16 / 405
第2章 出会い アイリス、クロ編 (16話〜48話)
二百年経ちました
しおりを挟むあの日から二百年ちょっとの年月が経った。
ただひたすら、ごろごろだらだらしたスローライフを享受した二百年間だ。
寝たいだけ寝て、体を動かしたいな~って思った時はノエルと二人でちょっと遠出のピクニックをしたり。
ふと思い立って遠くに旅行に行ったりと。
とにかくゆっくりのんびりをテーマに過ごした。
……………一応言っておくけど、自堕落じゃなくて悠々自適だからね!
生活に必需なお金は、シゼルさんに冒険者登録をしてもらったので、時々依頼やクエストをこなして稼いでいた。
"Xランク"なのでクエストに困ることも無い。
むしろ王都から直接の依頼が来たりすることもあったくらいだ。
また、村がピンチに陥った時はもれなく力を貸した。
例えば伝染病が流行しただとか、魔物が襲ってきたりした時とかね。
村人がバタバタ死ぬのをただ傍観する訳にはいかない。
そんな事をしていた+シルバ達が俺とノエルの活躍を、まるで神話を語る語り部のような口調で後世に伝えるもんだから、自然と村人達から尊敬を集めることになった。
ただ伝説や言い伝えは、どうしても年月を経ることによって変わってしまう。
徐々にノエルの言い伝えが衰退し、"草原の剣聖"ばかりが目立つようになってしまったのだ。
きっと"草原の剣聖"というそれっぽい名前かつ、明確な対象がいる方が伝えやすかったのだろう。
ノエル的には、現世で目立つと神様的に色々まずいので結果オーライらしいのだが、もう一人の当事者の俺からすると少し釈然としない物がある。
まぁノエルがそれでいいなら細かく言うつもりは無いけどね。
それに、村の発展に横槍を入れるなんてまねは出来るだけしたくない。
そんな訳で、今では"草原の剣聖"の名はこの村、"カディア"だけではなく、世界中に広がるほどの知名度を誇っていた。
風の噂によると、世界には"草原の剣聖"を崇め奉るいくつかの組織があるらしい。
今のところ俺が把握している三大派閥の内、一つは"草原の剣聖"にただひたすら貢ぐことが目的の「剣聖様に貢ぎ隊」。
もう一つは、理由は違うが一つの目的のために集結した「剣聖様に弟子入りし隊」。
そして最後に、男女問わず"草原の剣聖"に踏まれることを目的とした「剣聖様に踏まれ隊」だ。
それぞれが文字通りの願望を掲げ、日々しのぎを削っている…………らしい。
最初に知った時、あまりにもぶっ飛んだネーミングセンスとクレイジーな思考にドン引きしたのは言うまでもない。
総じてツッコミどころが多すぎる。
貢ぎたいって、俺もしかしてアイドルか二次元の存在だと思われてる?
確かに過去とんでもなくでかい宝石や大量のぬいぐるみ、お菓子その他諸々を冒険者協会を通して、なんなら直接渡しに来た人も居た。
「剣聖様に弟子入りし隊」は唯一まともかと思ったら、構成員が全員厄介なガチ恋勢みたいだし………。
明らかに身の危険を感じた。
そして最後、一番アウト!
いくら俺が若返って中性的な見た目だったとしても、色々と完全にアウトだ。
え、なに、世界中にこんな事思ってる人が居んの?
