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第10章
修業
しおりを挟むズガッ!ビュッ、ガシュッ!!
断片的に続く乾いた衝突音が庭園の一角に響き渡る。
様々な色の細い軌跡が縦横無尽に迸り、衝突を繰り返しては弾けて綺麗な火花を撒き散らした。
まるでダンスを踊るかのようにアクロバティックな動きで剣技の応酬をするのは、ノエルとエイナの二人。
一見ただの美しい光景にしか見えないが、これでも絶賛息の詰まるような戦闘の真っ最中である。
再び至近距離での鍔迫り合いの後、お互いに弾かれて距離を取った。
そよ風が吹く。
不意に、二人の間に何枚かの木の葉が舞い落ちた。
エイナの姿が消え、ノエルの背後に出現。
ほんの一瞬だけ木の葉が視線と被った瞬間、それに隠れるように移動したのだ。
勢いよく横薙ぎされた木剣をしゃがんで避けて、すかさずノエルが反撃。
ぶつかり合った剣をくいっと傾けてエイナの体勢を崩し、そのまま神速の一閃で木剣を弾き上げる。
主の元を強制的に離れさせられた木剣がくるくると宙を舞い、二人の後ろでカランカランっ、と乾いた音を立てて地面に落下した。
思わず尻もちをついてしまったエイナの首筋に、ノエルが木剣を添える。
模擬戦終了。
ノエルの勝ちだ。
「や、やっぱりノエルさん、強すぎです………」
「お疲れ様ー」
ぜぇぜぇと荒い息混じりにエイナはそんな感想を漏らた。
近くで座りながら待機していた俺は、【ストレージ】からタオルと水を取り出し、二人の元に駆け寄る。
「うぅ、今日も勝てませんでした………」
こくこくと喉を鳴らして水を飲み、額の汗を拭い。
一息つくと、エイナがしょんぼりと表情を曇らせてそう口にした。
どうやら昨日に引き続き、ここ数日の模擬戦でノエルに全く勝てていない事を気にしているらしい。
「大丈夫、ノエルが強すぎるだけだから。エイナの動き、昨日より断然良くなってたよ」
「うむ。むしろ成長速度が早すぎてびっくりなのだ」
そうなんだよね。
エイナの成長速度は尋常じゃない。
模擬戦の度に確実に強くなってるし、ノエルの技術を見る度に片っ端から取り込んで、どんどん自分なりの戦い方を確立しつつある。
まだ肉体が成長しきっていない分、どうしても動きに制限がされてしまうものの、それでも異常なほどの伸び率だ。
これでもまだまだ伸び代があるのだから恐ろしい。
"勝てない"に関しては、相手がノエルだからどうしてもなぁ…………。
たぶんあんまり自分が成長したってのを実感しずらいのだろう。
……………今度カルマなりグルサスなりを当て馬にして、実力試しをするのもありかもしれない。
とりあえず元気を出してもらおうと頭を撫でようと手を伸ばす。
しかし。
「(すっ………)」
あれ。
もう一度手を伸ばす。
「(すっ…………)」
「あれ!?」
やっぱり確実に距離を取られてる。
なんで!?
エイナの頭を撫でようとしたら、なぜかすすっと距離を取られた。
今までこんな事なかったのに…………。
俺はただ、いつも通り"頭を撫でようとした"だけなのに─────────はっ!!
………………まさか、そういう事なのか!?
俺からすれば頭を撫でるのは単なるコミュニケーションの意しかなかった。
下心なんて皆無。
しかし、エイナも良い年頃の女の子だ。
最初は再開した喜びと、昔の習慣が抜けていなかったためあまり気にしていなかったが、今になって一般的な感性を…………!
セクハラ…………セクハラなのか!?
前世ではちゃんとそういう事態を起こさぬように注意していたはずなのに…………二百年で完全に気が緩んでいたと言うのか!?
