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第42話 『佐田岬に恋の花が咲く3――告白』

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 Scene.06:涙の告白、そして想いの再確認

 道の駅・きらら館の駐車場に、ようやく静けさが戻った頃。

 西の空はすでに朱を差し始めていた。佐田岬半島の向こう、遠くの水平線へと傾いていく夕日。海の光がキラキラと波を照らし、ゆっくりと、夜の帳が下りようとしていた。

 悠真は、バイクの隣で静かに佇む凛のもとへと戻ってきた。

 凛は、まだ少し震えていた。

 「……凛ちゃん、ごめん。佐田岬まで行く時間、もうなさそうだね」

 その声に、堰を切ったように凛が飛び込んできた。

 「……怖かった、怖かったよぉぉぉ……!」

 肩がびくんびくんと揺れる。泣きじゃくりながら、悠真の胸元にしがみつく凛。いつも強気で、クールな彼女の姿はそこにはなかった。

 「ごめんね……ボク、もっと早く気づいてたら……!」

 「ううん……助けてくれて、ありがとう……ありがとう、悠真……」

 涙の混ざった声。髪の毛が揺れて、胸の奥にしまっていた何かがゆっくりと溶けていく。

 悠真はそっと凛の肩に腕を回し、彼女の背中をやさしく撫でた。

 「凛ちゃん、大丈夫。もう誰も、凛ちゃんに触れさせない。ボクが守る」

 その言葉に、また涙が止まらなくなった。

 (なんで……なんでこんなに優しいの……)

 震える声で、凛は言った。

 「あたし、ずっと怖かった……今まで色々あって、男の人が怖かったの……」

 「……うん」

 「でも……でもあんたは違った。あんたは……悠真はどこまでも優しくて……あたしに手を伸ばしてくれて……」

 そして――

 「……あたし、悠真が好き。大好き」

 言ってしまった。心の奥底に隠していた、本当の気持ち。

 「トランスとか関係ない。あたしは……1人の男の子として、悠真、あんたを愛してる」

 風がそっと吹いた。しばしの沈黙の後、悠真がぽつりと呟いた。

 「……やっぱり、通じてなかったんだね」

 「え……?」

 「この前、伯方島で“大好きだよ”って言ったのに……凛ちゃん、きっと“人として好き”って思ったでしょ?」

 凛は目を見開いた。

 「ち、ちが……あたし、勝手に思い込んでて……」

 悠真が小さく笑った。その瞳は、今まで見たことのないほど優しかった。

 「だったら、もう一度言うよ。ボクは、凛ちゃんが好きです。
  こんなボクを受け入れてくれた凛ちゃんが好きです。
  友達としてじゃない。1人の女性として、心から愛しています。
  こんなボクでよければ、ボクの恋人になってください」

 凛は、涙をぬぐう暇もなく、勢いよく頷いた。

 「……もちろんだよっ!」

 そして、二人はそっと唇を重ねた。



 長く、優しいキス。

 ずっと遠回りして、ようやく辿り着いた想いの行き先。



Scene.07:夜の約束と、朝の佐田岬へ

 唇を離したあと、しばらくの間、凛は悠真の胸に顔を埋めたまま動かなかった。

 ふたりの鼓動だけが、ゆっくりと時を刻む。

 「……今日は」

 ぽつりと凛が呟いた。

 「今日は……もうちょっとだけ、このまま一緒にいたい」

 「……凛ちゃん」

 「ダメ?」

 その声は不安げで、どこか幼くもあって。

 悠真は、そっと頷いた。

 「いいよ」

 その一言がすべてだった。

 ──この人となら、大丈夫。

 ふたりは、その夜、近くの宿に部屋を取り、並んで眠った。
 多くは語らなかったが、気持ちは確かにそこにあった。

 部屋の窓からは、うっすらと月明かり。
 静かな夜風が、ほんの少しだけ、カーテンを揺らしていた。

 ベッドの中でそっと手を重ねる。

 「……あったかいね」

 「うん」

 それだけで、世界は安心に包まれる。

 そして──

 夜が明けた。



 まだ空が白み始める前。
 悠真は目覚ましよりも早く、自然と目を覚ました。

 静かにカーテンを開けると、遠くに佐田岬が見える。

 「……行こうか、凛ちゃん」



 ふたりは再びGROMとCB125Rに跨がり、海沿いの道を駆ける。

 早朝の空気は澄み渡り、風が心地よかった。

 佐田岬メロディーラインを走り抜け、やがて到着した先──

 それが、四国最西端・佐田岬。

 展望台に登り、凛と肩を並べて朝日を待つ。

 やがて、水平線の彼方から、真っ赤な光が顔を出した。

 「わぁ……」

 思わず漏れた凛の声。

 悠真もまた、自然と微笑んでいた。

 「……キレイだね」

 「うん」

 肩がそっと触れる。重なる視線。
 言葉がなくても、ふたりにはすべてが伝わっていた。

 風が吹く。
 この日、この朝の空気を、ずっと忘れないと誓った。



──こうして、凛と悠真の恋は、ようやく静かに始まった。

To be Continued...
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