勘違いにはご注意

煮込みメロン

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勘違いにはご注意

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「サキ、あれ何処に置いたか知らないかしら?」
「お嬢様、あれでしたら昨晩自室のドレッサーの鏡の前に置かれたままになっておりましたよ。ですが、このままでは学院に遅れてしまいますので、少々お待ちください」

 お嬢様が私の名前を呼ぶ。
 その声に私はメイド服のスカートに下げたポーチから、白いシザンサスの意匠が施されたヘアクリップを取り出して、手早くお嬢様の長く艶のある髪をまとめ上げ、ヘアクリップで挟む。
 それから、自身の手鏡でヘアクリップを確認して、お嬢様は少しだけ目を細めて、嬉しそうに小さく笑みを浮かべた。

「ん、上出来だわサキ」
「ありがとうございます」
「それじゃ、私は学園へ行ってくるから、帰りには迎えを寄越してちょうだい」
「承知いたしました。いってらっしゃいませ、お嬢様」

 学院へ向かわれるお嬢様に、私は頭を下げた。


「サキってさ、お嬢様の『あれ』だけで何を指しているのかよくわかるよね」
「え?」

 お嬢様がお出かけになられてからの昼休憩。
 使用人用の小さな食堂で食事をしていると、同僚のセナが私に声を掛けてきた。

「いや、サキとお嬢様との会話って、まあ主にお嬢様からの会話なんだけど、よくあれって言うじゃない。サキ以外の使用人じゃ、あの会話って何を指しているのか分かんないのよ」
「そうでしょうか? 結構わかりやすいですよ」
「それはあんただけよ」

 首を傾げる私にセナは、短く切りそろえられた蜂蜜色の髪をかき上げて、呆れたように苦笑した。
 お嬢様の仕草に注目さえしていれば、何を考えているのかは意外とわかるのだけれど、使用人仲間に話したところでこれまで理解を得られたことが無かった。
 なんで?

「お嬢様とは歳が近いというのもあるのかもしれませんし、お嬢様が小さい頃はよく一緒に遊んでいましたから。それも関係するのかもしれません」

 私は、このお屋敷の使用人を母に持ち、お嬢様とは三つ歳年上で、私以外に歳の近い者がいなかったのもあって、お嬢様が学院に通われるまでは、一緒に遊んで、勉強をして過ごしていた。
 私が姉の様に接し、お嬢様も私の事をよく慕っていた。
 けれども、お嬢様と私とでは身分も違うため、お嬢様が学院に通われるようになる前には主と使用人として接するようにと教えられ、私達もそうであるようにと努めてきた。
 それでも、やっぱりこっそりと昔のように過ごすこともあったけれど。

「んー、あたしが見るに、お嬢様とサキのあれはなんていうか……。いや、あたしが言う事じゃないな。悪い、忘れてくれ」

 頭を掻いて、何かを考えるようにした後、セナは頭を振って席を立った。

「えー、何、気になるじゃない」
「いや、夫婦での阿吽の呼吸みたいだなってな。じゃあな、先に戻るわ」

 そう言うと、セナは私に背を向けて、その場を後にした。

 それからは何事も無く、私はお屋敷全体のお掃除とお嬢様のお部屋の掃除や、ベッドメイキング等を済ませ、気が付けばお嬢様がお帰りになる時間帯になっていた。

「おかえりなさいませ。お嬢様」
「ええ、ただいま」

 玄関先でお嬢様を出迎え、鞄を受け取る。
 チラリとお嬢様の視線が私に向けられたけれど、視線が合うと、ついと逸らされてしまった。
 その様子に小首を傾げてみても答えを得られるわけでもなく、私はお嬢様のお部屋へと向かう。

「サキ、私先にシャワーを浴びてくるから、荷物は部屋に置いておいてちょうだい」
「はい、かしこまりました」

 そう言うと、お嬢様は浴室へと向かい、私は鞄を持ったままお嬢様のお部屋の扉を開け、窓辺に設置されたお嬢様の机の脇に鞄を置いた。
 それから、下着と替えの洋服とバスタオルを持って浴室へと向かう。

「お嬢様、お着替えをお持ちいたしました」
「ええ、ありがとう。持ってきてくれる?」

 浴室の扉を叩き、お嬢様の言葉に私は入室する。
 入った先には濡れた肢体のまま脱衣所に立つお嬢様の姿。

「まあ、遅くなってしまい申し訳ございません」
「別にいいわよ。出たばっかりだもの」

 すぐさまバスタオルを広げ、お嬢様の身体を拭いていき、下着を着せ、ドライヤーで髪を乾かす。
 そうして完全に髪が乾いたことを確認にしてから、水色のワンピースを着せると、長い黒髪を下ろしたお嬢様の姿。
 その姿に満足して一人大きく頷いてから、私はその場を離れようと動き、お嬢様に袖を摘ままれた。

