最強ご主人様はスローライフを送りたい

卯月しろ

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第7章

マシロ家での日々④

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△月□日



「よっ、とっ……………ミリア、昨日渡したやつはもう読んだ?」
「ええ。隅々まで、ねっ!」


素手での組手のさなかミリアに問うと、やはり予想通りの答えが返ってきた。
昨日はご飯の時もお風呂の時も、どこか意識が他の方に持ってかれてたからな……………。

"破邪の魔王"エビルの能力は理不尽な程に強すぎる。
自分が認めないものを全て拒絶するとか、文字にすると一見ただの駄々っ子にしか見えないけど、能力として機能した暁にはとんでもない。
絶対に敵には回したくないタイプだ。
面倒くさいことこの上ない。

ミリアの〈無効貫通〉なら対抗できうるだろうが、如何いかんせんスキルの熟練度が違いすぎる。
もし衝突した時に機械的な処理で相殺されず、本人の熟練度によって勝敗が決まるなら間違いなくミリアが負けるだろう。

…………………まぁ、それはミリアのスキルがならの話だが。



さて、そろそろかな。
お互いに相手の腕を掴んでいた手を放し、息を整えながら距離を取って今度は片手剣を引き抜く。
準備運動は終わり。
ここからが本番だ。

いつも通り、本番を想定した本気の模擬戦が始まる。
ミリアの目標は俺に攻撃を当てること。
そして反対に俺の目標は一度も攻撃を喰らわないこと。
今日は最初っから〈無効貫通〉発動状態での戦闘である。



俺がばらまいた魔法の数々を意に返さず斬り裂き、ミリアが接近してくる。
本来ならここで一旦下がるべきだが、今回に限ってはむしろ逆に前へと踏み込む。
少し試したいことがあるのだ。
もしかしたらミリアの良い特訓になるかもしれない。

ピクリと眉を動かして驚きを露わにするミリアを見据え、上段に構え振り下ろした剣と逆袈裟斬りで振り上げられた剣がぶつかり合う。


「なっ………!?」


またもやミリアの表情が驚愕に染る。
確かに衝突したはずの二つの剣。
本来ならばスキルの効果によって俺の剣が真っ二つに粉砕されるはず。

ところがなぜか、ギリギリと鍔迫つばぜり合いの状態で均衡が保たれていた。
どれだけ力を入れようがこれ以上前に進まない。
素の揚力で敵わないのは分かる。
でもなんで────────。


そんな顔だねこれは。
分かりやすいなー…………。


「………………あんた、まさか…………」
「そ。仕組みは簡単、剣を魔力でコーティングして、それが割られる度に瞬時に新しいのを張るだけ。どうよこれ」
「いや、どうって………………バカじゃないの?」


そんな全力で呆れなくても良くない…………?
とんだ脳筋だわ…………とげんなりした表情で呟くミリア。

言いたいことは分かる。
これこそ俺の有り余る魔力を存分に活用した、The・脳筋の結界術。
本職の方に見せたら軽くドン引きされそうなくらい色々と無視したゴリ押しの結界による、実質的に無敵のガード。
普通ならこんな燃費の悪いこと絶対にしないけど、これで擬似的に【絶界】を再現したようなものだから、練習にはなるんじゃないかな。


「………………はぁ、あんたのぶっ飛んだ頭と魔力にツッコむのも、もう疲れたわ………。斬られても文句は言わないでよね!」
「ふっ、もはやミリアの暴言に慣れてしまった自分が怖い。とまぁそれは置いておいて、ばっちこい」


おそらく史上初かつ、もう二度とやらないであろう結界のゴリ押しでミリアの剣を弾き、距離を取って再び衝突する。
割れた傍から即展開。
かつてないほど連続で〈無効貫通〉が発動中の剣と斬り結び、かつてないほどゴリゴリ魔力が削れてく。

…………………良い集中状態だ。
紅の軌跡を描く瞳は適度に見開かれ、五感をフル活用して視認した情報を処理。
今自分に出来る極限まで洗礼された動き、そして時には本能的な動きも混ぜ、臨機応変に俺を追い詰める。

よし、この調子ならゾーンに入ることも───────。




不意に、本能が警鐘けいしょうを鳴らした。
ガンガンガンガン煩い。
理由は分かってる。
たった今、何気なく振り下ろされるさなかの一撃。

明らかに先程までの攻撃とは一線を画する。
何が、とは上手く説明出来ないけど、とにかくやばい。
発動しかけのスキルを強制的に解除し、避けることだけに力を全振りして咄嗟のバックステップ。
転移魔法なんて発動する隙もない。
本当に一瞬の出来事だった。

再生する何重にも張られた結界を全てぶち破り片手剣を粉砕。
俺が紅に染まる視界の端に捉えたのは、元のとも〈無効貫通〉発動状態のとも形状が異なる、第三の剣。

それはあらゆるスキル、魔力、肉体的に固められた圧倒的なまでの防御を易々と貫通し、俺の首に喰らいついて─────────。



ザザッ!

…………………あ、危ねぇ、首を斬り落とされるところだった……………。
しゃがんだ体勢で片手を地面について止まった俺は、冷や汗をかきながら首筋を撫でる。

おおぅ、血が出てら。
ギリギリで反応出来たから薄皮一枚で済んだけど、もう少し遅れてたら胴体と首が亡き別れになってたな、こりゃ。
まぁ不老不死だから死にませんが。


「……………あ、あんた、それ…………」
「ん?いやまぁ血は出ちゃってるけど、どうせすぐ治るから気にしなくて────────って、ミリア?大丈夫か?」


手をヒラヒラと振りながら折れた片手剣を拾おうとするが、ミリアの声が震えているのに気がついて思わず顔を上げた。
様子がおかしい。
ぽろりと手から剣がこぼれ落ち、俺の切り傷を呆然と見つめる表情は青ざめてカタカタ震えてしまっている。
瞳を占めるのは恐怖の感情。


「……………………ごめんなさい、今日はもう止めにするわ……………………」
「あ、おう…………」


背を向けて家の方へ向かうミリアに何か声をかけようとしたが、一つも言葉に出せずそのまま見送ることしか出来なかった。



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