366日の奇跡

夏目とろ

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[第5章]ラブレター

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 この新歓が終わればゴールデンウイークで、つまりは新入生が柴咲学園に入学して半月以上が経っている。この時期に新歓を開催するのは生徒会側の都合によるものがでかいが、正直、新入生達もある程度の場所は頭の中に入っているはずだ。それでも新歓を開催するのは上級生と新入生との交流が目的で、なら全校生徒を参加させろって話なんだけどさ。

「あー、まあ肩の力を抜いてくれ。生徒会主催だからそんな堅苦しいイベントでもないし」

 なんとか檀上に立って挨拶するも、人見知りな性格が顔を出す。ぶっきらぼうな挨拶は嫌われる原因だと分かってはいるが、放送委員の司会がニュースを読み上げるような堅苦しいものだったから思わずそんなことを言ってしまった。

「きゃーっっ」
「へ?」

 すると思い掛けず新入生から黄色い歓声が上がり、俺は思わずそんな素っ頓狂な声を漏らしてしまう。えーと、この後は俺以外の生徒会役員からのスピーチだから、そこで歓声が上がるならわかるんだけど。もしかして俺、なんかやらかした? いや、まだ他のメンバーをステージに呼び込んではいないから、誰かがステージ袖から顔を出したのかも知れない。

「羽柴、がんばって!」

 案の定、ステージ袖から日向の声がして、俺はその一言で我に返った。

「まあ、そう言うことだから楽しんでくれな。まずは我々生徒会役員から皆に一言言わせてくれ」

 俺のその言葉に他のメンバーがステージに姿を現すと、耳をつんざくような歓声が沸き起こる。新歓は生徒会主催だからさっきまでの改まった雰囲気を崩したかったが、俺が心配するまでもないみたいだ。
 新入生達は、おそらくは推しメンだろうメンバーの名前を書いたハートのうちわを振っている。去年まではその様子を向こう側から見ていたけど、ステージから見るとこんな感じだったのか。当たり前だけど俺の名前のうちわは一つもないが、会長様と呼んでる声がするような、しないような。

「すまん、静かにしてくれ」

 その時、普段はどもり癖のせいで殆ど喋らない不知火のその声にぴたりと歓声がやんだ。

「生徒会役員のスピーチ、だ。していいか?」

 不知火が無口なのは吃ってしまうからで、あらかじめ何を話すか決めておくとスムーズに話すことが出来る。不知火の低い声は物凄くいい声で、静まり返った講堂から感嘆の溜め息が聞こえて来そうだ。
 急遽、堅苦しい放送部員の司会に変わって不知火が司会をすることになり、新入生歓迎会は大いに盛り上がった。

「一年生の皆、入学おめでとー」

 メンバー達がスピーチする度、新入生達から割れんばかりの歓声と拍手が沸き上がる。普段、滅多に喋らない不知火と鷹司のスピーチの時は水を打ったように静まり返り、まるで一言一句を聞き逃さまいとしているかのようだった。

「それでは最後に会長から歓迎の言葉をたまわります」

 なんだか仰々しくそう言われて、俺は頭を掻きつつ檀上に立つ。

「……あー」

 すると、俺の場合は人気がないからだろうが、鷹司や不知火の時と同じように物音一つしないほど静まり返った。

(――もしかして皆、シラケてる?!)

 そんな状態に軽く焦った俺は、必死で言葉を選ぶ。

「新入生の皆、柴咲学園高等部に進学してくれてありがとう。俺は一度リコールされてしまったダメダメな会長だが、皆を歓迎するよ」

 軽く言ったつもりのジョークも滑ってしまい、すぐにでも檀上から下りてしまいたかった。それが滑ったのじゃなくて俺の言葉に聞き惚れていたと知ったのはずっと後のことで、せっかく用意していたスピーチも散々なものになってしまった。猛省しつつメンバーのところに戻ると、椿野に良かったよと太鼓判を押される。
 俺にとっては苦い生徒会デビューとなったが、新入生歓迎会はまずまずの出来で幕を下ろした。
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