しまなみブルー ー風のSHIFTー 〜中型で挫折した元バイク女子が原付二種に乗ったら仲間と出会って友情も恋も人生も全部シフトアップしてた件〜
通りすがりのしまなみライダーTAKA☆
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第39話 悠真視点『夕暮れ、斜めの地平線の先で』
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「……何だか女の子っぽいよな、お前」
東京にいた頃、中学のクラスメイトの男の子に言われた言葉。
嫌味でもからかいでもなかった。むしろ本気で言ってるような、素朴な言葉だった。
でも、当時のボクには、そのひと言が何よりも痛かった。
否定したかった。けど、それすらできなかった。
ただ笑って、「そっか」と返すしかなかった。
そうして、自分が“普通じゃない”ことを、また一つ飲み込んで、何事もなかったフリをした。
うちの父は、厳格な人だった。
男なら男らしく、という価値観の塊みたいな人で、「泣くな」「背筋を伸ばせ」「女の真似をするな」と、何度も言われて育った。
母は……ううん、母も父の影に隠れて、何も言えなかった。
だからボクは、「ボク」って言うようになった。
一人称に「わたし」と言おうとすると怒られるから。
男の子の喋り方をしてるつもりだけど、どこか不自然で、どこか中途半端で。
自分自身の言葉すら、偽りになっていた。
心は女の子だった。でも家では、それを許されなかった。
家族に、日常に、自分という存在そのものを否定される感覚は、ひどく、静かに痛かった。
そんなボクを救ってくれたのは、今治に住む母方の叔母、水野《みずの》志保《しほ》さんだった。
「しばらくこっちで暮らしなさい」と言ってくれて、ボクは転校して今治市波方町にある波方工業高校に通うことになった。
叔母の家から学校まで、徒歩で十数分。
地元の人たちは皆、優しくて、何も知らない。
ここでなら――もう少し、自分らしく生きられるかもしれない。
そんなふうに、ほんの少しだけ、心がほどけてきたある日だった。
放課後、学校近くの駐車場で、カッコいいCB125Rにまたがる女の子を見かけた。
切れ長の目に、風に揺れる黒髪。背は高くてスラリとしていて、その姿はまるでマンガの中から出てきたみたいだった。
──橘 凛。
同じ工業高校の同級生で、学科は違うけど、ちょっと目立つ存在。
背が高くて、姿勢が良くて、髪もサラッとしてて。
制服の着崩し方も自然で、バイク通学が許されるコースの生徒たちの中でも、ひときわ絵になっていた。
ある日、学校の駐輪場でCB125Rにまたがる彼女の姿を見て、どうしても目が離せなくなった。
美しい、なんて言葉じゃ足りなかった。
カッコよくて、凛としてて──名前のとおりの人だな、って思った。
最初の出逢いは、ひどく滑稽だった。
その姿に見とれていたら、不審な奴と間違われた。
……まあ当然だ。だってあの日、ボクは制服のまま、用もないのにその駐輪場を何度も通ってたから。
「お、お、俺……じゃなくて、ボク、あのっ……!」
「……アンタ、ストーカー?」
「ち、違いますっ! ただ、バイクが……!」
でもそのあと、ちゃんと話す機会をもらい少しずつ距離が縮まっていった。
そうして、彼女の後ろに乗せてもらった。
「じゃあ、悠真、乗ってみる?」
その瞬間、風が変わった気がした。
風が肌を撫でて、地面が流れて、景色が斜めに傾いていく。
カーブを曲がるたび、地平線が傾く。
夕暮れの光が、頬に斜めに差し込んでくる。
それは、ボクの知らない世界だった。息を呑むほど、美しかった。
タンデムの帰り道、ボクは凛ちゃんに「話したいことがある」と言って、自分がトランスジェンダーだと打ち明けた。
凛ちゃんは、一瞬だけ目を見開いたあと、ふわりと微笑んで「そっか」と言ってくれた。
それだけだった。でも、そのひと言が、どれだけ救いだったか。
……ボクは、そのとき初めて、凛ちゃんを「女の子」としてではなく、「特別な人」として意識した。
それからの時間は、あっという間だった。
免許を取って、結さん、彩花さんと仲良くなって、バイクを買って、GROMに乗るようになって――
皆でツーリングして、笑って、風を感じて。
そして、あの日。伯方島の伯方S・Cパークで、気持ちがあふれた。
もう、抑えきれなかった。
「凛ちゃんのこと、大好きだよ……!」
口からこぼれたその言葉は、まるでずっと前から決まっていたかのように自然で。
凛さんは、少し驚いたあとで「……あたしも」って答えてくれた。
でも、ボクにはわかってしまった。
たぶん、凛ちゃんは“人として”ボクを好きって意味で答えてくれたんだって。
それでもよかった。嬉しかった。
でも、心のどこかが、少しだけ痛かった。
ボクは――トランスである自分が、ずっと男の子しか好きになれなかった自分が、
人生で初めて本気で女の子に恋をした。
それが、凛ちゃんだった。
その凛ちゃんから、LINEが来た。
《今度の週末、二人で走りに行かない? ちょっと話したいことがあってさ》
文字を見て、胸がドキンと鳴った。
風の音が、スマホ越しに聞こえてくるようだった。
今度こそ、ちゃんと伝えよう。
「好き」って言葉に、ちゃんと意味を乗せて。
ボクは、凛ちゃんの隣を走るために、GROMのミラーを丁寧に拭いた。
きっと、あの夕暮れの斜めの地平線の先に、答えがあると信じて。
To be Continued...
