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宿題は計画的に
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「宿題。それは夏における、全ての学生達の敵である」
「戯言はいいからさっさと手を動かす」
「あ、ハイ」
私の向かいに座り、妄言を言い出した阿弥を一言で切り捨てた。
再び静かにシャーペンを動かす音が室内に響く。
このやり取りも今日だけで既に10回を数えている。
「夏休みの宿題が終わらないってあんたが泣き付いてきたから、こうして私のノート写させてやってるんだからさっさと終わらせなさい」
「へへぇ、美琴様には大変感謝しております」
現在はすっかり日が落ちているが、亜弥が泣き付いてきたのが今日の朝の事。
そして今日は8月31日。
「本当に何でこんなギリギリになるまで手を付けなかったのよ」
「いや、自由研究の完成に思っていた以上に時間が掛かっちゃって」
ようやく最後の宿題に手を付け始めた亜弥にため息を吐き出す。
この様子だと徹夜になりそうだ。
「私は夕飯作ってるから、大人しく宿題進めてなさいよ」
「はーい、ママ」
「誰がママか」
キッチンへ向かって冷蔵庫を開ける。
レタスと卵とブロックベーコンとサランラップに包まれた冷凍しているご飯があった。適当に炒飯にでもすればいいだろう。
冷凍ご飯を電子レンジに放り込み解凍しながら、二枚ばかり千切って水洗いしたレタスを一口サイズに切ってザルに入れおく。それから適当に切り出したブロックベーコンを小さく切る。ボウルに卵を一個割入れ、菜箸でかき混ぜる。
冷凍ご飯の解凍が済んだことを電子レンジが知らせてくる。解凍が済んだご飯をボウルに入れ卵と混ぜ合わせ、炒める際の手間を省いておく。
コンロの下からフライパンを引っ張り出して火にかけ、サラダ油を熱してレタスを炒める。油が絡まったところで水を少々入れて軽くしなるまでさらに炒める。しなったところでレタスを皿に移してフライパンから退かしておく。
次にベーコンをごま油で炒め始める。ベーコンに火が通ったタイミングでボウルをひっくり返してご飯を投入。塩コショウと亜弥の好みに合わせて中華スープの素を入れてパラッとするまで炒める。
そして最後に炒めたレタスを戻してから仕上げに炒めながら混ぜ合わせて、レタス炒飯の完成だ。
それをお皿に盛り付け、スプーンを添えてテーブルに持っていく。
「できたよ」
「んー、いい匂いする」
広げていた宿題のノートを退かして、目の前に置かれた夕飯に眼を輝かせた。
「有り合わせでレタス炒飯よ」
「ママ、しゅきぃ……」
「馬鹿なこと言ってないで食べなさい」
「いただきます!」
早速スプーンを手に亜弥は炒飯を口に運ぶ。
「おいしい! さすが美琴だね!」
「そう、ありがとう」
満面の笑みで感想を言う亜弥に言葉を返し、私もスプーンを手に取る。
レタスのシャキシャキとした食感とお米のシンプルな味付けがよく合っている。我ながら良い出来だ。
「今日は泊めてあげるから、これ食べ終わったら宿題さっさと終わらせなさいよ」
「やった! 分かってるって、ノート半分まで終わったからもうすぐだよ」
既にほとんど食べ終えた亜弥の口の横に付いた米粒を取って指先で舐め取る。
「あんたは黙っていれば見た目だけは秀才なのに、残念よねぇ」
「そう言う美琴は、悪そうな目つきして完全に不良みたいな見た目して、文武両道な才女じゃない」
「あんたは私より運動できるじゃない。ていうか何それ褒めてんの? ありがとう」
「どういたしまして。私の恋人が美琴でよかった」
「馬鹿な事言ってるとその皿取り上げるわよ」
「残念でした。もう食べ終わっちゃいました。ごちそうさま」
「はいお粗末様。お皿は流しに置いといて。食べ終わったらまとめて洗うから」
