しまなみブルー ー風のSHIFTー 〜中型で挫折した元バイク女子が原付二種に乗ったら仲間と出会って友情も恋も人生も全部シフトアップしてた件〜
通りすがりのしまなみライダーTAKA☆
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第43話 『潮風ライダーズ、尾道へ向かって』〜前編・青と潮風の入り口〜
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Scene.01 ――潮風とエンジン音と、はじまりの朝
朝の空気は、ほんのり潮の香りをまとっていた。
しまなみ海道の入り口に位置する今治の街。その南端、静かな住宅地の一角で、瀬戸結はジャケットの袖を直しながら、いつもより心なしか早めに呼吸を整えていた。
隣には、青く輝くスズキGSX-S125、通称ジスペケ。
スマホホルダーには既に今日のナビルートが表示され、シートの上には前日から用意していたリュックが括りつけられている。
「……凛ちゃんと悠真ちゃんは、今日は佐田岬か」
数日前、松山の梅津寺で凛と二人で過ごした時間を思い出す。
あの時、凛ちゃんが男性恐怖症になった理由や、ずっと私のことを「好きだった」と告げてくれたこと。
「結、あたしに勇気を頂戴」そう言って、私の唇にそっと触れた彼女の想い。
驚きもあった。でも、不思議と嫌じゃなかった。
ただ、時間が経ってから思い出すたびに、顔が熱くなって、思わずため息が漏れる。
「も、もう……凛ちゃんたら……」
その時、スマホが軽く振動した。
LINEグループチャット『しまなみ女子会ツーリング組』から、メッセージ通知が届いていた。
彩花:起きとるか~? 予定通りロータリー集合やで~
琴音:はい、準備できてます!
彩花:結ちゃんも気ぃつけて来てや~。ほな、後で!
私はふっと微笑む。
今日の旅は、彩花さんと、彼女の妹・琴音ちゃんと三人でしまなみ海道を走り、尾道まで向かうルートだ。
「よし、行こう──!」
セルボタンを押すと、ジスペケのエンジンが低く唸った。
⸻
Scene.02 駅前ロータリーにて
今治駅の南口、駅前ロータリーには、既に見慣れたカブのシルエットが停まっていた。
カーキ色のCT125ハンターカブのそばで、ライディングジャケット姿の彩花さんが手を振ってくれる。
「おはよう、彩花さん!」
「おっ、来た来た~! 朝からエエ音させとるなぁ、ジスペケちゃん!」
「天気も最高ですね。……あれ、琴音ちゃんは?」
「ほい来た、どどーん!」
彩花さんの背後から、ひときわ真新しい白いスクーターが静かに滑り込んできた。
「おはようございます、結さん」
「琴音ちゃん……そのバイク……!」
「あははっ。びっくりしました?」
ピカピカのホンダ・PCX。白いボディに、シンプルだけど品のあるLEDライトが映える。
「まさか、アドレスから乗り換えたの?」
「はい。お年玉と貯金と、ちょっとだけ親の援助で……。今後みなさんと一緒にツーリングすることが増えそうなので、思い切って買っちゃいました」
「そやねん。クロスカブ推したんやけどな~、琴音はこっち選びよってな」
「だって、わたし……MT苦手やもん。見た目もPCXの方が好みやし」
「あーもぉ、せやから言うたやろ~。カブやったらATでもいけるっちゅーに」
「知ってるってば! でも、やっぱり……スクーターの快適さってあるんよ」
私が笑うと、二人も釣られるように微笑んだ。
「でも、琴音ちゃんのPCX……かっこいいね。白、すごく似合ってる」
「ありがとうございます、結さん。慣らし中なんで、今日はお手柔らかにお願いしますね?」
「ふふ、大丈夫。のんびり行こう」
