夏蝉鳴く頃、空が笑う

EUREKA NOVELS

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#5 「不可思議な磁力」

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 唖然としてしまった。
 何年も何年も焦がれていた。
 君を追って生まれ育った街から逃げ出したこと。
 逃げ出した先で物書きになって生きていたことを

「知ってたんだ。」
「全部知ってて、なら、なんで今更僕の前に顔を出せたんだ!」

 意味が分からない、理解できない。
 感情が堰を切ったように溢れ出してくる。
 視界がぼやけてしまうほどの激情に身を支配されながら僕は目の前に立つ彼女に目を向けた。

「本当は、知る必要なんてなかったんだろうね。」

 何を言っている。

「ある時、本屋さんで見知った名前が書かれた本が置いてあるのを見つけちゃったんだ」

 聞きたくない、だってそれは。

「興味本位で読んでみたら、見慣れた字と言葉遣いで、すぐに君が書いたものだってわかったよ。」

 当然だ、君に幾度となく物語の話をした。
 この街のこと、遠い街のこと、異国の空の色のこと。

「「どこかで君が見つけてくれる」」

 きっと、そんな想いが二人を今ここに呼び寄せたのだろう。

 それは偶然で、必然で。
 ねぇ、神様がいるなら、教えてほしいんだ。

「どうして僕たちは出会ってしまったんだろう?」
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