「はーい」
空になったお皿を持って流しへ歩いていく亜弥。
それから直ぐに戻ってきて早速ノートを広げ始めた彼女の姿を眺めながら、私は黙々と自身のスプーンを動かした。
「終わったー」
「はいはい、お疲れ様」
もうじき日付が変わろうかという頃、パタリとノートを閉じて亜弥は大きく伸びをした。
そんな亜弥の背後でベッドに寝転がって漫画を読みながら終わるのを待っていた私は言葉を掛ける。
「うん、今日はありがとうね美琴」
「あんたに留年でもされたら私が困るもの」
「素直じゃないなぁ美琴」
「うるさい。さっさとお風呂入ってきなさい」
「美琴も一緒に入ろうよ。ご褒美だよご褒美」
ベッドに寄りかかって、亜弥の手が私のパジャマの隙間に差し込まれたのを叩き落とす。
「あんたの自業自得なんだからご褒美なんてあるわけないじゃない。それに私はもう入ったから一人で入ってきなさい。出たらもうさっさと寝るわよ」
「はーい。行ってきまーす」
「パジャマはもう籠に入れてあるからそれ使って」
叩かれた手をぶらぶらと振りながら、彼女は素直に浴室へと向かう。
その背中に声を掛けると、亜弥は分かったと言葉を返し、それから直ぐに浴室からシャワーの音が聞こえてきた。
「じゃ、電気消すわよ」
私の熊柄パジャマを着てベッドに潜り込んだ亜弥に声を掛けて、部屋の電気を消す。
それから、私もベッドに潜り込む。
「ねえ美琴」
部屋に一つしかないベッドの中、背後から私を抱えるようにして、亜弥が私の名前を呼ぶ。
「ごめんね。今日はありがと」
耳元で囁いて、見た目に反して鍛えられた腕が私を抱きしめる。
「私をこれだけ待たせたんだから、ちゃんと寝かせてよ」
「もちろん、寝不足なんてさせないよ」
パジャマの中に滑り込む手に、私は自身の手を重ね合わせた。
「亜弥は自由研究は何にしたの?」
翌朝、いつも以上にすっきりした頭で私は亜弥に問いかけた。
「ん? これだよ。夏の間の出来事全部書き出すのに苦労したよ」
『美琴の性態』
分厚い冊子のタイトルを見せてきた亜弥の鳩尾に私の拳が突き刺さった。
「戯言はいいからさっさと手を動かす」
「あ、ハイ」
私の向かいに座り、妄言を言い出した阿弥を一言で切り捨てた。
再び静かにシャーペンを動かす音が室内に響く。
このやり取りも今日だけで既に10回を数えている。
「夏休みの宿題が終わらないってあんたが泣き付いてきたから、こうして私のノート写させてやってるんだからさっさと終わらせなさい」
「へへぇ、美琴様には大変感謝しております」
現在はすっかり日が落ちているが、亜弥が泣き付いてきたのが今日の朝の事。
そして今日は8月31日。
「本当に何でこんなギリギリになるまで手を付けなかったのよ」
「いや、自由研究の完成に思っていた以上に時間が掛かっちゃって」
ようやく最後の宿題に手を付け始めた亜弥にため息を吐き出す。
この様子だと徹夜になりそうだ。
「私は夕飯作ってるから、大人しく宿題進めてなさいよ」
「はーい、ママ」
「誰がママか」
キッチンへ向かって冷蔵庫を開ける。
レタスと卵とブロックベーコンとサランラップに包まれた冷凍しているご飯があった。適当に炒飯にでもすればいいだろう。
冷凍ご飯を電子レンジに放り込み解凍しながら、二枚ばかり千切って水洗いしたレタスを一口サイズに切ってザルに入れおく。それから適当に切り出したブロックベーコンを小さく切る。ボウルに卵を一個割入れ、菜箸でかき混ぜる。
冷凍ご飯の解凍が済んだことを電子レンジが知らせてくる。解凍が済んだご飯をボウルに入れ卵と混ぜ合わせ、炒める際の手間を省いておく。
コンロの下からフライパンを引っ張り出して火にかけ、サラダ油を熱してレタスを炒める。油が絡まったところで水を少々入れて軽くしなるまでさらに炒める。しなったところでレタスを皿に移してフライパンから退かしておく。