「……ところでさ、スズキ仲間が居なくなっちゃった」
「そやなぁ。結ちゃん、ちょっと寂しそうやな~」
「ううん。……ま、ちょっとだけ」
私が笑うと、琴音ちゃんも「次のステッカー、スズキ柄にします?」と冗談を飛ばしてきた。
⸻
Scene.03 しまなみドルチェと、小さなサプライズ
今治から来島海峡大橋を渡り、大島・伯方島を経て多々羅大橋を抜けた頃には、朝の光が高く昇りはじめていた。
しまなみ海道の真ん中、生口島。
海沿いの緩やかなカーブを三台のバイクが軽快に走り抜ける。
目指すは、ライダーやサイクリストに人気のジェラートショップ──しまなみドルチェ 本店。
「ここやで、結ちゃん、琴音。ほら、あそこ!」
「ほんとだ、見えてきましたね。あ、けっこう人がいる……!」
駐車場手前にある、瀬戸内の海を背に小さなログハウス風の建物。
潮風に揺れる看板には「しまなみドルチェ」の文字が。
三人はそれぞれのバイクを並べて停め、ヘルメットを外して歩み寄る。
「私ここ初めて来ました。ずっと気になってたんです」
「せやろ~? ウチのおすすめは『瀬戸田のレモン』やな。季節限定もあるし、迷うで」
「うーん……どれにしようかな……」
ショーケースにずらりと並ぶカラフルなジェラートたちに、琴音ちゃんは瞳を輝かせていた。
結は、定番の“伯方の塩”と“ミルク”のダブルをチョイス。
彩花はもちろん“瀬戸田のレモン”と“藻塩キャラメル”のダブル。
琴音は“いちごミルク”と“因島のはっさく”を選んだ。
「──んん! おいしっ!」
「すっごい濃厚で、でも後味さっぱりですね」
「やろ~? ウチここの塩キャラメルほんま好きなんや」
風に吹かれながらベンチに並ぶ三人。
淡いジェラートの甘さと潮風のしょっぱさが、心地よく混ざり合う。
「……あ、そういえば。二人ともUターンブルーラインって知ってる?」
「何それ?」と琴音ちゃんが首をかしげる。
「生名島っていう島の道の名前やねん。終点のブルーラインがUの字になっててん、それが由来やな」
「Uターン……でもそれって未舗装?」
「ちゃうちゃう。ちゃんと舗装されてるよ~。めっちゃ綺麗で終点が絶景ポイントでもあるし」
「へえ、行ってみたいかも」
「なら決まりやね。因島からフェリーで弓削島まで渡って、そこからゆめしま海道をぐるっと回ってみよか」
「えっ、ゆめしま海道って、しまなみとはまた違うの?」
「そう。生名島、佐島、弓削島をつないでる橋やねん。最近、静かに人気出とるで」
「よし、琴音ちゃんも行こう?」
「はいっ!」
⸻
「Scene.04「Uターンブルーラインと、波音の午後」
静かな弓削の道を走る三台の原付二種。前を行く白いPCXが、舗装はされているものの落ち葉が積もった細道を慎重に進んでいく。
「……ここが、Uターンブルーライン?」
結がハンドルを握ったままつぶやいた。
目の前に現れたのは、木々に囲まれた静かな道。そして、その終点には――ブルーラインで描かれた、くっきりとした「U」の字。
その形は、まるでしまなみ海道の旅路が一度ここで折り返すことを示すような、そんな場所だった。
「うわ~、ホンマにUターンになってるやん」
彩花が、バイクから降りて駆け寄る。路面を指差して、にまっと笑った。
「なあ結ちゃん、これ見てみ。ロードバイクのマークもちゃんとあるやろ? ここ、サイクリスト向けのゴール地点なんやって」
「へえ……。でも、舗装はされてるけど、結構落ち葉とか小枝も多いね。走る時は慎重に進まないと危ないかも」
結はそう言いながら、バイクを止めてスタンドを立てた。
琴音もその隣にPCXを停めると、初めてのゆめしまの風景に、目を丸くする。
「わたし、こんな道があるなんて知らなかったです……なんだか、秘密の場所に来たみたい」
