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第10章
パーティ②
しおりを挟む「お兄様!」
「おっと」
さりげなく一歩さがり、反射的に抱きつこうとしてきたエイナを支える。
さも躓いたエイナを受け止めるかのように、周りから違和感なく見えるように。
「エイナ様、慌てていると危ないですよ?」
「もうっ、お兄様は意地悪です………」
意地悪と言われましても…………。
ぷく~っ、と不満げに頬を膨らませているのは実に可愛らしいが、ここは完全に公の場だ。
いつもみたいに抱きつかれるのを待っている訳には行かない。
周りに厄介な勘違いをされかねないからね。
今日の俺はあくまでも執事。
ひっそりと陰ながらエイナを支える役に徹しなければならない。
「ご主人様、お待たせ致しました」
「ありがとうアイリス。ごめんね、すぐ変われなくて」
「ふふっ、ご安心ください。エイナ様と様々なお料理を食べて盛り上がっていましたから」
「そっか。やっぱり高級な食材は違った?」
「はい………ですが、やはりと言いますか、あまり私の口には合わなかったようです」
そう言ってアイリスが苦笑いする。
あー、分かる。
いざ高級な食材を食べても、なんかそれの良さがあんまり分からなくて、結局はいつも食べてるやつの方が美味しく感じるっていうね。
うーむ、やっぱり慣れ親しんだ食材が一番って事だな。
さて、一旦この話は終わり。
ここからは護衛を交代して、俺が担当する。
本当は一、二時間前から俺がやるはずだったんだけど、あまりにも忙しすぎて手が離せず、代わりにアイリスに頼んでいたのだ。
今はひとまず落ち着き、こうして交代のために端っこに集まったと言う訳でして。
「じゃあ、そっちは頼んだよ」
「はい。お任せ下さい!」
胸のバッチを手渡し、これにて引き継ぎ完了。
さてさて、護衛も頑張りますか……………って!?
早速エイナが消えた!
視線を向けるが、先程までエイナが居た場所には既に誰も居なく、忽然と姿を消していた。
慌てて周囲を見渡すものの、それらしき姿はどこにもない。
まさかの秒でどっか行っちゃうとは………。
高級食材の話をしてた時はまだ居たし、目を離したのなんてほんの一瞬だったはずだ。
それこそバッチを渡す時くらい。
まったく、エイナのお茶目っぷりには毎回驚かされる。
「お兄様、どうかなさいましたか?」
「あ、発見」
どうしたものかと悩んでいたのもつかの間、案外あっさりと見つけた。
捕獲。
両手で料理の乗ったお皿を持って帰ってきたエイナを捕まえ、俺は額の汗を拭う。
よかった、すぐ見つかって…………。
どうやらそこら辺のテーブルから色々と取ってきたらしい。
曰く、どうしても俺に食べて欲しいものがあるんだと。
言ってくれればついて行ったのに………。
「お兄様、あ~ん」
「え、ちょ、ちょっと待った」
「え?」
狼狽した俺の制止の声に、エイナはお肉らしき何かを乗せたスプーンを持ったまま、こてんと首を傾げる。
あら可愛い……………じゃなくて!
