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確かめられた愛の言葉、失われた逃げ場
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確かめられた愛の言葉、失われた逃げ場
空が白み、窓から微かな陽の光が差していた。
(眠れなかったな....)
大人しく眠れと言う方が酷な話なのだ。
『愛してる、セラ』
震える声で告げられた言葉が頭にこだまする。
熱に浮かされただけだ。そう思いたかった。
(なら何故抱かなかった?抱けば楽になるのに...)
この問答を何度したことか。自分の立場を弁えない人じゃないはずだった。ただの村人だった自分を愛するなど正気の沙汰ではない。
(私が養子になれていたら...違っただろうか)
考えても無駄なことを。過去を変えることなどできはしない。そんなことは分かっている。分かっているからこそ....
(早くライを見つけてここを出よう。)
間違いを犯す前に。
(さて、庭、廊下から始めて次は香炉と花瓶の確認か...)
いつも通りにしていればいい。何もなかったことに、してしまえばいいのだ。
着替えを終え、庭を整え、廊下を進んでいると人影が見えた。壁にもたれた影は恐らく今1番見たくない人だった。
「セラ」
「殿下、おはようございます。ご気分は?」
「もう問題ない。セラ、こっちへ来い。」
一晩で随分やつれたように見える。一体どれほど苦しんだのか。
連れて行かれたのは寝室だった。
なんとなく嫌な予感を感じながらついていく。
パタンとドアが閉まるとバツの悪そうな顔をしていた。
(あの時もこんな顔をしていたな)
「.....悪かったな、昨日は。」
「いえ、私こそ、何のお役にも立てず申し訳ありませんでした。」
「俺が出ろと言ったんだ。お前は悪くない。セラ。」
「はい」
「昨晩俺が言ったこと、忘れてないな?」
ああ。こんな時くらい期待を裏切ってくれてもいいのに。
「忘れろと言う方が無茶だと思うのですが。」
「ならいい。いいか、俺はあれを熱に浮かされて言ったんじゃない。」
やめて。お願いだからその先を言わないで。
その願いも虚しく彼の口から紡がれる言葉はセラが予想した通りの言葉だった。
「セラ、愛してる。こんな形で伝えることになったのは不本意だが、この気持ちに嘘偽りはない。」
「......私は、一介の侍女です。殿下もお分かりでしょう。」
「ああ、今は....な。だから直ぐに応えなくていい。今まで通りに接してくれ。」
含みのある言い方。この人はどこまで気づいているのだろう。それを確認する勇気はセラにはなかった。
「......分かりました。」
ゆっくりと髪を掬い、口づける仕草は薬が抜けたはずなのに艶めかしい。
「セラ、お前を必ず手に入れる....逃げるなよ。」
鋭くも愛の混じった目を向けられると逃げたくなるのにそれを許さない。
「仕事に戻れ。他の侍女たちがおかしく思う。」
「もう今更だと思いますが。」
「それもそうだな。夜また呼ぶ。」
「....はい。」
部屋を出た瞬間、人目も忘れて盛大なため息が出てしまった。
「はぁ.....」
「何かあったかしら?」
「グレータ様!いえ、何も。直ぐに仕事に戻ります。」
「焦って粗相をしてはいけませんよ。洗濯はもういいから執務室の整頓からしてきなさい。」
「分かりました。」
気遣いか否か。1人で出来る仕事を当てて貰えたのはありがたかった。今人に会いたい気分ではない。ステンドグラスに差し込む光が反射して煌めいていた。その輝きが、憎らしく見えた。
空が白み、窓から微かな陽の光が差していた。
(眠れなかったな....)
大人しく眠れと言う方が酷な話なのだ。
『愛してる、セラ』
震える声で告げられた言葉が頭にこだまする。
熱に浮かされただけだ。そう思いたかった。
(なら何故抱かなかった?抱けば楽になるのに...)
この問答を何度したことか。自分の立場を弁えない人じゃないはずだった。ただの村人だった自分を愛するなど正気の沙汰ではない。
(私が養子になれていたら...違っただろうか)
考えても無駄なことを。過去を変えることなどできはしない。そんなことは分かっている。分かっているからこそ....
(早くライを見つけてここを出よう。)
間違いを犯す前に。
(さて、庭、廊下から始めて次は香炉と花瓶の確認か...)
いつも通りにしていればいい。何もなかったことに、してしまえばいいのだ。
着替えを終え、庭を整え、廊下を進んでいると人影が見えた。壁にもたれた影は恐らく今1番見たくない人だった。
「セラ」
「殿下、おはようございます。ご気分は?」
「もう問題ない。セラ、こっちへ来い。」
一晩で随分やつれたように見える。一体どれほど苦しんだのか。
連れて行かれたのは寝室だった。
なんとなく嫌な予感を感じながらついていく。
パタンとドアが閉まるとバツの悪そうな顔をしていた。
(あの時もこんな顔をしていたな)
「.....悪かったな、昨日は。」
「いえ、私こそ、何のお役にも立てず申し訳ありませんでした。」
「俺が出ろと言ったんだ。お前は悪くない。セラ。」
「はい」
「昨晩俺が言ったこと、忘れてないな?」
ああ。こんな時くらい期待を裏切ってくれてもいいのに。
「忘れろと言う方が無茶だと思うのですが。」
「ならいい。いいか、俺はあれを熱に浮かされて言ったんじゃない。」
やめて。お願いだからその先を言わないで。
その願いも虚しく彼の口から紡がれる言葉はセラが予想した通りの言葉だった。
「セラ、愛してる。こんな形で伝えることになったのは不本意だが、この気持ちに嘘偽りはない。」
「......私は、一介の侍女です。殿下もお分かりでしょう。」
「ああ、今は....な。だから直ぐに応えなくていい。今まで通りに接してくれ。」
含みのある言い方。この人はどこまで気づいているのだろう。それを確認する勇気はセラにはなかった。
「......分かりました。」
ゆっくりと髪を掬い、口づける仕草は薬が抜けたはずなのに艶めかしい。
「セラ、お前を必ず手に入れる....逃げるなよ。」
鋭くも愛の混じった目を向けられると逃げたくなるのにそれを許さない。
「仕事に戻れ。他の侍女たちがおかしく思う。」
「もう今更だと思いますが。」
「それもそうだな。夜また呼ぶ。」
「....はい。」
部屋を出た瞬間、人目も忘れて盛大なため息が出てしまった。
「はぁ.....」
「何かあったかしら?」
「グレータ様!いえ、何も。直ぐに仕事に戻ります。」
「焦って粗相をしてはいけませんよ。洗濯はもういいから執務室の整頓からしてきなさい。」
「分かりました。」
気遣いか否か。1人で出来る仕事を当てて貰えたのはありがたかった。今人に会いたい気分ではない。ステンドグラスに差し込む光が反射して煌めいていた。その輝きが、憎らしく見えた。
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