「ふふっ、な? すごいやろ、ゆめしま」
彩花が得意げに笑うと、木立の間から抜けるような陽光が差し込み、三人の足元にまだら模様の影を落とした。
Uターンの先に広がるのは、青く澄んだ海。
細い道をさらに数十メートル抜けた先には、こぢんまりとした砂浜と、かすかに潮騒の音が響いていた。
「わぁ……!」
琴音の目が輝く。
目の前に広がるのは、誰もいないプライベートビーチのような景色だった。
「ここ、観光地じゃないからな。地元の人か、よっぽどのチャリダーか、ツウなライダーくらいしか知らんのや」
彩花が笑いながらサイドバッグからカメラを取り出す。
結もバイクのそばで、深呼吸をした。
「……潮の匂い、するね。さっきまでとは全然ちがう……なんだろう、もっと、こう、静か」
波打ち際まで歩いて行った琴音が、しゃがみ込んで砂をすくう。
「ねえ結さん。わたし、この道、好きかも」
結は、琴音のその言葉に目を細めた。
「私も。……この場所、また来たくなるな。今日は三人だけの特別な景色って感じがする」
三人はしばらく、誰もいない海辺で、写真を撮ったり波打ち際に足を運んだりして過ごした。
海の向こうにはかすかに四国の山々が連なり、遠くの島影が夏の光に滲んでいる。
その景色を、結は黙って見つめた。
(……そうだ、今頃凛ちゃんと悠真ちゃんも、あの佐田岬のほうに向かってるんだよね)
ふと、そんな思いが胸をよぎる。
──梅津寺のあの日。
凛の涙混じりの言葉と、唇のぬくもり。それを思い出して、結はこっそり頬を赤らめた。
「も、もう凛ちゃんたら……」
小声でつぶやいた瞬間、すぐ隣で彩花が何かを感じ取ったかのようにニヤリと笑った。
「ん? なに照れてんの、結ちゃん?」
「な、なんでもないよ!」
慌てて手を振る結に、琴音がくすくすと笑う。
「結さん、なんかお顔赤いです……?」
「こ、琴音ちゃんまで! ほら、もう次行こう! また因島に戻るんでしょ?」
「せやせや~。尾道の本命グルメ、待っとるで~!」
そう言って、彩花が先頭を切るようにUターンブルーラインを引き返す。
結と琴音も続いて、あの青いラインを後にした。
その背中を追いながら、結はもう一度振り返った。
海。静かな波。Uターンのライン。
──戻ってきたくなる景色。
「……また来ようね、琴音ちゃん」
「はい!」
少女たちの笑い声が、潮風にさらわれて、ゆめしまの空へと溶けていった。
To be Continued
朝の空気は、ほんのり潮の香りをまとっていた。
しまなみ海道の入り口に位置する今治の街。その南端、静かな住宅地の一角で、瀬戸結はジャケットの袖を直しながら、いつもより心なしか早めに呼吸を整えていた。
隣には、青く輝くスズキGSX-S125、通称ジスペケ。
スマホホルダーには既に今日のナビルートが表示され、シートの上には前日から用意していたリュックが括りつけられている。
「……凛ちゃんと悠真ちゃんは、今日は佐田岬か」
数日前、松山の梅津寺で凛と二人で過ごした時間を思い出す。
あの時、凛ちゃんが男性恐怖症になった理由や、ずっと私のことを「好きだった」と告げてくれたこと。
「結、あたしに勇気を頂戴」そう言って、私の唇にそっと触れた彼女の想い。
驚きもあった。でも、不思議と嫌じゃなかった。
ただ、時間が経ってから思い出すたびに、顔が熱くなって、思わずため息が漏れる。
「も、もう……凛ちゃんたら……」
その時、スマホが軽く振動した。
LINEグループチャット『しまなみ女子会ツーリング組』から、メッセージ通知が届いていた。
彩花:起きとるか~? 予定通りロータリー集合やで~
琴音:はい、準備できてます!
彩花:結ちゃんも気ぃつけて来てや~。ほな、後で!
