43 / 208
確かめられた愛の言葉、失われた逃げ場
確かめられた愛の言葉、失われた逃げ場
空が白み、窓から微かな陽の光が差していた。
(眠れなかったな....)
大人しく眠れと言う方が酷な話なのだ。
『愛してる、セラ』
震える声で告げられた言葉が頭にこだまする。
熱に浮かされただけだ。そう思いたかった。
(なら何故抱かなかった?抱けば楽になるのに...)
この問答を何度したことか。自分の立場を弁えない人じゃないはずだった。ただの村人だった自分を愛するなど正気の沙汰ではない。
(私が養子になれていたら...違っただろうか)
考えても無駄なことを。過去を変えることなどできはしない。そんなことは分かっている。分かっているからこそ....
(早くライを見つけてここを出よう。)
間違いを犯す前に。
(さて、庭、廊下から始めて次は香炉と花瓶の確認か...)
いつも通りにしていればいい。何もなかったことに、してしまえばいいのだ。
着替えを終え、庭を整え、廊下を進んでいると人影が見えた。壁にもたれた影は恐らく今1番見たくない人だった。
「セラ」
「殿下、おはようございます。ご気分は?」
「もう問題ない。セラ、こっちへ来い。」
一晩で随分やつれたように見える。一体どれほど苦しんだのか。
連れて行かれたのは寝室だった。
なんとなく嫌な予感を感じながらついていく。
パタンとドアが閉まるとバツの悪そうな顔をしていた。
(あの時もこんな顔をしていたな)
「.....悪かったな、昨日は。」
「いえ、私こそ、何のお役にも立てず申し訳ありませんでした。」
「俺が出ろと言ったんだ。お前は悪くない。セラ。」
「はい」
「昨晩俺が言ったこと、忘れてないな?」
ああ。こんな時くらい期待を裏切ってくれてもいいのに。
「忘れろと言う方が無茶だと思うのですが。」
「ならいい。いいか、俺はあれを熱に浮かされて言ったんじゃない。」
やめて。お願いだからその先を言わないで。
その願いも虚しく彼の口から紡がれる言葉はセラが予想した通りの言葉だった。
「セラ、愛してる。こんな形で伝えることになったのは不本意だが、この気持ちに嘘偽りはない。」
「......私は、一介の侍女です。殿下もお分かりでしょう。」
「ああ、今は....な。だから直ぐに応えなくていい。今まで通りに接してくれ。」
含みのある言い方。この人はどこまで気づいているのだろう。それを確認する勇気はセラにはなかった。
「......分かりました。」
ゆっくりと髪を掬い、口づける仕草は薬が抜けたはずなのに艶めかしい。
「セラ、お前を必ず手に入れる....逃げるなよ。」
鋭くも愛の混じった目を向けられると逃げたくなるのにそれを許さない。
「仕事に戻れ。他の侍女たちがおかしく思う。」
「もう今更だと思いますが。」
「それもそうだな。夜また呼ぶ。」
「....はい。」
部屋を出た瞬間、人目も忘れて盛大なため息が出てしまった。
「はぁ.....」
「何かあったかしら?」
「グレータ様!いえ、何も。直ぐに仕事に戻ります。」
「焦って粗相をしてはいけませんよ。洗濯はもういいから執務室の整頓からしてきなさい。」
「分かりました。」
気遣いか否か。1人で出来る仕事を当てて貰えたのはありがたかった。今人に会いたい気分ではない。ステンドグラスに差し込む光が反射して煌めいていた。その輝きが、憎らしく見えた。
空が白み、窓から微かな陽の光が差していた。
(眠れなかったな....)
大人しく眠れと言う方が酷な話なのだ。
『愛してる、セラ』
震える声で告げられた言葉が頭にこだまする。
熱に浮かされただけだ。そう思いたかった。
(なら何故抱かなかった?抱けば楽になるのに...)
この問答を何度したことか。自分の立場を弁えない人じゃないはずだった。ただの村人だった自分を愛するなど正気の沙汰ではない。
(私が養子になれていたら...違っただろうか)
考えても無駄なことを。過去を変えることなどできはしない。そんなことは分かっている。分かっているからこそ....
(早くライを見つけてここを出よう。)
間違いを犯す前に。
(さて、庭、廊下から始めて次は香炉と花瓶の確認か...)
