室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

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序章 英国フォルティア学院

辛い記憶は消してしまいましょう?

――――‥……

「……ぅ… ッ 」


月明かりに照らされた部屋のベッドで幾度と寝返りをうつクリフェイド、

「……ハ……ァッ …」

その額には、うっすらと汗までかいていた‥

――…


『――… 王、なぜ貴方のような偉大なる方がそこまでして私どものために…』

胸元には十字、古い西洋の鎧を着た数人の騎士…


『偉大か、ちがうな。私はお前たちより魔力を持っているだけであって、お前たちと何ら変わりはない』

『そう…

ただ、魔力を持っているだけであって私はただの人間に過ぎない』

人の手によって地下の世界に創られた太陽の光――…


明るく照らされる積み重ねられた石の回廊に布切を引きずる音と数人の男の声が響く‥

回廊から町並みを見下ろせば今日もまた街の人間は笑顔を浮かべている。

『王は民を代表し、民は王を支える… 』

影で霞んでよく見えない。だが、その声はまだ声変わりしていないような少年の声…


『人は皆、同じ生き物だというのに… 差別をすることに理解できぬ。なに故、共に助け合おうとせぬのか……

それはいつの世も同じか』


耳にかかる金色の髪、モヤがかかり鼻から下しか見えない少年の姿…

「……ン……ッ 」


夢にうなされ、寝返りをうつ回数が増えていくクリフェイド…

――…


『王っっ お逃げください!!団長が裏切りました!フランス王がすぐそこまで…』

騎士二人に奥へと連れて行かれる金髪の少年、

『何をするっ!?』


『王、ここはお逃げください。フランス王の目的は貴方です。ソロモン王…。この先の地下の城へお戻りください。

後は私たちが地下への道を封じますので』

『なにを言っている!? お前たちに戦わせておいて王が戦わぬわけにはいかない… 自分を支える民たちの危機に自身の身を呈してでも回避させるのも王の役目だ』


『王っっ!!!!』

ダッダッダッ ンッッ !!!


重たそうな鉄の鎧が床の石を踏み締める音が響く――‥

『いたぞ!!ソロモン王と残りのテンプル騎士団だ!!奴らを捕らえよ!バファメットを信仰する異端の奴らを許してはならん!!』

『なぜだ?フランス王フィリップ四世よ、何故そこまでして我らを追い込む? そこまでして己の欲を満たしたいか』


頑丈な鎧をつけさせた兵士の軍勢の先頭をいく30代後半くらいの男を睨み据える少年に、

『くくっ…欲に忠実で何がおかしい?人間は欲に生きるものだ』

『ちがう!愚かなっ!!!王と民は共存していかなければ成り立たぬ。欲に突き進めば民は苦しむ。なぜ、わからぬか!』


『くっ… 愚かとはお前にあるようなものだ。ソロモン王…?人は皆、欲に生きるものだ。民?あれは民に生まれた定めだ。民に重税かけようと金をむしり取ろうと…

私には刃向かえはしない。なぜなら私が“王“だからだ!』

『愚かな…

叡知たる王が民をそのような扱いしておいて許されるものか!!』


「…ぅ…ッ ……」


『くくくっ…

人の心配より自分の身を按じたほうがいいのではいか?』


そのとき、フランス王の指図で兵士たちが一斉に襲い掛かってきた

― - キンッッ!!!