私はふっと微笑む。
今日の旅は、彩花さんと、彼女の妹・琴音ちゃんと三人でしまなみ海道を走り、尾道まで向かうルートだ。
「よし、行こう──!」
セルボタンを押すと、ジスペケのエンジンが低く唸った。
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Scene.02 駅前ロータリーにて
今治駅の南口、駅前ロータリーには、既に見慣れたカブのシルエットが停まっていた。
カーキ色のCT125ハンターカブのそばで、ライディングジャケット姿の彩花さんが手を振ってくれる。
「おはよう、彩花さん!」
「おっ、来た来た~! 朝からエエ音させとるなぁ、ジスペケちゃん!」
「天気も最高ですね。……あれ、琴音ちゃんは?」
「ほい来た、どどーん!」
彩花さんの背後から、ひときわ真新しい白いスクーターが静かに滑り込んできた。
「おはようございます、結さん」
「琴音ちゃん……そのバイク……!」
「あははっ。びっくりしました?」
ピカピカのホンダ・PCX。白いボディに、シンプルだけど品のあるLEDライトが映える。
「まさか、アドレスから乗り換えたの?」
「はい。お年玉と貯金と、ちょっとだけ親の援助で……。今後みなさんと一緒にツーリングすることが増えそうなので、思い切って買っちゃいました」
「そやねん。クロスカブ推したんやけどな~、琴音はこっち選びよってな」
「だって、わたし……MT苦手やもん。見た目もPCXの方が好みやし」
「あーもぉ、せやから言うたやろ~。カブやったらATでもいけるっちゅーに」
「知ってるってば! でも、やっぱり……スクーターの快適さってあるんよ」
私が笑うと、二人も釣られるように微笑んだ。
「でも、琴音ちゃんのPCX……かっこいいね。白、すごく似合ってる」
「ありがとうございます、結さん。慣らし中なんで、今日はお手柔らかにお願いしますね?」
「ふふ、大丈夫。のんびり行こう」
「……ところでさ、スズキ仲間が居なくなっちゃった」
「そやなぁ。結ちゃん、ちょっと寂しそうやな~」
「ううん。……ま、ちょっとだけ」
私が笑うと、琴音ちゃんも「次のステッカー、スズキ柄にします?」と冗談を飛ばしてきた。
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Scene.03 しまなみドルチェと、小さなサプライズ
今治から来島海峡大橋を渡り、大島・伯方島を経て多々羅大橋を抜けた頃には、朝の光が高く昇りはじめていた。
しまなみ海道の真ん中、生口島。
海沿いの緩やかなカーブを三台のバイクが軽快に走り抜ける。
目指すは、ライダーやサイクリストに人気のジェラートショップ──しまなみドルチェ 本店。
「ここやで、結ちゃん、琴音。ほら、あそこ!」
「ほんとだ、見えてきましたね。あ、けっこう人がいる……!」
駐車場手前にある、瀬戸内の海を背に小さなログハウス風の建物。
潮風に揺れる看板には「しまなみドルチェ」の文字が。
三人はそれぞれのバイクを並べて停め、ヘルメットを外して歩み寄る。
「私ここ初めて来ました。ずっと気になってたんです」
「せやろ~? ウチのおすすめは『瀬戸田のレモン』やな。季節限定もあるし、迷うで」
「うーん……どれにしようかな……」
ショーケースにずらりと並ぶカラフルなジェラートたちに、琴音ちゃんは瞳を輝かせていた。
結は、定番の“伯方の塩”と“ミルク”のダブルをチョイス。
彩花はもちろん“瀬戸田のレモン”と“藻塩キャラメル”のダブル。
琴音は“いちごミルク”と“因島のはっさく”を選んだ。
「──んん! おいしっ!」
「すっごい濃厚で、でも後味さっぱりですね」
「やろ~? ウチここの塩キャラメルほんま好きなんや」
風に吹かれながらベンチに並ぶ三人。
淡いジェラートの甘さと潮風のしょっぱさが、心地よく混ざり合う。
「……あ、そういえば。二人ともUターンブルーラインって知ってる?」
「何それ?」と琴音ちゃんが首をかしげる。
「生名島っていう島の道の名前やねん。終点のブルーラインがUの字になっててん、それが由来やな」
「Uターン……でもそれって未舗装?」
「ちゃうちゃう。ちゃんと舗装されてるよ~。めっちゃ綺麗で終点が絶景ポイントでもあるし」
