教祖様と贄

阿良々木五男

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1, すべてのはじまり

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「——あッ」

 長谷川 良子は快楽で溶かされた脳で必死に考えた。一体どうしてこうなったんだろう? 目の前の男は無遠慮に自分の内壁を突き上げては荒い呼吸を続けている。ちょっと前までは名前も顔も知らなかった男。この男と会う事が無ければきっと、今頃は日常に戻っていたはず。

「どうしたの? 気が遠のいた?」

 ある意味参っているのよ、と心中思いながら、良子はまた腰をしならせた。男のモノが自分の最奥を突き上げる度に快感が走って思考が中断される。さっきまで何をどこまで考えていたのだっけ? 確かこの男のことを考えていたのだけど。そう思って男の目を見ると、彼は何を勘違いしたのか良子の唇にしゃぶりついた。遠慮無く舌を差し込みしばらく彼女の口内を貪った後、首筋、鎖骨へとキスを落としていった。それが嫌じゃない自分に嫌になりながら、良子は抵抗を諦めた。

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 それは、ほんの数日前のことだった。
 長谷川 良子は中肉中背、どこにでも良そうな女だった。だからこそ、と言うのか彼女はいつのまにかホストクラブ通いにハマり、毎週ホストクラブに行ってはお気に入りのホストと一緒に酒を飲んでいた。別にそれが悪いことだとは思っていなかったが、親には言えなかった。両親と顔を合わせるのも気まずく、しばらく実家には帰っていない。

「お疲れ様でした~」

 十八時の終業時刻。同僚達も続々と帰っていく。サラリーウーマンの良子もその例に漏れず、デスクを軽く片付けると、PCのブラウザを開いて退勤ボタンを押した。

「良子、今日飲みいくけど来る?」

 同僚のカナが帰り際に声を掛けてきた。

「あ、ごめん今日予定あるんだ」

「最近付き合い悪いじゃん。彼氏~?」

「違う違う、野暮用。次は行くからさ」

「ホントに~? 絶対だからね」

「了解!」

 カナたちがオフィスを出たところを見計らって、良子も会社を後にした。それから電車に乗って数駅移動すると、新宿に降り立った。流石夜の街新宿というべきか、何時になっても人が溢れかえり、ネオンが光り輝いている。その中を一人で颯爽と歩くと、良子はいつもの店に向かった。ホストクラブ・ヴェネ。黒い看板の店。入口前にはホストの写真がずらりと並び、若い男達が写真の中でポーズを取っている。その中に、良子のお気に入りがいた。

「あ、良子さん! お疲れ様です~」

 入口に立っていた若手のホストが手を振ってきた。

「こんばんは」

「流星ですよね。今指名入って無かったはずなんで、呼びますね。じゃ、中へどうぞー」

「ありがとう」

 若いホストに続いて、良子は店に入って行った。
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