『王っっ!!』

側にいたテンプル騎士団の一人が剣を弾く


『王を早くっっ!!』

『王、 こちらです!』

一人の騎士は迫り来る兵士たちを薙ぎ払い、王の手を取るのは――‥


『何を… っ!あの兵士たちを相手に、テンプル騎士団とはいえ、一人で戦うのは無茶だ!!』

「…ハ……ッ… ァッ…」

あまりの寝苦しさに乱れる息、


『ご心配いりませんっ!貴方を奥へ連れてから私も彼に参戦するつもりですから…』

さらさらとした肩につく黒い髪を揺らし、双方の黒い瞳で愛する王の手を取りキスを落とす――‥


『私の心は貴方に永遠に――‥ 。

たとえ、次の世に転生しても… 私は待ち続けます。再び貴方と出会える日を…』


――…それは別れの言葉

『…っな…にを…』

自分の顔に手を翳す彼は仄かに笑った

『…私は悪魔と契約しました… 貴方を護るため……。悪魔と契約し、手に入れた力も貴方を一時、眠らせるだけの力くらいはあります…』

チュッとキスを落とす彼は愛おしそうに、


突然襲った眠気で朦朧とする小さき愛おしい王の瞼に手を翳す…

『契約し、手に入れた力も限度がありましてね… この下の…地下の世界に彼らを入れるわけにはいきません。

貴方と私たちが築いてきた世界を… 彼らに荒らされたくないですから。その地下への道を封じてしまうのに大半の力を使ってしまうんです。

……お許しください

フランス王は貴方を狙う。彼から貴方を護るには地下の城と共に貴方をそこへ閉じ込めるしか今の状況では方法がないんです』


「………ッ 」

『貴方を死なせたくない。貴方の意思に反することをお許しください… ソロモン王…』

「――…ッ だ… いや…だ…ッッ!!!」


―バンッ!!!!

「――ッ! 坊ちゃんっっ!!起きてください!坊ちゃんっっ 坊ちゃん!!!」

突如、愛おしい主の異変に気づいた昴は寝苦しさから汗をかき、激しく寝返りをうつクリフェイドのベッドに駆け寄る


「ぅ゙……ッ ハ……ァッ… す…ば、る……?」

クリフェイドが目を覚ましたことに昴は安堵する。


「よかった。目が覚めたようですね…

酷くうなされていたようですが、大丈夫ですか?」

ベッドから身を起こすクリフェイドの汗に濡れた額を白いハンカチで、優しく拭う


「…わからない。なにか夢を見ていたような…」

額に手を当て、思い出そうと顔をしかめるクリフェイドを昴は無言で見つめた

「…………」

一瞬閉じた目を開き、主を見下ろすのは…


スッと細められた赤い瞳ーー…

「…昴?」


視界がいきなり閉ざされたクリフェイドはその手の掴み、小首を傾げる…

「貴方はただ… あの男に警戒しておけばいいんです。

――… 過去の辛い記憶を思い出す必要はありませんよ」


視界を覆う昴の手がクリフェイドに眠気を誘う…

ガクンっ!と力が抜け、傾くクリフェイドの身体を昴は予期していたようにサッと支える

その瞳は今だに紅かった。


ーーーーーーーーーー
ーーーー…

――‥ チュンチュン


「…ン……」

小鳥の囀りに目が覚めたクリフェイドは、ベッドから身体を起こすと両腕を伸ばして身体をほぐす…

― - コンコン…

扉のノックに短く返事をすると扉を開けて入ってきたのは昴だった‥。

「昨日はよく眠れ・・ましたか?」


「ん、いつもと変わらん。お前が煎れた紅茶を飲んで気がついたら朝だ…」

いつもと変わらない主の様子に昴はそうですか、と微笑む。まさか昴の質問が意味深だったことには何も覚えていないクリフェイドが気づくはずもなかった。

朝のティータイムに陶器のカップに紅茶を注ぐ昴は突然思い出したかのように小さな声を上げた。

「あっ!」

「どうかしたのか?」


「いえ、大したことではありませんが…

ただ、今日は王宮でパーティーが開かれるんですよ。きらびやかな会場で、豪華な料理もたくさん出ますし、招待客も政治家や有名な経営者、貴族なども招かれていますよ。

…シュバルク家は公爵、旦那様も参加者として招かれてるはずです」

どうぞ、と紅茶の入ったカップを差し出し、昴は笑みを浮かべた


「社交界デビューおめでとうございます」

「――っぶーッ! ケホッ!ケホッッ… 」

「あぁ大丈夫ですか?」


“社交界デビュー“という言葉に大いに咳込んだクリフェイドを昴は背中を優しく叩く

「…なんだって!?僕はなにも聞いていない」


「おや、まだ聞いていないのですか?旦那様は坊ちゃんにはまだ社交界デビューは早い、とおっしゃられていましたが、

先日、貴方の素晴らしい歌声に、この国の国家機密情報機関特殊組織の現室長が是非参加を… と言ってきたらしいですよ」

嫌そうにあからさまに顔を歪ませるクリフェイドに昴は苦笑を浮かべた。
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