「へえ、行ってみたいかも」
「なら決まりやね。因島からフェリーで弓削島まで渡って、そこからゆめしま海道をぐるっと回ってみよか」
「えっ、ゆめしま海道って、しまなみとはまた違うの?」
「そう。生名島、佐島、弓削島をつないでる橋やねん。最近、静かに人気出とるで」
「よし、琴音ちゃんも行こう?」
「はいっ!」
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「Scene.04「Uターンブルーラインと、波音の午後」
静かな弓削の道を走る三台の原付二種。前を行く白いPCXが、舗装はされているものの落ち葉が積もった細道を慎重に進んでいく。
「……ここが、Uターンブルーライン?」
結がハンドルを握ったままつぶやいた。
目の前に現れたのは、木々に囲まれた静かな道。そして、その終点には――ブルーラインで描かれた、くっきりとした「U」の字。
その形は、まるでしまなみ海道の旅路が一度ここで折り返すことを示すような、そんな場所だった。
「うわ~、ホンマにUターンになってるやん」
彩花が、バイクから降りて駆け寄る。路面を指差して、にまっと笑った。
「なあ結ちゃん、これ見てみ。ロードバイクのマークもちゃんとあるやろ? ここ、サイクリスト向けのゴール地点なんやって」
「へえ……。でも、舗装はされてるけど、結構落ち葉とか小枝も多いね。走る時は慎重に進まないと危ないかも」
結はそう言いながら、バイクを止めてスタンドを立てた。
琴音もその隣にPCXを停めると、初めてのゆめしまの風景に、目を丸くする。
「わたし、こんな道があるなんて知らなかったです……なんだか、秘密の場所に来たみたい」
「ふふっ、な? すごいやろ、ゆめしま」
彩花が得意げに笑うと、木立の間から抜けるような陽光が差し込み、三人の足元にまだら模様の影を落とした。
Uターンの先に広がるのは、青く澄んだ海。
細い道をさらに数十メートル抜けた先には、こぢんまりとした砂浜と、かすかに潮騒の音が響いていた。
「わぁ……!」
琴音の目が輝く。
目の前に広がるのは、誰もいないプライベートビーチのような景色だった。
「ここ、観光地じゃないからな。地元の人か、よっぽどのチャリダーか、ツウなライダーくらいしか知らんのや」
彩花が笑いながらサイドバッグからカメラを取り出す。
結もバイクのそばで、深呼吸をした。
「……潮の匂い、するね。さっきまでとは全然ちがう……なんだろう、もっと、こう、静か」
波打ち際まで歩いて行った琴音が、しゃがみ込んで砂をすくう。
「ねえ結さん。わたし、この道、好きかも」
結は、琴音のその言葉に目を細めた。
「私も。……この場所、また来たくなるな。今日は三人だけの特別な景色って感じがする」
三人はしばらく、誰もいない海辺で、写真を撮ったり波打ち際に足を運んだりして過ごした。
海の向こうにはかすかに四国の山々が連なり、遠くの島影が夏の光に滲んでいる。
その景色を、結は黙って見つめた。
(……そうだ、今頃凛ちゃんと悠真ちゃんも、あの佐田岬のほうに向かってるんだよね)
ふと、そんな思いが胸をよぎる。
──梅津寺のあの日。
凛の涙混じりの言葉と、唇のぬくもり。それを思い出して、結はこっそり頬を赤らめた。
「も、もう凛ちゃんたら……」
小声でつぶやいた瞬間、すぐ隣で彩花が何かを感じ取ったかのようにニヤリと笑った。
「ん? なに照れてんの、結ちゃん?」
「な、なんでもないよ!」
慌てて手を振る結に、琴音がくすくすと笑う。
「結さん、なんかお顔赤いです……?」
「こ、琴音ちゃんまで! ほら、もう次行こう! また因島に戻るんでしょ?」
「せやせや~。尾道の本命グルメ、待っとるで~!」
そう言って、彩花が先頭を切るようにUターンブルーラインを引き返す。
結と琴音も続いて、あの青いラインを後にした。
その背中を追いながら、結はもう一度振り返った。
海。静かな波。Uターンのライン。
──戻ってきたくなる景色。
「……また来ようね、琴音ちゃん」
「はい!」
少女たちの笑い声が、潮風にさらわれて、ゆめしまの空へと溶けていった。
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