「あ、このお料理のご説明をまだしていませんでしたね。これはブルーフと言う動物のブロック肉を使った─────」
「いや、そうではなく………」
料理はとても美味しそうだし、エイナのあ~んも実に魅力的な提案だ。
だがしかし。
執拗いようだが、ここがオフィシャルなパーティの場だというのを忘れてはいけない。
たくさんの貴族が見ている。
そんな中で、未婚の王女がするにはあまりにも…………。
「あちらのお方…………」
「そうよね、エイナ様よね………?」
周囲がざわざわし始めた。
そりゃそうだ、一国の王女様が付き人らしき男にあ~んしようとする現場なんて、そうそう見れるものじゃない。
さっきまでは付き人がアイリスだったから微笑ましいで済んだかもしれないけど、俺の場合はそうもいかない。
周りの反応と俺の微妙な表情で察したのか、エイナが慌ててスプーンを引っ込めようとする───────が。
ぱくっ。
「お、お兄様………!?」
エイナが動く前に、スプーンを咥えてお肉を食べてしまった。
当然、周囲の人々だけでなくエイナからも驚きの声が上がる。
はぁ…………やってしまった。
俺は貴族や王族のマナーなんて詳しく知らないけど、こういうのがあんまり良くないってのは分かる。
だが、目上の………それも女性が差し出したものを断るというのはいかがなものか。
なにより、エイナの悲しそうな顔を見ても尚、我慢できるほど俺は大人じゃなかった。
もちろんこれで在らぬ噂が立つかもしれない。
だから全力で誤魔化す。
「うん、エイナ様が仰った通り、大変美味しい料理ですね」
「え、あ………そ、そうでしょう?お兄様、次はあちらのお料理も食べに行きましょう!」
いかにも、これは当たり前の事だと思わせるように。
そう言うか否や、グイグイと俺の手を引っ張ってエイナはその場を離れた。
背後からは「お兄様………エイナ様にご兄弟なんていらしたかしら………?」
など疑惑の声が聞こえてくるが、気にしちゃいけない。
ひとまず別の場所に移動しないと。
俺とエイナは視線から逃れるようにあちこちウロウロし、最終的に人気の少ない真ん中ら辺の端っこに着いた。
周りにほとんど人が居ないのを確認し、エイナがはぁ、と詰まっていた息を吐き出した。
「お兄様、なぜあそこで………」
「あ~んしたのはエイナじゃん」
「うっ、それを言われると痛いです………」
「だって、公の場だからってエイナが悲しい思いをするのは違うと思った」
エイナが目をまん丸にして驚きを示す。
うん、自覚はある。
自分勝手なのはよく分かってるけど、これが俺なので。
ふふふ、最悪の場合は師匠権限でルイスに隠蔽でもしてもらおうか………。
エイナが唖然と言葉を失ったのは言うまでもない。
しかし。
「ふふっ、やっぱりお兄様はお兄様ですね」
すぐに可愛らしい笑顔が戻った。
うむ、この方がエイナらしい。
『これより、舞踏会を始めさせていただきます』
俺達がウロウロしている間に食事はだいぶ落ち着いたらしく、並べられていた机等は使用人によって片付けられた。
見渡しが良くなり、人々が囲って見守る中、部屋の中央にスポットライトが当たる。
『まずは我がオルメスト王国第一王女であらせられる、エイナ様によるファーストダンスでございます』
んん?
あ、エイナが踊るんだ………いや、それは良いんだけど!
あれ、確か"ファーストダンス"って新婚さんが結婚式で踊るダンスじゃ………。
「そういう意味もありますけど、普通に舞踏会で最初に踊るダンスを指すこともあるそうですよ?」
「へー、そうなんだ。じゃあエイナ、頑張ってね」
最初のダンスか………。
なんだかこっちまで緊張するなぁ。
やはり王族ってのは大変だ、と感心しながらエイナを送り出す。
が、しかし。
「はい!それではお兄様、行きましょう!」
「ゑ?」
思考が停止。
エイナ、今なんて言った?
"行きましょう"?
いやいや、踊るのはエイナなんだから…………。
「お兄様も踊るんですよ?」
「誰と?」
「私とです」
……………………………何それ聞いてないんだけど!?
え、ちょ、マジで?
俺ダンスとか全く分からないんだけど………。
何か言おうとするとも、強引に腕を引っ張るエイナに遮られ、スポットライトの元へ。
うぅ、注目されてる………胃がキリキリするぞ。
エイナが俺の手を取り、ギュッと距離を詰めた。
「大丈夫ですよ。力を抜いて、一緒に楽しみましょう」
「…………そうだね」
どこからか、クラシックでゆったりとした曲が流れ出す。
落ち着け、エイナに合わせるんだ。
大丈夫。
楽しんでいればきっと成功する。
エイナの腰に手を回し、音楽に合わせてステップを踏む。
長い。
もしかしたら今までで一番長い数分間だったかもしれない。
最後にエイナの手の甲にキスを落とし、無事にダンスは終了。
音楽が途切れるとともに、周囲から拍手が溢れ出した。
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