次にベーコンをごま油で炒め始める。ベーコンに火が通ったタイミングでボウルをひっくり返してご飯を投入。塩コショウと亜弥の好みに合わせて中華スープの素を入れてパラッとするまで炒める。
そして最後に炒めたレタスを戻してから仕上げに炒めながら混ぜ合わせて、レタス炒飯の完成だ。
それをお皿に盛り付け、スプーンを添えてテーブルに持っていく。
「できたよ」
「んー、いい匂いする」
広げていた宿題のノートを退かして、目の前に置かれた夕飯に眼を輝かせた。
「有り合わせでレタス炒飯よ」
「ママ、しゅきぃ……」
「馬鹿なこと言ってないで食べなさい」
「いただきます!」
早速スプーンを手に亜弥は炒飯を口に運ぶ。
「おいしい! さすが美琴だね!」
「そう、ありがとう」
満面の笑みで感想を言う亜弥に言葉を返し、私もスプーンを手に取る。
レタスのシャキシャキとした食感とお米のシンプルな味付けがよく合っている。我ながら良い出来だ。
「今日は泊めてあげるから、これ食べ終わったら宿題さっさと終わらせなさいよ」
「やった! 分かってるって、ノート半分まで終わったからもうすぐだよ」
既にほとんど食べ終えた亜弥の口の横に付いた米粒を取って指先で舐め取る。
「あんたは黙っていれば見た目だけは秀才なのに、残念よねぇ」
「そう言う美琴は、悪そうな目つきして完全に不良みたいな見た目して、文武両道な才女じゃない」
「あんたは私より運動できるじゃない。ていうか何それ褒めてんの? ありがとう」
「どういたしまして。私の恋人が美琴でよかった」
「馬鹿な事言ってるとその皿取り上げるわよ」
「残念でした。もう食べ終わっちゃいました。ごちそうさま」
「はいお粗末様。お皿は流しに置いといて。食べ終わったらまとめて洗うから」
「はーい」
空になったお皿を持って流しへ歩いていく亜弥。
それから直ぐに戻ってきて早速ノートを広げ始めた彼女の姿を眺めながら、私は黙々と自身のスプーンを動かした。
「終わったー」
「はいはい、お疲れ様」
もうじき日付が変わろうかという頃、パタリとノートを閉じて亜弥は大きく伸びをした。
そんな亜弥の背後でベッドに寝転がって漫画を読みながら終わるのを待っていた私は言葉を掛ける。
「うん、今日はありがとうね美琴」
「あんたに留年でもされたら私が困るもの」
「素直じゃないなぁ美琴」
「うるさい。さっさとお風呂入ってきなさい」
「美琴も一緒に入ろうよ。ご褒美だよご褒美」
ベッドに寄りかかって、亜弥の手が私のパジャマの隙間に差し込まれたのを叩き落とす。
「あんたの自業自得なんだからご褒美なんてあるわけないじゃない。それに私はもう入ったから一人で入ってきなさい。出たらもうさっさと寝るわよ」
「はーい。行ってきまーす」
「パジャマはもう籠に入れてあるからそれ使って」
叩かれた手をぶらぶらと振りながら、彼女は素直に浴室へと向かう。
その背中に声を掛けると、亜弥は分かったと言葉を返し、それから直ぐに浴室からシャワーの音が聞こえてきた。
「じゃ、電気消すわよ」
私の熊柄パジャマを着てベッドに潜り込んだ亜弥に声を掛けて、部屋の電気を消す。
それから、私もベッドに潜り込む。
「ねえ美琴」
部屋に一つしかないベッドの中、背後から私を抱えるようにして、亜弥が私の名前を呼ぶ。
「ごめんね。今日はありがと」
耳元で囁いて、見た目に反して鍛えられた腕が私を抱きしめる。
「私をこれだけ待たせたんだから、ちゃんと寝かせてよ」
「もちろん、寝不足なんてさせないよ」
パジャマの中に滑り込む手に、私は自身の手を重ね合わせた。
「亜弥は自由研究は何にしたの?」
翌朝、いつも以上にすっきりした頭で私は亜弥に問いかけた。
「ん? これだよ。夏の間の出来事全部書き出すのに苦労したよ」
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