教祖様と贄

阿良々木五男

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3, 捕獲

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 クラゲみたいにぐにゃぐにゃになった手足で良子は歩いた。やっとアパートの前に着いた良子は鞄の中から鍵を取り出して階段を上ったが、途中で人の声がすることに気が付いた。足音が鳴らないようにそっと歩き、階段を上がり切ると壁から顔を出して部屋の前の様子をうかがった。そこには二人の男が立っていた。二人とも見るからにガラが悪そうな男で、体つきもがっしりしている。何かあったら絶対に勝てない。

「やっば……」

 良子は小声でつぶやいたが、真夜中のアパートは思ったよりも静かで、彼女の声は二人の男に届いてしまった。男達はばっとこちらを振り向くと、「おい!!」と怒鳴り声をあげてこちらに向かってきた。良子はすぐにUターンすると、猛ダッシュで階段を駆け下りた。

――まずいまずいまずい!!

 彼女には、こんな状況になったことに対して身に覚えがあった。それは”借金”。ただのサラリーウーマンにホストの掛け金が支払える訳もない。だが、風俗業を始める勇気もない。気が付けば十万、二十万と借金がかさみ、あっという間に百万になった。それが返せないまま踏み直していた結果、あの二人の男が家にやってきたということだ。

 ごめんなさい今はお金がありません、で通じるとは思えない。何しろ今だってホスト帰りで全身から酒と煙草と香水の匂いが漂っているのだ。確実に、バレる。

「おい待てや! ちょっとお話しに来ただけでしょうが!」

 後ろから男が叫ぶ。アパートの住人に自分の関係者だとバレたくない。最後の階段を降りたとき、ヒールがバキッと音を立てて折れた。

――最悪。

 良子はヒールを脱ぎ捨てると裸足で走り出す。砂利が足裏に刺さって激痛を感じたが、そうは言えども止まる訳には行かない。なりふり構わずアパートを離れて曲がり角に差し掛かると、突然、彼女の前に腕が差し出された。良子は突然止まる事など出来ず、その腕に抱きとめられた。

「……さ、そろそろ観念しようか。良子ちゃん」

 彼女を捕まえたのは、後ろから追いかけてくる男達の仲間だった。赤い髪を短く切った、人相の悪い男。時々取り立てに来る、龍という男だった。

「は、はなしてッ!!」

 必死に腕の中で抗ったが、無意味だった。後ろから追いかけてきていた二人にもついに追いつかれ、良子はがくりと項垂れた。

「ねぇ、良子ちゃん。今日が支払日だって忘れてた?」

「ご、ごめんなさ。すっかり忘れてて」

 笑顔を取り繕ったが顔がひきつっていた。

「じゃあさ、どうして逃げた?」

「そ、それは……ちょっと、今は手持ちが無かったから」

「それさ、先月も言ってなかったか? 毎月来るモンをそんなに簡単に忘れるか? 良子ちゃんはちょっとおバカなのかな?」

「そ、そうなんです~。私、物覚えが悪くて」

「馬鹿だろうが何だろうが借りたもんは返せよ。無理なら仕事紹介するからさぁ」

「そ、そんな……」

「とりあえず、お仕事紹介するから一緒に行こうか?」

 ぐい、と龍が腕を引っ張る。ああ、もう駄目だ。ついに風俗デビューだ。良子が諦めかけた時、すぐ近くでクラクションが鳴り響いた。 
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