室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

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第1章 月森ヶ丘自由学園

…あの家族とだけは関わりたくありません

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そして、パーティー当日‥


-会場-


「やぁ!ヒュー・シュバルク殿、ご無沙汰だな。父君にも挨拶をしたいのだが……父君がどちらへ行かれたかご存知ないか?」

大統領主催のパーティーに呼ばれたヒュー・シュバルクは、突然声をかけてきた男を見て、あぁ!と声を上げた。

「マーカー・レイジェント殿、お久しぶりです」


マーカー・レイジェントはアクシオンと同じくCIAの上層部で同僚の男だった。以前にも父の関係で顔を合わせたことがあったため、その見知った顔に苦笑して応えた。

「……父なら、あそこですよ」

困ったように、ハハ…と乾いた笑いを漏らすヒューを訝しげに見つめた後、マーカー・レイジェントはヒューと同じく目を移してようやく苦笑した意味を理解できた

目を移したその先には…

そこは、ケーキやデザートが並べられた上質な白い布一色に統一されたテーブルクロス。


何故か、そこには一人の少年といい年した一人の大人が陣取っていた‥。

 いや、正確に言えば…

何やら彼ら二人が揉めているらしい‥。と、いっても男が一方的に言っていて少年はそれを無視。ひたすら、黙々とケーキを漁っていた

それを見ていた周りの人間は、気まずいためか近づき難い空気なためか…


そこだけ、円を書くように半径2m程ぽっかりと空いていた

「………(モグモグ」

「クリフェイド!!俺が悪かった!な?だから、そろそろ機嫌を直してくれないか?」


「…………(モグモ…ゴクン‥」

ひたすら無視を続ける


「なぁ!そろそろ父さんとも口を聞いてくれ… ヒューにジルタニアスや昴とかとは口を聞くのに、父さんとは口も聞いてくれないのか!?」

と、先ほどから延々とこんな調子が続き、野次u…周りの人間はそんな二人を少し離れた所から生温かく見守っていた。

「僕はパーティーに出席すると言った覚えはないんですがねぇ? なぜ目が覚めたらタキシードに着替えた状態で車に乗っているんでしょうか…。 まったく、最悪としか言いようがないですね」

やっと口を聞いたかと思えば、父に嫌味しか出てこない


「く、クリフェイド!!怒ってるのか!? いや、お前が怒るのも無理はないと思う。けどな? お前に幾つか言わないといけないことがあるんだが。このパーティーは大統領主催のモノだが、クリフェイドは他の意味でも招かれていてだな」

「……お前に出席するよう言ったのは、俺の父上で‥つまり、お前のお祖父様とお祖母様だ」


瞬間、クリフェイドの纏うオーラが変わった。まるで、そこだけが絶対零度の世界のように───。

「あぁ!まだ生きてらっしゃったんですね。あの老いぼれ共」

「クリフェイドっ!!」

アクシオンは慌ててクリフェイドを窘める。


「ああ!すみません。思わず本音が漏れてしまいました」

「クリフェイド~っ!!」


父は頭を抱える。

「お前や父上達が仲が悪いのは分かっている。だが、せめて今日だけは愛想よくしてくれっ!!」

「……愛想よくしていれば、何してもいいってことですか」


なるほど…と頷くクリフェイド。

「ち、がーっう!違う違う!!誰もそんなこと言ってないぞクリフェイド!?」


今度は二人でコントを始めた‥。


「………」

「………」

マーカー・レイジェントは無言の後、ヒューに尋ねた


「…あの光景はいったい何かね!?」


驚かずにはいられなかった。

「あはは‥。え~っとですねぇ…彼、私の末弟なんですが。見たとおり、パーティーが嫌いなんですよ。ですが、お祖父様とお祖母様の言い付けで父があの子が眠っている間に無理矢理に車に運んで連れて来たんですよ」

そういって、クリフェイドを困ったように見つめるヒュー…。

「簡単に言えば、クリフェイドは拗ねてるんですよ。パーティー以前にお祖父様とお祖母様に会うのを嫌がってるものですから…」

「ふむ」

ヒューの言葉に頷くも、マーカー・レイジェントは目の前の光景に目を見開くばかりだった。いつも、職場では仕事上もあってか、他人に対しても自分に対しても人一倍厳しいアクシオンが…

今では末息子の言動に頭を抱えるという同じ職場で働く人間として、同僚として、ありえない見たことのない驚きの光景にア然とするばかりだった‥。


「あれはもう…… 親バカの範囲を超えていないか」

同時に呆れの溜息が漏れる。


「ですが、あぁいう拗ねたところも‥

また、可愛いと思えるんですけどね。本人に言ったら本気で嫌がられるんで言わないんですが」


と言うヒューにレイジェントは無言でガン見する。

「………」

(…………いたよ!此処にも兄バカが一人いるよ。)

レイジェントは内心呆れた心境でクリフェイドらとヒューを交互に見ていたのだが、ヒューは何を勘違いしたのか、

「?…どうしました?Σはっ!! もしや、レイジェント殿も…。だめですよ!いくら父の同僚でもクリフェイドはお譲りしません」

ヒューの、まるで、うちの娘をあげるものか!と言ったような発言に、レイジェントが驚きの声を上げるよりも早く上げたのは――…


「なんだって!?レイジェント貴様、俺の息子を誑かす気か?! 俺の可愛いクリフェイドをどこの馬の骨かも解らない奴に渡すものか!」

レイジェントが、『は!?』という驚きの声を上げるよりも先にアクシオンが声を上げる。その瞬間、今まで温かく見守っていた野次馬達が一瞬にしてレイジェントに憐れみと同情の目を向けてきた‥。

シュバルク家の噂はいろいろと聞いてきたレイジェント。今の今まで仕事上の付き合いだけだからと大して気にもしなかったが、



このパーティー会場でいつのまにかよく分からないことに巻き込まれたあげく、野次馬の同情と憐れみの視線を浴びさせられ、さらに人目の注目も浴びる始末。さすがのレイジェントも、これには堪えた。

これほどシュバルク家が厄介とは思わなかったレイジェントはパーティーに出席したことを直ぐさま後悔する。


パーティー好きなレイジェントがパーティーに来て早々、来なければよかったと後悔したのは今日が初めてだった。


「………」

「………」

銀髪の青年は、何か言いたげに憮然とした表情の金髪美形の男をちらりと見る

やがて、その視線に耐えられなくなった男は溜息つくと口を開いた

「………何です?シフォン。話しがあるのなら聞きますから、その、ちらちらと視線を向けるのはやめて下さい」

鬱陶しいです、と俄かに皺を寄せて言う男にシフォンは慌てて、すみません…と謝る。


「あ、あの…

マコーネルさん!ですが、止めなくてもいいんでしょうか?レイジェント殿が困ってるようですけど‥」

はぁー…。マコーネルはその言葉にうんざり気味に盛大に溜息つく


「馬鹿ですか? いいですかシフォン…。私達の問題児は室長だけで十分です。わざわざ、問題児の+αに関わりに行かなくていいんです。…あの家族とだけは関わりたくありません」

そう言ってマコーネルが顔を歪ませていることから本心で言っていることを窺わせる‥。

上司の嫌がる理由にシフォンも頷いた。

確かに、あまり関わり合いたくない人種だとそれは思うのだが…。


遠い所から、その様子を見つめるマコーネル達‥


が、しかし。シフォンはやはり巻き込まれたレイジェントを見ていられない。何せ、今まで揉めていた室長もといクリフェイドとアクシオンだったが、

ヒューの誤解から生まれた発言により、クリフェイドと揉めていたアクシオンはレイジェントに詰め寄り、五月蝿い奴がいなくなったとクリフェイドは、またケーキを漁り始めていた…。


止めようと足を進めようとしたシフォンをマコーネルは腕を掴むなり引き戻した

「やめなさい。あなたが行ったところでどうもなりませんよ。尚さら状況が悪化するだけです。それどころか、変な言い掛かりをつけられてレイジェントの二の舞を辿ることになるのが目に見えています。

………それが嫌なら、事が収まるまで動かないことです」

「そうそう!ここは……料理を美味しく頂くってもんだぜ?」

いきなり二人の会話に入ってきたのは、皿に盛ってやって来たレオだった。


「…レオ、誰も食べるなとは言いませんが、今回は仕事で来ているということを忘れてはいませんよね?」

「だ~いじょーぶ大丈夫。覚えてるって!…だから、その疑う目で見るのはやめてくれ」

マコーネルのレオを見る瞳は疑わしい目つき。


「それはそれは……

すみません。どうにも、仕事そっちのけでパーティー会場に出る料理を堪能しているようにしか見えないもので…」


そんなマコーネルにレオは嫌味かよ!?と突っ込んだのだった――…。
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