。

 やがて最後の橋が見えてくる。
 光を失いかけた空の下、街の灯りが少しずつ輝きを増していく。
 走行ペースは自然とゆるみ、全員が無言になる時間が流れた。
 ただ、エンジン音と風の音だけが耳に残る。

 「……なんか、終わるのがもったいないね」結がぽつりと言う。
 「終わりやない、次の始まりや」彩花が即答する。
 「かっこいいこと言った」凛が笑うと、
 「録音しちゃった。次なんかあったら使える」悠真が真面目に返す。
 「ちょっコラ待てやぁ!」彩花がツッコむ。

 最後の橋を渡り切ると、今治の街が迎えてくれた。
 ヘルメットの奥で、4人全員が同じように微笑んでいた――次の旅の予感を胸に。

To be Continued...
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