王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22

文字の大きさ
65 / 67

ただ、この瞬間を貴方と望む

しおりを挟む
ただ、この瞬間を貴方と望む
『俺を、愛しているのか?』
その一言に、どれ程絶望したかなんて、きっと貴方は知らない。
素直に言えたらどれ程よかっただろう。
私を溶かし、満たしてしまう貴方のことを。
『今は、まだ言えない。だが――――
信じてくれるか?』
ああ、この人は全てを知っているのだと悟った。その上で私を愛してくれているのだ。
王族の地位を捨ててくれなんて思わない。もし私が最後、貴方の元を去ることになったとしても。
『......信じます。』
今この瞬間を。今ここに貴方といられる時間を望もう。何も望みを口にしたことのない人生。望むことを教えたのは貴方だった。
重ねられた唇はあの時とは違う。ゆっくり、深く体の奥まで痺れるよう。その胸に縋れば、応えるように強められる腕。絡まる舌も、感じる熱も、全てが気持ち良い。名残惜しそうに引かれる糸は、生まれてしまった繋がりを示していた。
「....セラ.....」
熱っぽい目。欲に溢れているのに嫌じゃないどころか嬉しいなんて。私はどうなってしまったんだろう。
「はぁ.....お前に、嫌われるかと思った。」
「....私も、レオ様が私といるのは嫌になったのではないかと思いました。」
「そんなわけないだろう。何故そんなことを思った?」
「帰り道無言で...医務室へ行く時も何も仰らなかったので。」
「あれは俺が怖がらせたと思って自己嫌悪に陥ってたんだ。部屋にすら入れてもらえないと思っていたから安心した。」
「.....グレータ様に、言われたのです。話さねば分からないと。」
「グレータに?」
「はい。傷のことも....心配してくださいました。やはりレオ様の乳母なのですね。」
「あのお節介め.....まあ今回は助かったがな。」
「ところであの護衛の方はどうなったのですか?」
実は気になっていた。確かに失態とは言え首まで飛ばされていたら罪悪感で消えたくなる。
「ああ。護衛からは解任したがそれ以上はしていない。あとな、明日からお前に護衛をつける。あんなのじゃなくてちゃんと腕がいいやつをな。」
「....狙われたのが私だからですか?」
「ああ。お前が強いのは分かるが、さっきも言った通りお前が傷つけば俺が耐えられん。今回の件を受けてまた狙われる可能性もある。悪いが諦めてくれ。」
「.....分かりました。」
「よし。セラ。」
器用に話しながらベッドの上にセラを抱えて移動した男の顔はかつてなく甘い。
「もう一回。」
「何を――――」
聞き終わるまで待ってはくれなかった。足りないと言わんばかりに止まないキスは息をすることすらままならない。
「...はぁっ.....」
「許せ。どれだけ我慢したと思ってる....」
耳元で触れる息に震える身体。
「んっ..」
「耳、弱いのか?」
「やめっ.....」
「可愛い。赤くなった顔も、感じた声も、愛しくてたまらない....」
首筋をなぞり降りていく手――――
「レオ様っ......」
「......悪い。あまりにも可愛くておかしくなりそうだった。」
「....もう。」
「慣れてくれ。そんなんだと最後までしたら持たないぞ?」
「なっ......」
さっきまであんなに萎れていた癖に。
「さて。俺は今日は戻る。もっといたいがこれ以上一緒にいたら歯止めが効かなくなりそうだからな。」
「はい.....」
名残惜しい。そう思う自分が憎らしい。さっきだって。その下に触れて欲しいと思いながら止めてしまった。何も望まないなどと言っていた自分が。
「そんな顔するな。俺だって離れたくない。」
同じく名残惜しそうにキスを落として出ていくレオを見送った。
変わってしまった関係。嬉しいのに、どうしようもなく怖いと思う。幸せの味を知ってしまった。もう戻れない。
残る体温も、匂いも。愛しいと、思ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

さよなら、私の初恋の人

キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。 破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。 出会いは10歳。 世話係に任命されたのも10歳。 それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。 そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。 だけどいつまでも子供のままではいられない。 ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。 いつもながらの完全ご都合主義。 作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。 直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。 ※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』 誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。 小説家になろうさんでも時差投稿します。

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

皇后陛下の御心のままに

アマイ
恋愛
皇后の侍女を勤める貧乏公爵令嬢のエレインは、ある日皇后より密命を受けた。 アルセン・アンドレ公爵を籠絡せよ――と。 幼い頃アルセンの心無い言葉で傷つけられたエレインは、この機会に過去の溜飲を下げられるのではと奮起し彼に近づいたのだが――

お義父さん、好き。

うみ
恋愛
お義父さんの子を孕みたい……。義理の父を好きになって、愛してしまった。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

処理中です...