王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22

文字の大きさ
27 / 181

騒めく屋敷と揺れる心

しおりを挟む
朝。起きろと眩しく照りつける日を身体に感じながら身をおこした。
編んでもらった髪をそのままに寝たのだが、外したらどうなるのだろう。
そろりと解いてみると、綺麗に巻かれていた。
(どうせ結ぶのに、勿体無いな....)
まあ人に見せるものでもない。着替えて髪をまとめ、外に出るとあちこちで声が飛び交っていた。
「ねえ、聴いた?昨日のハープ!殿下が腕の良い楽師を雇ったに違いないわ!」
「カルラが急に退職ですって。家の事情かしら?」
見るもの全てがこの2つのどちらかを話題にしていると言っても過言ではない。こんなところグレータが見たら雷が落ちそうだが。
「セラ!」
アメリスがかけよってきた。こういう噂ごとが好きなのはエリシアより彼女だろう。
「アメリス。おはよう。」
「おはよう。あら今日髪かわいいわね、どうしたの....ってそれどころじゃないわ!」
「どうしたの?」
「聞いたでしょ?あの噂よ!楽師なんて見かけなかったわ!どこにいるのかしら?」
「さあ.....」
下手なことを言って口を滑らせたくない。不評を買わなかったことは嬉しいが噂の中心になるのはごめんだ。
「男かしら?女かしら?女なら殿下が隠しておきたくなるのも分かるわねぇ。」
「どっちだろうね。」
「絶対女よ。それも美人なんだわ.....まさか貴女じゃないでしょうね?」
突然向けられる矛先に驚く。女の勘とは侮れない。
「違うわよ。何でそうなるの」
「だってセラが来てから殿下のお帰りが早くなったのよ。これは間違いないわ。寵愛する女が2人いるなんておかしいじゃない。」
「待って。色々違うから。お帰りのことは知らないけどとにかく仕事。仕事しよ?ね?グレータ様に怒られるよ。」
「貴女が来る前殿下の帰られる時間が何時だったと思う?明け方よ!皆振り回されてたんだから。」
それは確かに大変だ。つくづくレオの下につくものの苦労は計り知れない。
「今日は口がよく回るのね?アメリス。」
穏やかに聞こえてどんな圧よりも強い声が差し込まれた。
「グ、グレータ様.....」
「セラ、貴女も相手にせず仕事をなさい。全く、今日は面倒なことになりそうね。」
珍しくグレータがこめかみを抑えている。この人もレオに振り回されている1人と言っていいのだろう。
まだ話したくてたまらなさそうな顔をしたアメリスを尻目に水桶と掃除用具を持って奥へ進んだ。1日を通して聞こえてきた噂はオヒレをつけ、膨らむ一方のようだった。
「楽師は男で殿下は男色だっただの、カルラは麻薬を使って牢に入れられたと的を射たものまで.....それはすごいものです。」
「ははっそれはすごいな。俺が男色ときたか。」
「笑い事ですか?」
「笑い事だ。事実は違うからな。」
とまあ夜呼ばれ、レオの部屋にいながらこちらも今日の噂話をネタにしているのだからなんとも言えない。
「そのうち飽きるさ。人間退屈な屋敷に閉じ込められていてはおかしくもなる。パーティーでもするか?」
「殿下がなさりたいのなら開けばいいでしょう。」
「だからその殿下はやめてくれ。冗談に決まっているだろう。」
「誕生日などに従者も集めてパーティーを開く貴族もいると聞きます。」
「誕生日パーティーなんぞ面倒だ。俺を理由に宴を開くぐらいなら勝手に開けばいい。」
「それが出来ないから理由がいるのでしょう。そういえばいつなのですか?誕生日。」
「12月1日だ。お前は?」
「8月5日です。もうすぐですね、誕生日。」
「まあな。お前のは過ぎてるじゃないか。」
「そうですね。」
「来年は盛大に祝おう。しかし昨日は助かったよ。」
「お役に立てましたでしょうか?」
「ああ、大いに立った。仕事にも、俺にもな。」
「それならばよかったです。捕まえたものから話は聞けたのですか?」
「離脱症状が酷くてな....聞けた話によると休みに街を散策中、ケンダル....部隊長だった男だな。ある店で呼び止められ、おたくの主人が最近眠れてないだろう。これを使うと良いと言って小袋を渡されたそうだ。」
「主人?」
「そう。つまり俺だな。ケンダルは半信半疑だった。だから先に自分がと試した。」
「結果自分と恋人が中毒になってしまったと。」
「そういうことだ。あとな、アンナという侍女、問い詰めたら吐いたぞ。カルラから分けてもらっていたらしい。」
「そうですか.....しかし、狙いはレオ様だったということですね。」
「そういうことだ。やり方がえらく回りくどいがな。」
「成功率も低い気がします。」
「そこなんだよな....目的が分からん。分からんと言えばこの間の賊の件もだ。」
「裏で手を引いていた貴族ですか?」
「ああ。お前のおかげで商家は分かったんだが、遂に貴族の名前は出てこなかった。足跡もない。」
「妙ですね......」
「そうなんだ。麻薬に関しては近頃貴族の間でも流行り始めているらしい。そちらも調査中だ。」
「それはまた骨が折れそうな。」
「本当にな。だから癒してくれ。」
「弾きますか?」
「その前に髪を解いてくれないか?」
「髪をですか?」
「昨日見たいと言っただろう?」
「ああ.....」
見られながら髪を解くのはなんだか落ち着かない。髪を解くと1日が終わった気がする。
「いつものもいいが、これもいいな。」
髪に触れながら上機嫌なレオを見ていると抵抗する気にならないから不思議だ。
「深いダークグリーンに、金糸のドレスなんかが映えそうだ。意外とピンク系もいけるか?」
そんなにファッションにこだわりのある人だとは知らなかった。
真顔でぶつぶつ分析している姿はなんだか面白い。
「どうだ?どんな色がいいと思う?」
「はい?」
「着たいドレスの色。女なら好みの一つや二つあるだろう。」
「さあ....あまり考えたことはありませんが....」
「小さい頃は?憧れたのとかないのか?」
「それなりに可愛いものが好きでしたよ。ピンクとか、花とか。」
「どれも似合う。見るのが楽しみだな。」
何来るはずのない未来を見ているんだ。
チクリと痛んだ胸に、気づかないフリをした。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛とオルゴール

夜宮
恋愛
 ジェシカは怒っていた。  父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。  それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。  絡み合った過去と現在。  ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。 姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。 しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──? 全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!

天才魔術師の仮面令嬢は王弟に執着されてます

白羽 雪乃
恋愛
姉の悪意で顔半分に大火傷をしてしまった主人公、大火傷をしてから顔が隠れる仮面をするようになった。 たけど仮面の下には大きい秘密があり、それを知ってるのは主人公が信頼してる人だけ 仮面の下の秘密とは?

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

捨てられた悪役はきっと幸せになる

ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。 強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。 その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。 それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。 「ヴィヴィア、あなたを愛してます」 ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。 そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは? 愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。 ※この作品は、人によっては元鞘話にみえて地雷の方がいるかもしれません。また、ヒーローがヤンデレ寄りですので苦手な方はご注意ください。

公爵家の養女

透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア 彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。 見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。 彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。 そんな彼女ももう時期、結婚をする。 数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。 美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。 国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。 リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。 そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。 愛に憎悪、帝国の闇 回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった―― ※月曜にから毎週、月、水曜日の朝8:10、金曜日の夜22:00投稿です。 小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...