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魔法少女は世界を救って恋をする
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今から十年ほど昔。突如現れた魔王によって地球は壊滅的な打撃を受けた。
各国の政府機能は失われ、魔王が指揮する配下達の侵略行為により人類は奴隷の様に扱われた。
もうおしまいだ。誰もがそう諦めかけていた時、彼女達が現れた。
五色の魔法を操り、魔王軍に敢然と立ち向かう五人の魔法少女達。
それが、後の救世の英雄となるセイントプリズムだった。
そして彼女達は長き戦いの末——、
『今日でセイントプリズムにより魔王が討伐されてから今日で二年となります。そして、人類の復興を初めてから二年となります』
ふ、と点けたままにしていたテレビから流れてきた音声に、私はキーボードを叩いていた指を止めた。
ダイニングテーブルに置いた目の前のノートパソコンの画面からテレビへと視線を向けると、丁度セイントプリズムの勇姿を湛える映像が流されている。
年端もいかない少女達がカラフルな衣装を身に纏い、迫りくる魔族の群れを前に人々を背にして立ち向かう姿が映し出されている。あの状況でこんな映像、誰が撮っていたのか、と疑問が頭を過るが、そんなものは追い出して流れる映像を眺める。
セイントレッドと呼ばれている少女が燃えるように輝く赤い髪を靡かせ手にしたロッドを振るえば、その先端から生み出された炎の槍が幾つも現れ魔族の一団を薙ぎ払う。
セイントグリーンがポニーテールにしたエメラルドのような髪を輝かせ、優美なデザインのレイピアの先端で魔族の一体を指し示せば、吹き荒れる嵐がかまいたちとなって仲間達の屍を乗り越えて迫る魔族の陣を切り崩す。
セイントブルーがアクアマリンのような長い髪を揺らし、手元のスタッフを一回転させ——、
「ただいま、ナギ姉!」
聞こえて来たのは玄関を開く音と、この家の同居人の声。
「おかえり、真彩」
玄関からスーツ姿で私の所までやって来た真彩は頬に唇を寄せる。
それから、頬をすり合わせると満足したように笑みを向けた。
頭の後ろで束ねた黒髪を下ろしながら、彼女は自室に向かう。そうしてすぐに部屋着で出てきた。
またスーツその辺に投げ捨てたな。
「どうナギ姉、原稿進んでる?」
「んー、まあ何とかなるわよ」
「締め切り明日って言ってなかった?」
肩を竦める私を、昔から変わらずそのまま整った顔立ちを寄せ、切れ長な瞼で私を見る。
「後1ページ分書けば終わりだから大丈夫よ」
「毎日締め切りに追われる記者っていうのも大変だね」
「毎年この時期になると、セイントプリズムの話題になるから、彼女達の特集記事ばっかりよ」
チラリと真彩はテレビへ目を向けると、恥ずかしそうに視線を逸らす。
「今年もまたその特集やってるの?」
「別に恥ずかしがること無いじゃない。救世の英雄様?」
「ナギ姉ったらやめてよ。もう十年も前の事じゃん」
「世界を救ったのはまだ二年前よ」
テレビの画面にはセイントプリズムのメンバーについて細かな紹介を交えて、専門家とかいう女性がコメントをしている。
プツリと電源が落ちた。真彩がリモコンに触れていた
「あの頃は、私達も必死だっただけだよ。異世界から魔王なんてものが現れて、急にそれと戦うセイントプリズムなんてものに選ばれて、私達がやらなきゃって、奈々もレナも美沙紀も渚も必死になって戦ってたんだよ。そうしないと、本当に世界が無くなっちゃうから」
当時、まだ十歳だった彼女達が戦うことを強要され、その為の力を持たされた。
そして、彼女達は見事にその役目を全うした。
「知ってるよ。誰よりも近くから、あなた達の事を見て来たから。人々を救うためにどれだけ傷ついても五人で支え合って、笑って泣いて、辛くたって最後まで立派にやり遂げたことを私は良く知っている」
「うん、ナギ姉が一緒にいてくれたからだよ」
頷く彼女に、私は言葉を掛ける。
「真彩、私のプリズムイエロー。これは、私の贖罪なのだから、あなたが気にする必要は無いのよ」
二年前、彼女達セイントプリズムが魔王を討ち、世界を救ってみせた。けれど、世間はその英雄の正体を知らない。それは異界での魔王との戦いで傷つき、この世界へ流れ着いた私の前に偶然居合わせた幼かった彼女達に、自身の力を割いて戦いを強いてしまったことへの贖罪でもある。
二年前、魔王からの驚異の無くなったこの世界は、戦い抜いた彼女達を英雄ではなく、脅威として排斥しようとしたのだ。
