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- アルファード王国と黒い獅子 -
『嘘と真実と記憶のピース』
しおりを挟む「…………」
そう、敬語口調のうちはまだ… まるで自身に言い聞かせるように再度確認したとき。ほんの一瞬、過去の惨劇が甦る──。
《 にいちゃん…》
ただ一人生き残った俺以外の一族が殺されたあの日、助けることができなかったまだ幼い弟は父と母に庇われるようにして共に死んでいた。
周りは、血の海で…
「───ッ」
前髪をクシャリと掴み、憎しみとも悲しみともわか、ない感情が再び沸々と思い出─── 『もう、おやめ…』
「───え?」
顔を上げると、そこには痛ましそうに見つめるアラルドかいて、
『君は、少し… 過去に囚われすぎじゃないかな?』
───ッ!
「あなたに…ッ 貴方なんかに…ッ!何がわかるというんですか!!?」
それは琥珀となってからは今まで見せたこともないような感情の起伏で、
「憎まずにはいられない、怨まずにはいられない… だけど、あの人は… 私に鬼澄と名前を与えたあの人は… 天帝はそれを望ま───… え?」
自分の口から出た言葉に自分自身が驚く。『天帝』という言葉に。
「な、んで…」
信じられなくて、大きく大きく目を見開く。
そんな私にアラルドはまるでその知りたいことを知っているかのように、何もかもを見通しているかのように… 告げる。
「記憶というモノは、不思議なものでね…。ちょっとしたすれ違いで、思い込みも記憶となり得るんだよ。ほら、記憶は美化されるとよく言うだろう?あれは理に適っているんだよ。
記憶とは一つ一つがピースで、まるでパズルのようだ。そのピースの一つが欠けてしまうだけで記憶は不完全となる。…さて、君がいくつも持っている記憶は真実か、それとも作り出された偽りの記憶か──。」
「───だが、たとえ覚えていなくとも、その魂は覚えている… 。真実と嘘を交えるとより現実味が増すんだよ。知っていたかい?君も、せっかく、仕事から離れられたんだ。いま一度、今後の自身の身の振り方をよく考えてみたらどうかな?またとないチャンスだと思うがね」
「貴方は…」
戸惑いと困惑の混じった表情でアラルドを見上げると、何かを誤魔化すようにクシャクシャと前髪を撫でられた。
「ちょ…っ!」
「私から言わせれば、君の記憶は不完全だ。一つに囚われず、もっと視野を広げなさい。そうすれば、何れと君の知りたい真実が見えてくるはずだよ」
「し、んじつ…?」
きょとんとして、目を瞬きするとなぜか人の顔を見るなりあからさまに深い溜め息をつかれる。
「……あの、ですね。さっきから本当ににもう何なんですか!?視野を広げろと言ったと思ったら人の顔を見るなり溜め息つくなんて」
「いや、君の無自覚さは噂には聞いてはいたが… 想像以上だと思ってね。君のオトモダチがどうりで心配するはずだ」
ふぅ、やれやれ…とわざとらしく肩を竦めるアラルドに睨みを利かせるも、
「他はともかく、私からすれば君のその怒った表情も追い詰められた小動物のまるで抵抗になっていない細やかな威嚇にしか見えないよ。……いくら、私が分別のある大人だと言ってもねぇ、本人がこんな無防備じゃ… 間違いが起こっても仕方ないと私は思うが君の意見はどうかな?」
ニコニコと極悪な笑みを浮かべながら距離を詰めはじめるアラルドに、
「え゙」
「な、な……ッ!?」
いよいよ追い詰められ、唇に触れそうになった瞬間、初めて身の危険を感じて目をキュッと閉じる。
「………」
けれど、待てど待てどと、唇に触れる気配はなくて、恐る恐る目を開けて見ると…
クシャリと前髪を掻き上げられ、顕になった額に落ちる生暖かい温度、そして チュッというリップ音に… 固まった。
「───お仕置き、だよ?無防備で自分のことに無頓着な君が悪い」
ま、これ以上したら君のオトモダチに殺されそうだからやめておくが…。と意味深な言葉を残して、部屋を出て行くアラルドに、琥珀はしばらく放心状態から抜け出せなかった。
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