恐るべし異世界。
エイナに拒否されるという、割とショッキングな出来事に俺は膝をつき、四つん這いになって項垂れた。
エイナが赤ちゃんの頃からの付き合いという事もあり、結構ダメージが大きかった。
孫みたいな存在から距離を取られるって、中々心にくるものがあるな…………。
そうか…………そうだよな。
エイナも、もう良いお年頃のお姫様だもんね……………。
なるほど、これが子供が自立した時の親の気持ちか…………。
「い、いえ、そういう事ではなく…………」
「え?」
苦笑い気味のエイナの言葉によって俺は再び顔を上げた。
少し頬を赤く染めると。
「………いっぱい動いた後で、その…………汗をかいているので…………」
「………………oh......」
えっと、つまり?
俺を嫌ったり、撫でられるのが嫌という訳では…………?
ぶんぶんと顔が勢いよく横に振られた。
勝った──────!!
復☆活!
目にも止まらぬ速さで起き上がり、握りこぶしを天に掲げ勝利のポーズ。
今なら全人類に優しくできる気がする。
「うーむ………汗なんぞ気にせんでも良かろうに。なぁ、真白」
「まぁ、ぶっちゃけ相手によるだろうけどね」
恥じらいを持っていつもより若干距離を空けるエイナに対して。
そんなものは知らんとでも言うがごとく、ノエルは普通にあぐらをかいて座る俺の懐に腰を下ろした。
そのまま背中を俺に預け、楽な姿勢で俺の手のひらを自分の頭の上に乗っけると、満足気に鼻息を漏らした。
ノエル……と言うよりうちの女子組は基本的にこんな感じだ。
まぁ俺自身も全然気にしていないので、皆がそれで良いなら俺から何か言うことは全くない。
と言うか汗で衣服や髪が張り付いたり、首筋を伝う汗が非常にエッ((((((((((殴。
ちなみに平常心を保っているが、視線を少しでも落とすとノエルの谷間に汗が落ちるのが見えてしまうので、鋼の意思で顔を固定している。
さすがにエイナの前でそういう事をする訳にはいかんのよ…………。
教育上、問題しかない。
「ふ、普通に…………やはり壁は高いです……!」
「壁?」
「まぁ、ワタシは慣れていると言うのもあるのだ。なにせ夜のうn」
「ノエル、だめ。それ以上はダメ絶対」
さらっととんでもない事を口走ろうとしたノエルの口を塞ぐ。
ふがふが何かを訴えているが、ダメなものはダメ。
危なかった…………。
もし手遅れになってたら、俺がレミアさん(メイド長)からお叱りを受けるどころかボコボコにされるところだった。
夜の"ピー(自主規制)"はあかんのよ。
その後、結局二人で頭を撫でさせてもらった。
俺とノエルで"ピー"関連の話題禁止の話をしている間、放置してしまっていたので謝罪も込めて。
次第にエイナの表情が緩んで行く。
にへら………と頬をゆるっゆるに緩ませ、気持ち良さそうに目を細める姿は非常に可愛らしい。
まるでぶんぶんと忙しなく左右に振られるしっぽと耳が幻視されるようだ。
元気を取り戻してくれたようで何より。
「いつまでもしょげていたって、仕方ありません………。ノエルさん、次こそは勝ってみせます!」
「望むところなのだ!」
そう言えば元はそんな話だったな………。
だいぶ脱線してた。
ふんすっ、と鼻息荒く、気合十分に宣戦布告。
エイナ自身のこの向上心も、きっと実力の向上に一役買っているのだろう。
うむうむ、良い。
非常に良いよ何とは言わないけど。
さて、これで今日の修行は終わり。
「ノエルさん、一緒にお風呂に入りませんか?汗も流したいですし」
「もちろんなのだ。真白はどうするのだ?」
「いや、俺はさすがに………」
「お兄様も一緒に………!?」
「エイナ、落ち着いて。さすがに俺は一緒に入れないよ」
「そうですか…………」
え、そんなに落ち込む………?
パァ………!と表情が明るくなったかと思ったら、一瞬でしゅんとしてしまった。
俺が女湯に入ったら大事件だよ。
当たり前だけど王城に混浴なんてないしね。
あったらあったで"なんでだよ!"ってツッコみたい。
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