恐怖でしかないんだけど…………"男女問わず"ってとこがさらに恐ろしい。
「あっ、剣聖様!おはようございます!」
「ん、おはよう。野菜はいい感じに育ってる?」
「はい!この前、剣聖様から頂いた助言を元に肥料を作ってみたら、見ての通りすくすく育ちました!」
「おお、ほんとだ!そりゃあ良かった」
さて、そんな考えたくない話は置いておいて、今日はとある用事があって村に降りてきた。
ついでに立ち寄った彼の家は代々農家をやっていて、少し前に不作に悩んでいたところに俺が少しアドバイスし、その結果無事に不作を乗り切ることが出来たようだ。
ふふ、俺もただ二百年近くだらだらしてた訳じゃないんですよ。
皆の助けになるだろうと思って、遥か昔の記憶を頼りに指南書などを執筆したのだ。
内容は農業や経済など様々だが、どれも前世で見たクイズ番組やら参考書等から引っ張り出した知識が中心である。
しかし知識と言っても所詮俺の記憶でしかないので、当初はどうしたものかと悩みに悩んだ。
そこで頼りとなったのが魔法。
さすがファンタジー、ちょこっと図書館で探せば"記憶を詳細に思い出す魔法"なんてすぐに見つかった。
まぁ普通に古代魔法でしたけど。
しかも"特定の記憶"じゃないから、俺の二十数年間目にしたものが全て詳細に想起されて大変だった。
不老不死じゃなかったら脳が処理しきれなくてショートしてたかも…………とまぁ昔の話は置いておいて。
収穫時期が来たらおすそ分けすると言ってくれた青年と別れ、俺は改めて目的地の冒険者ギルドに向かう。
事前に連絡を受けていた、王都にあるギルドからの依頼を受けるためだ。
やがてたどり着いた小さな建物のウェスタンドアを押し、通い慣れた冒険者ギルドの中に入る。
「はよーっす」
「あ、マシロさんいらっしゃ~い」
入口正面にある受付に行くと、見覚えのある制服に身を包んだ受付嬢が手を振って奥から出てきた。
シゼルさんだ。
四、五歳は歳をとって大人っぽくなってはいるものの、まだあの頃の面影をバッチリ残したシゼルさんだ。
いや、人違いとかそっくりさんじゃなくて、マジモンのシゼルさん。
この人、二百年近く経ったのにまだこのギルドで受付嬢してるんだよね…………。
人間の寿命とは。
ずっとこの見た目から変化ないし、もしかして俺達と同じ不老不死なんじゃないのだろうかと度々思う。
ちなみに年齢を聞くとシゼルさんは静かに怒る。
年齢以外だったら基本的に何でも答えてくれるが、年齢だけはダメらしい。
色々と謎が多い女性だが怖いのでちゃんと聞けていない。
長寿なエルフ族であるネイを除けば、あの頃から唯一残っている人なのだ。
「あら、今日はノエルちゃんはお連れじゃないんですね」
「うん。ほら、この前連絡もらったでしょ、王都からの依頼の事で。今日はそれを受けに来たんだ」
「あぁ、例の件ですね!ちょっと待っててくださいね~」
ぽんっ、と胸の前で手のひらを合わせたシゼルさんは一度奥の部屋に引き返すと、少しして何か封筒らしきものと小袋を手に持ってやって来た。
「こちらの文書をダグラスという商人に渡す、と言うのが依頼内容ですね。これは支給された宿代などです。道中にお使いください」
テキパキと作業をこなして書類に印鑑を押すと、その文書とお金の入った小袋が手渡される。
さすがは二百年も受付嬢をしているだけあって、作業の正確さと素早さはもはや芸術レベルだ。
にしても、これを王都に届けるだけで依頼完了なの?
それにしては報酬が金貨二十枚(日本円にして約二十万円)とずいぶん高額だな………。
こっから走って行ったら休憩込みで王都まで三、四日くらいだから………日給に換算したら五万円くらい。
さらに道中の宿代も出るときた。
うわ、すごいな、一気に儲かるじゃん。
「あ、言い忘れてたんですけど、それの中身は機密文書らしいのでくれぐれも扱いには気をつけてくださいね?」
「今まさに報酬の高さに納得した!」
なるほどね。
だから報酬も高いし、受注できるのがSSランク以上だったのか。
それなら納得納得…………って、そもそも機密情報が渡る商人って一体………?
ただの冒険者に大切なはずの機密情報を運ばせるのも謎だし。
ダグラスさん何者?
「はい、これが紹介状です。これを渡せばすぐに対応してくれますよ。それでは頑張ってくださいね~!」
168
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
収奪の探索者(エクスプローラー)~魔物から奪ったスキルは優秀でした~
エルリア
ファンタジー
HOTランキング1位ありがとうございます!
2000年代初頭。
突如として出現したダンジョンと魔物によって人類は未曾有の危機へと陥った。
しかし、新たに獲得したスキルによって人類はその危機を乗り越え、なんならダンジョンや魔物を新たな素材、エネルギー資源として使うようになる。
人類とダンジョンが共存して数十年。
元ブラック企業勤務の主人公が一発逆転を賭け夢のタワマン生活を目指して挑んだ探索者研修。
なんとか手に入れたものの最初は外れスキルだと思われていた収奪スキルが実はものすごく優秀だと気付いたその瞬間から、彼の華々しくも生々しい日常が始まった。
これは魔物のスキルを駆使して夢と欲望を満たしつつ、そのついでに前人未到のダンジョンを攻略するある男の物語である。
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる