室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

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序章 英国フォルティア学院

出生の秘密④

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「そのときのあの子は――‥ 瞳が虚ろで、服の所々に赤い血がついていて… いくら呼びかけても反応しないほど、見るに酷な状態でした。

それから、病院に緊急入院したのですが、あの子は自分の『クリフェイド』という名前しか覚えてませんでした…。何があったのかも… 自分が何をしていたのかも、何一つ覚えていなかったんです」

ふぅ… 溜息をもらすヒューは小さく笑った。

「あの子に血がついていると聞いたときは、目の前が真っ暗になったんです。ですが、クリフェイドについていた血はあの子自身のものではなかった…」

えっ? どういう意味…?

ヒューの言葉にアゼルは眉間に皺を寄せ、怪訝な表情で話しの先を促す

「あの子の服についていた血は――… あの子の母親、逃亡した女の血だったんです」

「なんだって!?」


思わず声が大きくなったことにアゼルは悪い…とヒューに詫びた。

「何も覚えていないとはいえ、事実を話すには酷でしょう…? 自分の母親がそんな悪党だなんて…… 言えなかった。だから、あの子が…

クリフェイドが何も覚えていないことを良いことに私たちは嘘を教えたんです。……母親は事故死し、お前は義理の弟だと、息子だと… 事故死した母親と父さんは籍を入れ、互いにバツイチという仲だった、と…

嘘を教えたんです。


だって言えませんよ… 本当の母親に散々な目に合わされたあの子に事実を突き付けるなんて酷いこと… 誰が……できますかね…」

悲痛な表情を浮かべて話すヒュー、そこには愛しい義理の弟に事実を言えない罪悪感に苦しむ姿が垣間見えた--


「血が繋がってはいないとはいえ、傷つけたくなかった。だから、あの子に、ああ嘘をつくしかなかった…。」

嘆くように、自身を責めるヒューにアゼルは何も言えなかった…。自分は今の今まで何も知らなかった。


義弟(義息子)を愛して止まない異常ともいえる彼らの行動に、そんな苦悩があったことをアゼルは初めて知った。

「最初にあの女を捕まえたときに、大体のことを聞きました… クリフェイドの実の父親のことも。

あの子が面会謝絶で緊急入院したとき、父はクリフェイドを本当の家族の元へ… ――…ファミリーの元へ帰そうとしました。


ですが、最初にお話したとおり… 現在のボス、クリフェイドの兄の… 三男の――‥が反対し、接触しようとすらしません。

会って言葉を交わしたのは一度きり。それ以上の接触は拒まれました。……恐らく、こちらが警察であるということも、その理由の一つだと思います…。

周りの… 大人の勝手な都合で人生を振り回されたあげく、双子の兄とも引き離され… 家族の元に帰ることさえも許されない…… そんなあの子が不憫でしかたないんです。

たとえ、周りに偽善だと言われても私たちは否定も肯定もしないでしょ う。だから、私たちは本当の… 家族以上にあの子に愛を注いでいるんです。寂しい思いをしないように……。

ですが、実際のところ私たちはクリフェイドのことをあまり知りません。あの子が記憶を失うまで… 入院するまでは犯罪者の子供としてやはり、頭のどこかでそうと思って… いました」

私たちが… あの子を結果あんな目に合わせたと言ってもおかしくないんです、ヒューは悔いいた目で赤に染まる空を見つめた…。

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