いつも通りにしていればいい。何もなかったことに、してしまえばいいのだ。
着替えを終え、庭を整え、廊下を進んでいると人影が見えた。壁にもたれた影は恐らく今1番見たくない人だった。
「セラ」
「殿下、おはようございます。ご気分は?」
「もう問題ない。セラ、こっちへ来い。」
一晩で随分やつれたように見える。一体どれほど苦しんだのか。
連れて行かれたのは寝室だった。
なんとなく嫌な予感を感じながらついていく。
パタンとドアが閉まるとバツの悪そうな顔をしていた。
(あの時もこんな顔をしていたな)
「.....悪かったな、昨日は。」
「いえ、私こそ、何のお役にも立てず申し訳ありませんでした。」
「俺が出ろと言ったんだ。お前は悪くない。セラ。」
「はい」
「昨晩俺が言ったこと、忘れてないな?」
ああ。こんな時くらい期待を裏切ってくれてもいいのに。
「忘れろと言う方が無茶だと思うのですが。」
「ならいい。いいか、俺はあれを熱に浮かされて言ったんじゃない。」
やめて。お願いだからその先を言わないで。
その願いも虚しく彼の口から紡がれる言葉はセラが予想した通りの言葉だった。
「セラ、愛してる。こんな形で伝えることになったのは不本意だが、この気持ちに嘘偽りはない。」
「......私は、一介の侍女です。殿下もお分かりでしょう。」
「ああ、今は....な。だから直ぐに応えなくていい。今まで通りに接してくれ。」
含みのある言い方。この人はどこまで気づいているのだろう。それを確認する勇気はセラにはなかった。
「......分かりました。」
ゆっくりと髪を掬い、口づける仕草は薬が抜けたはずなのに艶めかしい。
「セラ、お前を必ず手に入れる....逃げるなよ。」
鋭くも愛の混じった目を向けられると逃げたくなるのにそれを許さない。
「仕事に戻れ。他の侍女たちがおかしく思う。」
「もう今更だと思いますが。」
「それもそうだな。夜また呼ぶ。」
「....はい。」
部屋を出た瞬間、人目も忘れて盛大なため息が出てしまった。
「はぁ.....」
「何かあったかしら?」
「グレータ様!いえ、何も。直ぐに仕事に戻ります。」
「焦って粗相をしてはいけませんよ。洗濯はもういいから執務室の整頓からしてきなさい。」
「分かりました。」
気遣いか否か。1人で出来る仕事を当てて貰えたのはありがたかった。今人に会いたい気分ではない。ステンドグラスに差し込む光が反射して煌めいていた。その輝きが、憎らしく見えた。
あなたにおすすめの小説
初恋の還る路
みん
恋愛
女神によって異世界から2人の男女が召喚された。それによって、魔導師ミューの置き忘れた時間が動き出した。
初めて投稿します。メンタルが木綿豆腐以下なので、暖かい気持ちで読んでもらえるとうれしいです。
毎日更新できるように頑張ります。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
悪女として処刑されたはずが、処刑前に戻っていたので処刑を回避するために頑張ります!
ゆずこしょう
恋愛
「フランチェスカ。お前を処刑する。精々あの世で悔いるが良い。」
特に何かした記憶は無いのにいつの間にか悪女としてのレッテルを貼られ処刑されたフランチェスカ・アマレッティ侯爵令嬢(18)
最後に見た光景は自分の婚約者であったはずのオルテンシア・パネットーネ王太子(23)と親友だったはずのカルミア・パンナコッタ(19)が寄り添っている姿だった。
そしてカルミアの口が動く。
「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ。」
オルテンシア王太子に見えないように笑った顔はまさしく悪女のようだった。
「生まれ変わるなら、自由気ままな猫になりたいわ。」
この物語は猫になりたいと願ったフランチェスカが本当に猫になって戻ってきてしまった物語である。
天然の仮面を被った令嬢は、すべてを賭けて傭兵領主に嫁ぐ──愛と復讐を誓う、たったひとりのあなたへ
葵 すみれ
恋愛
没落貴族の令嬢パメラは、売られるように元傭兵の成り上がり領主に嫁がされる。
──けれどそれは、たったひとつ残された自分自身を賭けた、最後の勝負でもあった。
冷たく迎えられた屋敷、素性を隠す夫。
けれど、微笑みの仮面の下で牙を研ぐパメラもまた、彼を利用する覚悟を秘めていた。
ただの偽りの夫婦──そう思っていたはずなのに。
重ねた誓いの先で、ふたりの心はひとつになる。
そして、交わした誓いはただひとつ。
「奪われたすべてを、取り戻す」
これは、仮面を被った令嬢と傭兵領主が、愛を知り、復讐に挑む物語。
(他サイトにも掲載しています)
呪われた令嬢はヘルハウスに嫁ぎます。~執着王子から助けてくれた旦那様の為に頑張ります!~
屋月 トム伽
恋愛
第2殿下アーサー様に見初められたリーファ・ハリストン伯爵令嬢。
金髪碧眼の見目麗しいアーサー様だが、一方的に愛され執着するアーサー様が私には怖かった。
そんな押しの強いアーサー様との二人っきりのお茶会で、呪われたお茶が仕込まれていることに気付かずに飲んでしまう。
アーサー様を狙ったのか、私を狙ったのかわからないけど、その呪いのせいで夜が眠れなくなり、日中は目が醒めなくなってしまった。
日中に目が醒めないなら、妃になれば必要な公務も出来ないとなり、アーサー様の婚約者候補としてもなれないのに、あろうことかアーサー様は諦めず、私に側室になって欲しいと望む始末。
そして呪いは解けないままで日中は眠ってしまう私に、帰る事の出来る家はない。
そんな私にある公爵様から結婚の申し込みがきた。
アーサー様と家族から逃げ出したい私は結婚の申し出を受け、すぐに結婚相手のお邸に行く。が…まさかのヘルハウス!?
…本当にここに住んでいますか!?お化けと同居なんて嫌すぎます!
序章…呪われた令嬢
第一章…ヘルハウス編
第二章…囚われ編
第三章…帰還編
第4章…後日談(ヘルハウスのエレガントな日常)
★あらすじは時々追加するかもしれません!
★小説家になろう様、カクヨム様でも投稿中
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
隠された第四皇女
山田ランチ
恋愛
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。