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王弟の仕事
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王弟の仕事
「殿下、お客様がお見えです。」
そう告げるのは執事長のコンペルだ。普段クシェルとグレータの影に隠れ、セラなど会ったことがあるのかも分からないが彼がいなければ屋敷は回らない。非常に有能な執事である。
「誰だ?」
「アルベオン家の当主、ヘリシェ様です。」
「ああ、ようやく気づいたか。あの愚か者。」
「どうされますか?」
「応接間に通しておけ。これが片付いたら向かう。」
「かしこまりました。」
ヘリシェは兄王アーノルトの行う公平な政策によって私益を失い、王弟レオを王にと推す貴族の1人だ。しばらく泳がしていたのだがーーーー
「あの小太り、どんな顔をするかな。」
「あまり待たせたら怒り出しますよ。」
クシェルは呆れていても否定はしない。
「いいじゃないか。どうせ今からあの豚のような顔が赤くなるんだ。」
「はぁ.....セラ様に聞かれたらドン引きされると思います。」
「言うなよ。」
「当たり前です。仕事が進まなくなります。」
「仕事じゃなくて俺を気遣え。....さて、そろそろ行くか。」
「はい。」
階下の応接間には酒も飲んでいないのに赤ら顔の男が肩を揺らして待っていた。
「レオポルト殿下、お待ちしておったのですよ。中々来られぬものですから...」
「それはすまなかった。仕事が立て込んでいてな。ヘリシェ殿の調子はどうです?顔色が悪く見えるが。」
「殿下に勧められた通り鉱山への出資をいたしました。その利権はいつになれば....」
小太りの男はしきりに額にハンカチを押し当て、仕切りにその脂ぎった汗を拭いている。
「俺が王になった暁にと言ったはずだが?」
「で、ですがそれでは我が家は持ちませぬ。なんとか御慈悲をいただけないでしょうか?」
「俺の言葉に納得して出資したのは貴殿だろう?家計が厳しいのであれば食事などを制限してはいかがかな?」
「なっ......」
赤かった顔が皿に赤くなっていく。ここまで期待通りだと逆につまらない。
「それに俺は王になりたいなどとも言っていない。それを勝手に都合よく解釈したのは貴方方だ。フォーレン家や他の家と仲良く助け合ってはどうだ?」
「このっ.....詐欺師がっ.....」
「俺に怒るより家を建て直すのに必要なことを考えられた方がいい。こんな無駄な時間をここで過ごすぐらいなら。さて、話は終わりだ。お帰りいただこう。コンペル。」
「ご案内いたします。」
「まだ話は終わっていないぞ!」
「これ以上何を話すというのだ?貴方が買った利権は貴方のものだ。万に一つ、俺が王になることがあれば貴方は良い買い物をしたということになる。それまで精々家が没落せぬよう努力すればいい。」
「小僧っ......」
「お客様がお帰りです。」
慣れたコンペルは喚くヘリシェをさっさと連れて行ってしまった。
「あっけなく終わりましたね。」
隣のクシェルも慣れたものだ。
「いつものことだ。どいつもこいつも俺が王になりたがると思っている。」
「貴方様が王になれば国は確実に傾きますがね。」
「否定できんな。兄王に報告しておくか。短気を起こしたやつらが兄やユラヌスを狙わんとも限らない。」
「王宮に向かわれますか?」
「そうだな。久しぶりに甥や姪の顔でも見ておくか....その前に市に寄る。土産でも買っていかないとな。セラも連れて行くか.....」
「王宮に連れて行くおつもりですか。」
「市には連れて行きたいが王宮に連れて行くわけにはいかないな....市だけ行って帰せないか?」
「セラ様は仕事中です。あまり呼び過ぎると他の侍女に示しがつきません。」
「分かってる....仕方ないな。行くぞ。」
「殿下、お客様がお見えです。」
そう告げるのは執事長のコンペルだ。普段クシェルとグレータの影に隠れ、セラなど会ったことがあるのかも分からないが彼がいなければ屋敷は回らない。非常に有能な執事である。
「誰だ?」
「アルベオン家の当主、ヘリシェ様です。」
「ああ、ようやく気づいたか。あの愚か者。」
「どうされますか?」
「応接間に通しておけ。これが片付いたら向かう。」
「かしこまりました。」
ヘリシェは兄王アーノルトの行う公平な政策によって私益を失い、王弟レオを王にと推す貴族の1人だ。しばらく泳がしていたのだがーーーー
「あの小太り、どんな顔をするかな。」
「あまり待たせたら怒り出しますよ。」
クシェルは呆れていても否定はしない。
「いいじゃないか。どうせ今からあの豚のような顔が赤くなるんだ。」
「はぁ.....セラ様に聞かれたらドン引きされると思います。」
「言うなよ。」
「当たり前です。仕事が進まなくなります。」
「仕事じゃなくて俺を気遣え。....さて、そろそろ行くか。」
「はい。」
階下の応接間には酒も飲んでいないのに赤ら顔の男が肩を揺らして待っていた。
「レオポルト殿下、お待ちしておったのですよ。中々来られぬものですから...」
「それはすまなかった。仕事が立て込んでいてな。ヘリシェ殿の調子はどうです?顔色が悪く見えるが。」
「殿下に勧められた通り鉱山への出資をいたしました。その利権はいつになれば....」
小太りの男はしきりに額にハンカチを押し当て、仕切りにその脂ぎった汗を拭いている。
「俺が王になった暁にと言ったはずだが?」
「で、ですがそれでは我が家は持ちませぬ。なんとか御慈悲をいただけないでしょうか?」
「俺の言葉に納得して出資したのは貴殿だろう?家計が厳しいのであれば食事などを制限してはいかがかな?」
「なっ......」
赤かった顔が皿に赤くなっていく。ここまで期待通りだと逆につまらない。
「それに俺は王になりたいなどとも言っていない。それを勝手に都合よく解釈したのは貴方方だ。フォーレン家や他の家と仲良く助け合ってはどうだ?」
「このっ.....詐欺師がっ.....」
「俺に怒るより家を建て直すのに必要なことを考えられた方がいい。こんな無駄な時間をここで過ごすぐらいなら。さて、話は終わりだ。お帰りいただこう。コンペル。」
「ご案内いたします。」
「まだ話は終わっていないぞ!」
「これ以上何を話すというのだ?貴方が買った利権は貴方のものだ。万に一つ、俺が王になることがあれば貴方は良い買い物をしたということになる。それまで精々家が没落せぬよう努力すればいい。」
「小僧っ......」
「お客様がお帰りです。」
慣れたコンペルは喚くヘリシェをさっさと連れて行ってしまった。
「あっけなく終わりましたね。」
隣のクシェルも慣れたものだ。
「いつものことだ。どいつもこいつも俺が王になりたがると思っている。」
「貴方様が王になれば国は確実に傾きますがね。」
「否定できんな。兄王に報告しておくか。短気を起こしたやつらが兄やユラヌスを狙わんとも限らない。」
「王宮に向かわれますか?」
「そうだな。久しぶりに甥や姪の顔でも見ておくか....その前に市に寄る。土産でも買っていかないとな。セラも連れて行くか.....」
「王宮に連れて行くおつもりですか。」
「市には連れて行きたいが王宮に連れて行くわけにはいかないな....市だけ行って帰せないか?」
「セラ様は仕事中です。あまり呼び過ぎると他の侍女に示しがつきません。」
「分かってる....仕方ないな。行くぞ。」
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