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2, ホストクラブ
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紫色を基調にした店内。天井からは派手なシャンデリアがぶら下がっていて、薄暗い店をキラキラと輝かせている。座り心地の良いソファが無数に並ぶ店内は、酒と煙草と香水の匂いが入り混じっていた。平日だというのに店には客があふれかえっており、酒を運ぶボーイがホストにぶつかりそうになっている。その中で、良子も柔らかいソファに座ってニコニコと笑っていた。隣に、押しの男が座っているからだ。
「機嫌、よさそうだね」
流星は言いながら、煙草の煙を吐いた。流星という男は鼻が高く目は切れ長で、男にしては小顔だった。遠慮がちな笑顔は品が良く、笑い声も大きすぎないのが好きだった。その整った横顔を見ながら、良子はシャンパンを飲んだ。
「流星に会えたから」
「そっか。ありがとう。俺も良子に会えて嬉しいよ」
良子が注文したシャンパンを飲みながら、流星は言った。良子だって、それがお世辞だとは理解しているのだ。理解はしているのだが、それでも嬉しい。嬉しいし、日々の疲れが吹き飛ぶ気がした。だから病みつきになって、いつの間にかここに入り浸っている。
いつものように流星とたわいもない話をして、他の客に指名を取られないように必死に酒を注文し続け、そのお礼とでも言わんばかりに頭を撫でられる。流星の他の客が恨めしそうにこちらを睨んでいるのも、ほんの少し気分が良かった。だがそんな時間はあっという間に過ぎていく。気が付けば終電間近になっていた。
「あ、もう帰らなきゃ……」
「もう帰っちゃうの?」
流星は悲しそうに眉尻を下げた。
「ごめん、もう電車無くなっちゃうから」
「そう……。残念だけど、仕方ないね」
「うん。ごめんね」
グラスに残ったシャンパンをあおっていると、恐ろしい数のゼロが並んだ伝票がテーブルにやってくる。ああ、またやってしまった……。後悔しながら小さな声で呟いた。
「えっと、ツケで……」
「わかった。良子は毎月ちゃんと支払ってくれてるからこっちも安心できるよ。でももし無理そうなら相談してね」
「うん、ありがとう」
「それじゃ、外まで送るよ」
流星にそっと手を取られ、良子は外に向かって歩き出す。流星の客がじろりとこちらを睨んでいるし、歩くのがやっとな程に酔っている。最後の最後まで気分がいい。だが、そんな時間ももう終わりだ。廊下を通って店を出ると、流星はまた、良子の頭を撫でた。
「またね、良子。仕事頑張りすぎないで」
「うん。また来るね。流星もあんまり無理しないでね」
「ありがと。それじゃ、気をつけて」
彼の後ろから飛んでくる声がノイズにしか思えなかった。良子は名残惜しそうに何度も振り返りながら、店を後にした。前後不覚になりながら、あちこちで人にぶつかってやっと新宿を後にする。電車の中で爆睡して、あやうく乗り過ごしそうになりながらも自宅の最寄り駅に到着すると、フラフラした足取りで道を歩いた。
「機嫌、よさそうだね」
流星は言いながら、煙草の煙を吐いた。流星という男は鼻が高く目は切れ長で、男にしては小顔だった。遠慮がちな笑顔は品が良く、笑い声も大きすぎないのが好きだった。その整った横顔を見ながら、良子はシャンパンを飲んだ。
「流星に会えたから」
「そっか。ありがとう。俺も良子に会えて嬉しいよ」
良子が注文したシャンパンを飲みながら、流星は言った。良子だって、それがお世辞だとは理解しているのだ。理解はしているのだが、それでも嬉しい。嬉しいし、日々の疲れが吹き飛ぶ気がした。だから病みつきになって、いつの間にかここに入り浸っている。
いつものように流星とたわいもない話をして、他の客に指名を取られないように必死に酒を注文し続け、そのお礼とでも言わんばかりに頭を撫でられる。流星の他の客が恨めしそうにこちらを睨んでいるのも、ほんの少し気分が良かった。だがそんな時間はあっという間に過ぎていく。気が付けば終電間近になっていた。
「あ、もう帰らなきゃ……」
「もう帰っちゃうの?」
流星は悲しそうに眉尻を下げた。
「ごめん、もう電車無くなっちゃうから」
「そう……。残念だけど、仕方ないね」
「うん。ごめんね」
グラスに残ったシャンパンをあおっていると、恐ろしい数のゼロが並んだ伝票がテーブルにやってくる。ああ、またやってしまった……。後悔しながら小さな声で呟いた。
「えっと、ツケで……」
「わかった。良子は毎月ちゃんと支払ってくれてるからこっちも安心できるよ。でももし無理そうなら相談してね」
「うん、ありがとう」
「それじゃ、外まで送るよ」
流星にそっと手を取られ、良子は外に向かって歩き出す。流星の客がじろりとこちらを睨んでいるし、歩くのがやっとな程に酔っている。最後の最後まで気分がいい。だが、そんな時間ももう終わりだ。廊下を通って店を出ると、流星はまた、良子の頭を撫でた。
「またね、良子。仕事頑張りすぎないで」
「うん。また来るね。流星もあんまり無理しないでね」
「ありがと。それじゃ、気をつけて」
彼の後ろから飛んでくる声がノイズにしか思えなかった。良子は名残惜しそうに何度も振り返りながら、店を後にした。前後不覚になりながら、あちこちで人にぶつかってやっと新宿を後にする。電車の中で爆睡して、あやうく乗り過ごしそうになりながらも自宅の最寄り駅に到着すると、フラフラした足取りで道を歩いた。
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