王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22

文字の大きさ
35 / 181

香を識る時間

しおりを挟む
「セラ、こちらへ。」
たまに呼び出しを受けるセラがどこへ行っているのかは聞かないことが暗黙の了解となっていた。連れて行かれるのは昼間ならレオの執務室が多いのだが、今日は寝室のようだ。
「失礼します。」
「セラ、来たか。」
部屋には見たことのない男がいた。テーブルには美しいガラス細工で作られた小瓶が並んでいる。
「セラ、商人のダフトルだ。俺はいつも彼から香を買っている。」
「ダフトルと申します。以後お見知り置きを。」
「セラと申します。」
物静かな老商人はその口の固さで信頼を得てきたのだろう。
「ダフトルは東洋の香まで幅広く取り扱っている。色々試してみるといい。」
「殿下はアンバーグリス、ベチバー、カンファー辺りがお好みですな。ムスクは最近はおやめになったようですが。」
「ムスク....医療的にも非常に貴重で効果の高いものですが、おやめになったのですか?」
「あ、ああ....医療にはいいんだろうが、俺は健康だからな。」
「でも、使われていたんでしょう?」
レオの視線が泳ぐ。何でそんなに気まずそうなんだろう。
ダフトルはどこか楽しそうだ。
「殿下もまだまだお若いですな。さ、試してみなされ。医療の知識をお持ちなら難しいかもしれませんが、純粋に香りを楽しむのも良いですぞ。」
「試してみたいのはあるか?」
「いつも殿下が使われているものを試してみたいのですが...」
「ああ、それならこちらです。」
差し出された3本の瓶。順に試してみる。
「あ、これです。この匂いが好きで。」
「アンバーグリスですか。甘さを残しつつ深さのある香ですな。」
「他は苦手か?」
「いえ、自分が纏う気にはなりませんが、殿下の纏われる香りとしては合っているように思います。」
「アンバーグリスがお好きならこの辺りはどうですかな?」
そう言って差し出された2本を試してみると確かに好みに合った。
「甘いのに落ち着きます。2つとも木ですか?」
「ええ。ローズウッドとサンダルウッドです。」
「ローズウッドは確かに合うな。甘いのに品があって、他にも呑まれない強さもある。」
「そうでしょうか。」
「ああ。少し甘さがある方が好みか?それならこれも試してみるといい。」
「アンバーウッドとベンゾインですな。私も良いと思っていました。」
ベンゾインは温かい、安心する香りだ。例えるなら夕暮れだろうか。アンバーウッドは.....
「夜....でしょうか。微かに渋みがあって好きですが昼には少し重い気がします。」
「夜使うんだからいいんじゃないか?」
「それもそうかもしれませんね。でも選ぶなら違うのにします。」
「何言ってるんだ?5つぐらいは買う予定だった。今までのが気に入ったなら丁度5つだ。」
「流石に多すぎやしませんか?」
店に連れて行かなかった理由はこれか。店に入れば値段を嫌でも意識してしまう。
「多くない。どうせ混ぜて使うんだ。色々試せていいだろ?」
「なんだか薬の調合みたいですね....」
「似たようなもんだ。試さないと好きなものも分からない。ダフトル、今言ったものをくれ。」
「あ、ちょっと....」
この商人は口は固いが手は速い。薦める商品も的確だった。非常に有能だ。自分がもし商人になっていたらここまで有能だったとは思えない。
「また頼む。グレータ、見送りを。」
「かしこまりました。」
反論の余地もなく気づけば商人は屋敷を出ていた。置いてけぼりでも喰らった気分だ。
「夜が楽しみだ。早くに聞くんだったな。」
楽しそうなレオを見るとまあいいかと思ってしまうのだから何とも言えない。
「仕事に戻ってもいいでしょうか?」
「ああ。後でな。」
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛とオルゴール

夜宮
恋愛
 ジェシカは怒っていた。  父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。  それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。  絡み合った過去と現在。  ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ
恋愛
倉敷紗々(30歳)、独身。両親に結婚をせがまれて、嫌気がさしていた。 仕方なく、結婚相談所で登録を行うことにした。 本当は、結婚なんてしたくない、子供なんてもってのほか、どうしたものかと考えた彼女が出した結論とは? ※BL(ボーイズラブ)という表現が出てきますが、BL好きには物足りないかもしれません。  主人公の独断と偏見がかなり多いです。そこのところを考慮に入れてお読みください。 ※番外編に入り、百合についても語り始めました。  こちらも独断と偏見が多々あるかもしれないのでご注意ください。 ※この作品はフィクションです。実際の人物、団体などとは関係ありません。 ※番外編を随時更新中。

天才魔術師の仮面令嬢は王弟に執着されてます

白羽 雪乃
恋愛
姉の悪意で顔半分に大火傷をしてしまった主人公、大火傷をしてから顔が隠れる仮面をするようになった。 たけど仮面の下には大きい秘密があり、それを知ってるのは主人公が信頼してる人だけ 仮面の下の秘密とは?

捨てられた悪役はきっと幸せになる

ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。 強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。 その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。 それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。 「ヴィヴィア、あなたを愛してます」 ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。 そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは? 愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。 ※この作品は、人によっては元鞘話にみえて地雷の方がいるかもしれません。また、ヒーローがヤンデレ寄りですので苦手な方はご注意ください。

【13章まで完結】25人の花嫁候補から、獣人の愛され花嫁に選ばれました。

こころ ゆい
恋愛
※十三章まで完結しました。🌱 お好みのものからお読み頂けますと幸いです。🌱 ※恋愛カテゴリーに変更です。宜しくお願い致します。🌱 ※五章は狐のお話のその後です。🌱 ※六章は狼のお話のその後です。🌱 ※七章はハシビロコウのお話のその後です。🌱 ※九章は雪豹のお話のその後です。🌱 ※十一章は白熊のお話のその後です。🌱 ーーそれは、100年ほど前から法で定められた。 国が選んだ25人の花嫁候補。 その中から、正式な花嫁に選ばれるのは一人だけ。 選ばれた者に拒否することは許されず、必ず獣人のもとに嫁いでいくという。 目的はひとつ。獣人たちの習性により、どんどん数を減らしている現状を打破すること。 『人間では持ち得ない高い能力を持つ獣人を、絶やしてはならない』と。 抵抗する国民など居なかった。 現実味のない獣人の花嫁など、夢の話。 興味のない者、本気にしない者、他人事だと捉える者。そんな国民たちによって、法は難なく可決された。 国は候補者選びの基準を、一切明かしていない。 もちろん...獣人が一人を選ぶ選定基準も、謎のまま。 全てをベールに包まれて...いつしかそんな法があること自体、国民たちは忘れ去っていく。 さて。時折、絵本や小説でフィクションの世界として語られるだけになった『花嫁たち』は...本当に存在するのだろうかーー。 皆が知らぬ間に、知らぬところで。 法によって...獣人の意思によって...たった一人の花嫁として選ばれた女の子たちが、個性豊かな獣人たちに溺愛される...これはそんなお話です。

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

処理中です...