王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22

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【番外編】馬車に揺られて

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「レオ、おかえりなさい。」
「ああ。」
抱き締めたセラの温もり。こうやって話してくれる日を、どれだけ夢見ただろう。
「視察はどうだったの?」
「ちょっとした諍いだ。俺が来た途端へこへこと。次はないと釘は刺したがな。」
洗濯の赤切れがない手、柔らかい表情。
「レオは外では怖い顔してるものね。」
「……お前に見られたくはないな。」
「今更何言ってるのよ。」
「……なあセラ。」
「ん?」
「幸せか?」
「どうしたの?急に……幸せよ。」
「王族になった。不自由だって多いだろ。」
「分かってたことだし……剣を振ることを許して貰ってるのよ。十分だわ。」
「それならいいんだ。」
柔らかい、セラの濡れた唇。もっと触れていたい。ずっと――――
「ねえレオ」
「何だ?」
「私、幸せだけどレオとは寝たくないの。」
「は?何言って……」
「だってレオ、触れたいばっかり。私は娼婦じゃないのよ。」
「待て、セラ。そんなつもりは……!」
幸せそうに笑っていたセラの顔が歪んでいく――――
ガンッ!
「痛っ……」
「殿下!?何かありましたか!?」
「いや、何でもない……」
「もうすぐベルシュタイン家に着きます。それまでお待ちくださいませ。」
狭い馬車の中。飛び上がったら頭を打つのは必然だ。
いつの間にか眠っていたらしい。
(それにしても何とも言えん夢だったな……)
婚約の申し込みに行くのを、思ったよりも緊張しているようだ。ため息と共に苦笑いが溢れ出た。
「レオ……な。」
いつか来るのだろうか。あんな風に話して、名前を呼んでくれる日が。
「最後はいただけんがな……」
結ばれたとして、その結末だけは避けたいものだ。
「その前にあの男に納得してもらわねばならん。」
呟く独り言が聞こえたのか否か、御者は馬車の速度を僅かに早めた。

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