人々は魔王以上の力を持つ彼女達を畏怖し、恐怖した。
だから、私は彼女達を世界から隠すことにしたのだ。立派に戦い抜いた彼女達は称賛を受けるべきなのだから。
英雄としての功績だけを残し、彼女達の正体の一切を世界から消し去った。故に、彼らはセイントプリズムを讃えるのだ。自身の犯した罪を忘れて。
結果、異界の女神としての全ての力を使い果たした私は元の世界へ帰ることは出来なくなり、こうして人間として過ごすこととなった。
そして、そんな私に世界を救った一人、プリズムイエローの、真彩が手を差し伸べた。
「私、一目惚れだったんだよ。十年前、ナギ姉を見た時から、今はもう大きくなったけど私達に力を分け与えて小っちゃくなってた時でも、私の心の中には初めて会った時のナギ姉がいたんだよ。だから、私にナギ姉を救わせて」
そう言って、真彩は私の手を握り返した。それから時が過ぎすっかり大きく、大人の女性になった真彩が私に笑みを向けた。
それは私が見惚れるくらいの笑みで。
膝の上の私の手に掌を重ね、真彩は私の頬に触れる。
「嫌だよ。私を、私達を救ったことがナギ姉が罪だと言うのなら、私も一緒に背負うから。だから、泣かないで」
頬に触れる指先が、私の目元を拭う。
どうやら、私は泣いていたらしい。
「私、大人になったんだよ。ナギ姉のおかげで、ナギ姉が力をくれたから、守り抜ける力があったから、ここまで大きくなれたんだよ。それは、誇って良いんだよ」
「真彩、私は、ンムッ」
私の口を真彩が塞ぐ。
「ん、チュ……ナギ姉の言い訳はこれ以上は聞かない」
「真彩、だったら私はどうしたらいいですか?」
「私と一緒に笑っていてよ。ナギ姉は正しいことをしたんだから。正しいことをした報いは、私が与えてあげる。ナギ姉が愛してくれた私が、たくさん報いてあげる。だから、一緒に笑ってよ」
真彩の言葉に、少しだけ胸の奥が軽くなった気がした。
少女達の為に全てを無くした私だけれど、代わりに彼女を得た。
「うん、いい顔」
私は上手く笑えただろうか。
真彩は、私に微笑む。
「ナギ姉、大好き」
「真彩、私を愛してくれて、ありがとう」
私が得たものはここにある。
「……ナギ姉、ごめんね。先に謝っておく」
「へ? え、ちょっと真彩。何で急に服を脱がそうとするんです? ねえ、真彩?」
……これから何かを亡くすかもしれない。
END
各国の政府機能は失われ、魔王が指揮する配下達の侵略行為により人類は奴隷の様に扱われた。
もうおしまいだ。誰もがそう諦めかけていた時、彼女達が現れた。
五色の魔法を操り、魔王軍に敢然と立ち向かう五人の魔法少女達。
それが、後の救世の英雄となるセイントプリズムだった。
そして彼女達は長き戦いの末——、
『今日でセイントプリズムにより魔王が討伐されてから今日で二年となります。そして、人類の復興を初めてから二年となります』
ふ、と点けたままにしていたテレビから流れてきた音声に、私はキーボードを叩いていた指を止めた。
ダイニングテーブルに置いた目の前のノートパソコンの画面からテレビへと視線を向けると、丁度セイントプリズムの勇姿を湛える映像が流されている。
年端もいかない少女達がカラフルな衣装を身に纏い、迫りくる魔族の群れを前に人々を背にして立ち向かう姿が映し出されている。あの状況でこんな映像、誰が撮っていたのか、と疑問が頭を過るが、そんなものは追い出して流れる映像を眺める。
セイントレッドと呼ばれている少女が燃えるように輝く赤い髪を靡かせ手にしたロッドを振るえば、その先端から生み出された炎の槍が幾つも現れ魔族の一団を薙ぎ払う。
セイントグリーンがポニーテールにしたエメラルドのような髪を輝かせ、優美なデザインのレイピアの先端で魔族の一体を指し示せば、吹き荒れる嵐がかまいたちとなって仲間達の屍を乗り越えて迫る魔族の陣を切り崩す。
セイントブルーがアクアマリンのような長い髪を揺らし、手元のスタッフを一回転させ——、
「ただいま、ナギ姉!」
聞こえて来たのは玄関を開く音と、この家の同居人の声。
「おかえり、真彩」
玄関からスーツ姿で私の所までやって来た真彩は頬に唇を寄せる。
それから、頬をすり合わせると満足したように笑みを向けた。
頭の後ろで束ねた黒髪を下ろしながら、彼女は自室に向かう。そうしてすぐに部屋着で出てきた。
またスーツその辺に投げ捨てたな。
「どうナギ姉、原稿進んでる?」
「んー、まあ何とかなるわよ」
「締め切り明日って言ってなかった?」