「如何されましたか、お嬢様」
「……ヘアクリップも」

 彼女が指す先には白い洗面台の脇にシザンサスのヘアクリップが置かれていた。
 私はそれを取り、手早く髪をまとめ上げて、ヘアクリップで止める。
 その様子に、お嬢様は何故か残念そうな顔をして小さく息を吐き出して、私の腕を引いた。

「サキ、ちょっと私の部屋まで来てちょうだい」

 言いつつも、有無を言わせず、私を引っ張っていく。
 そのまま、自室まで私を引っ張ったお嬢様は、私をベッドの上に私を座らせると、私の両耳を押さえると、自身の唇を私の唇へと寄せた。

「ン、む……、はぁ、お嬢様、突然いったい何を」
「ねえ、サキ姉、これってプロポーズってことでいいの? いいよね」
「ちょ、アヤナちゃ……ムぅ、ん」

 昔のように私の名前を呼び、強引に唇を寄せる彼女の背中を軽く叩く。
 けれども、何故か興奮した様子の彼女は止まる気配は無く、唇を割って差し込まれた舌が私の口内を蹂躪する。
 聴覚を塞がれ、強引に絡められる舌の感触に、甘く痺れる快感が頭を刺激していく。

「エる……チュ、ンぇ……、プは、アヤナちゃ、一旦落ち着いて、私の話を……」
「サキ姉、好き、愛してる……サキ姉が誘ったんだからね」
「あ、ダメだ、聞いてくれてない……」

 昔からお嬢様は良くも悪くも、何かを思い込むと一直線に向かう少女だった。
 私に好意を寄せていたのは、今も昔も変わらないのだけれど、ここまで激しいものはこれまで無かった。
 だからこそ、今私は戸惑っている。
 再び。お嬢様の唇が私の唇に押し当てられる。舌先が私の舌全体をなぞり愛撫する。

「ちゅ、れム……むェン、ズ、んむ」

 お嬢様の甘い唾液が口内で混ざり合う。それを嚥下し、飲み込み切れなかった分が、口の端を伝い落ちる。
 そうして、一通り私の口内を蹂躪してから離された舌先が透明な糸で繋がり、伸び、千切れて落ちた。熱く湿った吐息が混ざり合い、私の頭の中がふわふわと覚束なくなっていく。
 そして、ある程度私を蹂躪して一旦落ち着いたのか、幾分勢いを無くしたお嬢様の唇を、今度は私が啄む様に攻め立てる。

「チュ、む、ん、ちゅ……」

 なるべく息継ぎを挟まず、強引に。舌でお嬢様の唇をなぞり、湿らせ、口の端から滴る唾液に唇を寄せる。
 そして最後に、耳を塞ぎ息継ぎをしようと突き出た舌を吸い上げた。

「ジュル、ズずッ……ッぷは」

 私が多少強引に行くことで、多少理性が戻って来たのか、お嬢様の瞳が私を見る。

「少しは落ち着きましたか、アヤナちゃん」
「あ……うぇ、ごめんなさい、サキ姉……」

 声を掛けると、お嬢様は今にも泣き出しそうな顔で、私に頭を下げた。

「いえ、いきなりで驚きはしましたが、大丈夫ですよ。それよりも、何故急にこんなことを?」
「その、私、このヘアクリップを見て、つい舞い上がっちゃって……」

 お嬢様が自身の髪を止めていたそれを外して、私に見せる。

「シザンサスの花言葉は『何時までも一緒に』だから、朝サキ姉がこのヘアクリップを髪につけてくれたのが嬉しくて、つい……」

 そう言うと、お嬢様はごめんなさいと涙をこぼした。
 その様子に、私は昔も同じように泣く彼女をあやしたことを思い出す。
 腕をお嬢様の背中に廻し、頬をすり合わせる。

「お嬢様。今回は早とちりでこんなことになってしまいましたが、それでも、私はアヤナちゃんの事が好きですよ?」
「サキ姉……」

 耳元で囁き、背中を撫でる。

「アヤナちゃんは、私が好きですか?」
「……うん」

 私の言葉に、お嬢様が頷く。
 それが嬉しくて、昔の様に私の胸が高鳴ってしまう。

「サキ姉……? ひゃぃっ!?」

 耳朶を軽く口に含むとお嬢様が可愛らしく鳴いた。
 その様子が愛らしくて、私はお嬢様を押し倒す。

「お嬢様は、私をどうしたいですか? 私をここまでしたんですから、……私の主として責任は取ってくださいね」

 そして、自身のスカートをたくし上げ、私は完全に濡れそぼったショーツをお嬢様に披露してみせたのだった。


 翌日は、痛む腰を押さえつつ仕事をこなす私の様子に、仲間達から心配する声を掛けられる一日となった。

END
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