和泉くんの受難

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- 出逢い -

別に飴玉に釣られたわけじゃない

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――‥ そこは古い古い洞窟


ただ静かに佇むそれは人に忘れ去られた古い古い祠。

暗黒の神、蛇神-じゃのめ-を封印したと云われており、かつては邪の神として祭られていた。どんな願いを叶えることが出来るも、その代償は大きく、贄となる多くの人間の血を欲した。

時は過ぎ、時代が経つと共にその信仰は途絶えたものの、

山と海の狭間にある集落には『古い祠』と、祭られている『蛇神-じゃのめ-』そして、払うべき『大きな代償』は伝承として今もなお伝えられていた。


――――――――――‥
――‥ 

シャン!

                          シャンシャンッ!!

儀式の鈴の音と…

般若のお面を被った大人が5人…


そして、

洞窟の岩壁に両手両足を鎖で繋がれ、涙で濡れた目を覆う白い布…


『な、んで…?助けて…っおと、ぅさんッ!助けて…ッ お、かあっさんッ!ふ、ぅッ… ひっく、』

どうして助けてくれないの? と泣きじゃくるまだ幼い少年…


だけど、

本当は理解していた。


自分は邪(蛇)神-じゃのめ- の器になるべく生け贄に選ばれたことを――‥ 。じゃのめ の器として、より相応しくする為に生まれてまだ一度も汚れのないその純粋無垢なる身体を穢し、そして、穢した後は儀式のナイフで心臓を一突きに、抉り出す心臓は邪(蛇)神-じゃのめ- の祠に捧げられることを。助けを求めても誰も助けてくれないことを…。

村の男5人に犯され、感じたくもない快楽に何度も何度も悲痛な声で喘ぐ


だけど、

当然、誰も助けてくれない。誰も助けに来てくれない…


だって、



いらない子供だから。

母は言った。新しい父との間に子供が出来たと。前の父との子であるお前は要らないと。


新しい父は言った。

可愛げがない子供だと。俺が躾けてやろうと。鞭で叩かれ、それでも泣き声一つ上げなかったことに腹を立てた新しい父はさらに言った。


泣き声一つ上げればまるで女子のようなのにと。そして、服に手をかけられた瞬間、突然入って来た母は眉をひそめると、唇を吊り上げた。

『村長がね、邪神- じゃのめ様の儀式の生け贄を探していらっしゃるそうよ?お前、お行き』


「え…?」

母の言葉に涙が頬を伝っていく。

その伝承を知る里の者ならば生け贄に選ばれた者がどうなるのか誰でも知っていた。顔を青くする俺に父もにやりと笑った。


『あぁ、それには名案だ。里の為だ。…それに、うちにはもう息子がいる。二人もいらない』

与えられる快楽に悲痛な声をあげる少年は生まれて来たことを呪った。なぜ、自分がこんな目に合わなければならないのか。ただ家族としての温もりを求めただけの何が悪いのか、と――‥ 。


5日間もの間、

少年は休まることも赦されず、5人の大人に交代に輪姦され続けた。けれど、その屈辱と生き地獄に終止符打たれたのは突然で…


―― ザクッ!

『かはっ、』


コポリ、と血を吐く。けれども、鎖で繋がれた手は虚しくガチャガチャと音を鳴らす。

苦しくて苦しくて…


消えかかる生命いのちの灯火。

死の瀬戸際、


苦しみもがいたことによりズレた白い目隠しの布…
そこから垣間見えたのは自分を穢し、手にかけた――‥ 新しい父だった。

そのショックに涙がつぅーと伝っていく


初めて人間ヒトが憎い、と思った…。
全てが。生きとし生ける者たちが。

許せなかった。


なぜ、自分だけがこんな目にも合わなければいけないのか…。

自分はなぜ生まれて来たのか――‥ 。


黒くドロドロとした感情で満たされていく。あぁそうか…。俺が生まれて来た存在意義は――。

気付くと、そこは血の海で、義父を含め村の男5人は無惨に死んでいた。血塗れの少年は仄暗い目で横たわる彼らが被る、血が滴った般若の鬼のお面を拾うと、その血濡れた般若のお面を顔に被った。


古い祠に手を伸ばし、そして赤く染まった短刀を突き刺した。

短刀を突き刺した古い祠、そこから黒い靄がじわりと溢れ出す


『――‥ なかなか面白い余興だったよ』


憎しみに満ちた目を向ける。その日は赤い満月の夜だった。


―――――――――‥
――‥ 

『――…くん、和泉いずみくん』

ゆさゆさと揺すられて寝惚け眼の目を向けると、和服を着た翁お面の男が俺の頭を撫でていた


「お、き… な……?」

まだ眠い目を擦りながら体をゆっくり起こすと、目の前の男と周囲を見渡して首を傾げた


「翁…?それに… ここ、何処?」

『此処は、物の怪… 我々、妖たちが住む世界。
キミも… 何度か来たことはあるでしょう?』


妙に確信めいたその言葉に記憶の断片を手繰り寄せる‥ 

それでも、これといったインパクトがなかったのか中々思い出せない

『キミのそれにも困ったものですねぇ…。
"次元渡り"キミが中でも得意とするものですよ』


次元渡り、その言葉に『あぁ、』と俺は思い出した。確かに何度か来たことがある。

堕ち神だとか邪神とか云われていた蛇の神-じゃのめの器として一度は命も尽きたこの身体。だけど、憎しみに駆られた魂は堕ち、器ではなくなった。けれど、人工的に故意に作られしこの魂と身体は生き神の器ではなくなり、もはや神と堕ち神の狭間の異質なる存在となった。


あれから、気が向くままに幾人もの人間を殺し、この虚ろな心を埋めるかのように多くの血を捧げた。


――‥ もうあれから何年、何十年と経ったんだろう。永遠とも思える生き地獄に殺めることに、何も感じなくなり、ただ淡々と人間を殺めることで自分の存在意義を見出だしていた。

長い長い年月を、気が遠くなるような月日をただ独りで彷徨い続けた俺は何がきっかけでこんなにも人間を憎むのか、その理由さえも遠い昔の記憶は朧げで曖昧なもので正直興味もなかったし、思い出そうともしなかった。
ただ、自分という存在意義を見出だすだけで満足し、周りのことにも特に関心を持つこともなかった。


そんな俺の日常を変えたのが… 目の前にいるこの男だった。好き勝手に次元を渡り歩いていたときに、運悪く?この男に見つかった。


『………』

初めて会ったときは向こうも無言で、俺は俺で翁のお面を付けた和服の男を見て顔をしかめていた。
    妖?幽霊?…それとも神??パッと見て瞬時に相手が何者かわかるのに、翁だけはわからなかった。

得体知れない者には近付きたくないというのが本音だった俺はすぐ様、回れ右して次元を渡って引き返そうとした俺を引き留めたのは…


ぐぅー…

俺の空腹の鳴る音で。


『こっちへおいで…』

だから別に… あの男の、翁の… 手のひらにあった飴玉に決して釣られたわけじゃない!

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