肩を竦める私を、昔から変わらずそのまま整った顔立ちを寄せ、切れ長な瞼で私を見る。
「後1ページ分書けば終わりだから大丈夫よ」
「毎日締め切りに追われる記者っていうのも大変だね」
「毎年この時期になると、セイントプリズムの話題になるから、彼女達の特集記事ばっかりよ」
チラリと真彩はテレビへ目を向けると、恥ずかしそうに視線を逸らす。
「今年もまたその特集やってるの?」
「別に恥ずかしがること無いじゃない。救世の英雄様?」
「ナギ姉ったらやめてよ。もう十年も前の事じゃん」
「世界を救ったのはまだ二年前よ」
テレビの画面にはセイントプリズムのメンバーについて細かな紹介を交えて、専門家とかいう女性がコメントをしている。
プツリと電源が落ちた。真彩がリモコンに触れていた
「あの頃は、私達も必死だっただけだよ。異世界から魔王なんてものが現れて、急にそれと戦うセイントプリズムなんてものに選ばれて、私達がやらなきゃって、奈々もレナも美沙紀も渚も必死になって戦ってたんだよ。そうしないと、本当に世界が無くなっちゃうから」
当時、まだ十歳だった彼女達が戦うことを強要され、その為の力を持たされた。
そして、彼女達は見事にその役目を全うした。
「知ってるよ。誰よりも近くから、あなた達の事を見て来たから。人々を救うためにどれだけ傷ついても五人で支え合って、笑って泣いて、辛くたって最後まで立派にやり遂げたことを私は良く知っている」
「うん、ナギ姉が一緒にいてくれたからだよ」
頷く彼女に、私は言葉を掛ける。
「真彩、私のプリズムイエロー。これは、私の贖罪なのだから、あなたが気にする必要は無いのよ」
二年前、彼女達セイントプリズムが魔王を討ち、世界を救ってみせた。けれど、世間はその英雄の正体を知らない。それは異界での魔王との戦いで傷つき、この世界へ流れ着いた私の前に偶然居合わせた幼かった彼女達に、自身の力を割いて戦いを強いてしまったことへの贖罪でもある。
二年前、魔王からの驚異の無くなったこの世界は、戦い抜いた彼女達を英雄ではなく、脅威として排斥しようとしたのだ。
人々は魔王以上の力を持つ彼女達を畏怖し、恐怖した。
だから、私は彼女達を世界から隠すことにしたのだ。立派に戦い抜いた彼女達は称賛を受けるべきなのだから。
英雄としての功績だけを残し、彼女達の正体の一切を世界から消し去った。故に、彼らはセイントプリズムを讃えるのだ。自身の犯した罪を忘れて。
結果、異界の女神としての全ての力を使い果たした私は元の世界へ帰ることは出来なくなり、こうして人間として過ごすこととなった。
そして、そんな私に世界を救った一人、プリズムイエローの、真彩が手を差し伸べた。
「私、一目惚れだったんだよ。十年前、ナギ姉を見た時から、今はもう大きくなったけど私達に力を分け与えて小っちゃくなってた時でも、私の心の中には初めて会った時のナギ姉がいたんだよ。だから、私にナギ姉を救わせて」
そう言って、真彩は私の手を握り返した。それから時が過ぎすっかり大きく、大人の女性になった真彩が私に笑みを向けた。
それは私が見惚れるくらいの笑みで。
膝の上の私の手に掌を重ね、真彩は私の頬に触れる。
「嫌だよ。私を、私達を救ったことがナギ姉が罪だと言うのなら、私も一緒に背負うから。だから、泣かないで」
頬に触れる指先が、私の目元を拭う。
どうやら、私は泣いていたらしい。
「私、大人になったんだよ。ナギ姉のおかげで、ナギ姉が力をくれたから、守り抜ける力があったから、ここまで大きくなれたんだよ。それは、誇って良いんだよ」
「真彩、私は、ンムッ」
私の口を真彩が塞ぐ。
「ん、チュ……ナギ姉の言い訳はこれ以上は聞かない」
「真彩、だったら私はどうしたらいいですか?」
「私と一緒に笑っていてよ。ナギ姉は正しいことをしたんだから。正しいことをした報いは、私が与えてあげる。ナギ姉が愛してくれた私が、たくさん報いてあげる。だから、一緒に笑ってよ」
真彩の言葉に、少しだけ胸の奥が軽くなった気がした。
少女達の為に全てを無くした私だけれど、代わりに彼女を得た。
「うん、いい顔」
私は上手く笑えただろうか。
真彩は、私に微笑む。
「ナギ姉、大好き」
「真彩、私を愛してくれて、ありがとう」
私が得たものはここにある。
「……ナギ姉、ごめんね。先に謝っておく」
「へ? え、ちょっと真彩。何で急に服を脱がそうとするんです? ねえ、真彩?」
……これから何かを亡くすかもしれない。
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