≪花の降る午後≫

≪星空のディスタンス≫

彼女は、居間でテレビを観ていた。

座っているソファーと40型液晶テレビの間には、1歳の愛娘が、カーベットの上で木製の積み木で遊んでいる。

テレビに映るは懐メロの番組。

「さぁ、それでは聴いて頂きましょう！1984年1月21日にリリースされました、THE ALFEE 17枚目のシングル…星空のディスタンス♪」

激しい風が今　心に舞う…

曲が流れた瞬間、愛娘の手が止まる！

テレビをガン見、釘付け！

口が半開きのまま、右手の力の入り切らない人差し指で奏でるアルフィーを何度も指差す！

星空の下のディスタンス
燃え上がれ愛のレジスタンス

サビの部分で、愛娘の眼が真っ赤に光る❗

エクソシストの悪霊に取り憑かれたあの女の子のように、首がキリキリとこちらを向く！

そして、その口元がもごもごと何かを言っている！

しかし、二度のサビを終えても、その口が一体何を言っているのか？は、分からなかった。

母親は、この奇怪な状況にあって、愛娘が果たして何を言わんとしていたのか？が非常に気になっていた。

そして辿り着いた考えが

(あの曲のロングバージョンがあれば、娘はあの先の言葉を吐くんじゃないか？)

しかし、中古レコード屋をいくら探し回っても、ロングバージョン版は見つからない。

母親はその内、中古レコード屋にレコードを売りに来る客を捕まえては

「置いてけ～置いてけ～、THE ALFEEの17枚目のシングル　星空のディスタンスのロングバージョン持ってたら、置いてけ～！」

……………。

母が原因不明の失踪を遂げてから、早20余年…

娘は今、将来を誓った人と恋人たちのペイヴメントを歩いて行くーーーー。