断罪フラグを回避したらヒロインの攻略対象者である自分の兄に監禁されました。

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- 陰の王国と廻りだす歯車 -

『幻獣図鑑と既視感』

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表紙は少し埃が付いていて、それを払って気付いた。

「この文字は…」

表紙に魔法円とそこに記された文字。見たこともないはずなのに、その文字の特徴にどこか懐かしく感じるーー。

本の表紙をめくると、パラパラと魔法円と絵が描かれたページに目を落としていく

「『【キマリス】… 20の軍隊を支配する侯爵。漆黒の巨大な馬に跨った戦士の姿をとっている。知識を召喚者に授けるという。また、隠された財宝や失われたものを見つける能力にも優れている。

【ベリアル】… 悪徳にまみれた美貌の貴公子。悪名高い地獄の王で80の軍を支配する。燃え盛る戦車に跨る美しい天使の姿で現れ、その美麗な容姿と美声であらゆるものを魅了する。その巧みな弁舌は真実であるように錯覚させるがそこに事実は一欠片もない。悪徳にまみれた堕天使。

【エリゴス】… 天界から堕ちた堕天使。旗を掲げた馬上で槍を構え王笏を携えた美丈夫の騎士姿で現れる。未来を予見し、戦場についての様々な事柄、これから起こるであろう戦争についても知らせてくれる。

【ガンコナー】 … 口説きの妖精。軟派な男性。若い男の姿をした妖精。人里離れた場所に現れ、次々に若い娘を口説くことから『言い寄り魔』とも呼ばれている。魔法で娘たちの心を誘惑しているという説もある。

【オヴィンニク】… 漆黒の毛に炎の瞳を宿す凶悪者。全身が黒い毛に覆われた大きな猫に似ており、犬のように吠えたり、大口を開けて笑うこともある。オヴィンニクの目は赤く輝いており、炎を出すことができる。性格は凶暴で非常に乱暴者。

【アンシーリーコート】… 人間に害を与える邪悪な妖精。人間に親切にされても逆に仇で返す邪悪な性格。悪行が絶えない精霊――‥ 』」


伝承やその人格。呼び出す魔法円に注意事項、その特徴を絵の挿し絵付きで1ページ丸々使って事細かに詳細が記されている本に… ペラペラとめくって、その量を見てパタン!と閉じる。

その辞書並みの厚みに何故か、覆い隠すことも忘れた溜息が唇から漏れていく… 

そこで、ふと目についた。

漆黒の毛に覆われたオヴィンニク、そしてアンシーリーコートの挿絵をもう一度視界に入れる。なぜ、もう一度見ようと思ったのか自分でもわからなかったけれど、なぜか、その二つの挿絵から目が離れなかった。

   プギュゥ!

『なにも、一度に知識を詰め込まなくてもいーー』

「バク?どうし…」

途中でバクの声が途切れる。否、全ての音が消える。視界が真っ暗になって… 

――――――――‥ 
――‥ 

『ふふっ!』

楽しそうに笑う女性の声、

『こっちよ、ルティ…』

白を基調としたシンプルでどこか気品を兼ね備えた袖口に施された金の刺繍の神聖なる衣服を身に纏う女性がふわりと翻し、肩にかかる髪を風に靡かせてこっちを振り返って笑う

『ほら、これをあげるわ。このお菓子、とっても美味しいのよ』

『だ、だめですよ!このお菓子は姫巫女さまが頂いたものであって… それに兄様に叱られてしまいます』

大きな白い神殿を後ろに、姫巫女さまと呼ばれた女性が微笑みを浮かべる


『あら、そんなことはないわよ。私が貰ったものだもの。私があなたにあげようと誰も咎めないわ』

その言葉に困惑を浮かべる男の子に、なぜかデジャヴを感じた。

『…また、そうやって甘やかす』

諦め混じりの溜め息を零すのはいつの間にか後ろに立つ少し白髪混じりの筋肉質の少し厳つい顔つきの男の人だった。

『あ、父上!』

そう呼ぶ男の子をちらりと見て、姫巫女さまと呼ばれた女性に向き直る。

『困りますぞ!姫巫女さま、あまりうちの息子を甘やかさないでください。それに他の者に示しがつきません』

少し厳しい表情でそう諭す白髪交じりの男の人に姫巫女は笑う

『ふふっ、あなたはいつもそればかりね…。』

そんな何気ないやり取りも楽しいのか、笑みを絶やさない姫巫女に呆れ混じりの溜め息が白髪交じりの男の人から聞こえてくる… そんな他愛もない日常がこれから先もずっと続くと思っていました。

そう思ってから、ハッとする。

・・・そんな日常・・?そんな日常って??僕は何を言っているんでしょうか?こんな光景、知るはずもないのに… けれど、知るはずのないこの光景が父上という人と、姫巫女さまという女性を見て懐かしく感じるのは… なぜでしょうか。

どこか、懐かしく… そしてこの光景を見て悲しくなる自分は一体どうしてしまったのかと不安を覚える…。

そしてまた場面が変わった。

『ハァハ…ァ…ッ!』

デジャヴを感じる男の子はフード付きの外套を羽織って何かに追われるように、何かから逃げるように必死に走っていた。

ハッハッハッ!

犬のような狼のような動物の独特の荒い鼻息、そして口から剥き出しにする鋭利な犬歯、涎を垂らし少年を追う。まるでその子供が自分の獲物だとばかりに隣を駆ける同胞にドツきをかます。

我先にと子供を狙うそのおぞましい化け物に、先ほど見た本に載っていたオヴィンニクとアンシーリーコートにその姿が酷似する…。

そしてその後ろを、黒い馬に乗った赤い十字の鎧を身に纏った兵士たちが攻めてくる――‥。

その全てに既視感を覚え、頭がズキズキする。

そうしているうちにも男の子と彼らの距離は縮み始める。

崖っぷちに追いつめられ、立ち尽くす男の子は…

一度振り返り、

『――ッ!』

何かを叫ぶと懐から出した短剣を頭上に掲げ、そして振り下ろした。

突然の行動に、どよめく声と… 対する男の子が取った行動に響く怒涛の声。

傾くその体は激しく波打つ海へと投げられた――。
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