東京にいた頃、中学のクラスメイトの男の子に言われた言葉。
嫌味でもからかいでもなかった。むしろ本気で言ってるような、素朴な言葉だった。
でも、当時のボクには、そのひと言が何よりも痛かった。
否定したかった。けど、それすらできなかった。
ただ笑って、「そっか」と返すしかなかった。
そうして、自分が“普通じゃない”ことを、また一つ飲み込んで、何事もなかったフリをした。
うちの父は、厳格な人だった。
男なら男らしく、という価値観の塊みたいな人で、「泣くな」「背筋を伸ばせ」「女の真似をするな」と、何度も言われて育った。
母は……ううん、母も父の影に隠れて、何も言えなかった。
だからボクは、「ボク」って言うようになった。
一人称に「わたし」と言おうとすると怒られるから。
男の子の喋り方をしてるつもりだけど、どこか不自然で、どこか中途半端で。
自分自身の言葉すら、偽りになっていた。
心は女の子だった。でも家では、それを許されなかった。
家族に、日常に、自分という存在そのものを否定される感覚は、ひどく、静かに痛かった。
そんなボクを救ってくれたのは、今治に住む母方の叔母、水野《みずの》志保《しほ》さんだった。
「しばらくこっちで暮らしなさい」と言ってくれて、ボクは転校して今治市波方町にある波方工業高校に通うことになった。
叔母の家から学校まで、徒歩で十数分。
地元の人たちは皆、優しくて、何も知らない。
ここでなら――もう少し、自分らしく生きられるかもしれない。
そんなふうに、ほんの少しだけ、心がほどけてきたある日だった。
放課後、学校近くの駐車場で、カッコいいCB125Rにまたがる女の子を見かけた。
切れ長の目に、風に揺れる黒髪。背は高くてスラリとしていて、その姿はまるでマンガの中から出てきたみたいだった。
──橘 凛。
同じ工業高校の同級生で、学科は違うけど、ちょっと目立つ存在。
背が高くて、姿勢が良くて、髪もサラッとしてて。
制服の着崩し方も自然で、バイク通学が許されるコースの生徒たちの中でも、ひときわ絵になっていた。
ある日、学校の駐輪場でCB125Rにまたがる彼女の姿を見て、どうしても目が離せなくなった。
美しい、なんて言葉じゃ足りなかった。
カッコよくて、凛としてて──名前のとおりの人だな、って思った。
最初の出逢いは、ひどく滑稽だった。
その姿に見とれていたら、不審な奴と間違われた。
……まあ当然だ。だってあの日、ボクは制服のまま、用もないのにその駐輪場を何度も通ってたから。
「お、お、俺……じゃなくて、ボク、あのっ……!」
「……アンタ、ストーカー?」
「ち、違いますっ! ただ、バイクが……!」
でもそのあと、ちゃんと話す機会をもらい少しずつ距離が縮まっていった。
そうして、彼女の後ろに乗せてもらった。
「じゃあ、悠真、乗ってみる?」
その瞬間、風が変わった気がした。
風が肌を撫でて、地面が流れて、景色が斜めに傾いていく。
カーブを曲がるたび、地平線が傾く。
夕暮れの光が、頬に斜めに差し込んでくる。
それは、ボクの知らない世界だった。息を呑むほど、美しかった。
タンデムの帰り道、ボクは凛ちゃんに「話したいことがある」と言って、自分がトランスジェンダーだと打ち明けた。
凛ちゃんは、一瞬だけ目を見開いたあと、ふわりと微笑んで「そっか」と言ってくれた。
それだけだった。でも、そのひと言が、どれだけ救いだったか。
……ボクは、そのとき初めて、凛ちゃんを「女の子」としてではなく、「特別な人」として意識した。
それからの時間は、あっという間だった。
免許を取って、結さん、彩花さんと仲良くなって、バイクを買って、GROMに乗るようになって――
皆でツーリングして、笑って、風を感じて。
そして、あの日。伯方島の伯方S・Cパークで、気持ちがあふれた。
もう、抑えきれなかった。
「凛ちゃんのこと、大好きだよ……!」
口からこぼれたその言葉は、まるでずっと前から決まっていたかのように自然で。
凛さんは、少し驚いたあとで「……あたしも」って答えてくれた。
でも、ボクにはわかってしまった。
たぶん、凛ちゃんは“人として”ボクを好きって意味で答えてくれたんだって。
それでもよかった。嬉しかった。
でも、心のどこかが、少しだけ痛かった。
ボクは――トランスである自分が、ずっと男の子しか好きになれなかった自分が、
人生で初めて本気で女の子に恋をした。
それが、凛ちゃんだった。
その凛ちゃんから、LINEが来た。
《今度の週末、二人で走りに行かない? ちょっと話したいことがあってさ》
文字を見て、胸がドキンと鳴った。
風の音が、スマホ越しに聞こえてくるようだった。
今度こそ、ちゃんと伝えよう。
「好き」って言葉に、ちゃんと意味を乗せて。
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きっと、あの夕暮れの斜めの地平線の先に、答えがあると信じて。
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