最強ご主人様はスローライフを送りたい

卯月しろ

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第10章

三人でデート

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「ありがとうございました~!」


店員さんに見送られ、俺達は洋服屋を後にした。




「お兄様、アイリスさん!次はどこへ行きましょうか………!」
「ちょ、一旦タイム!せめて荷物しまわせて………!」
「腕が………腕がつってしまいそうです………!」


満開の笑顔で行き交う人の波に視線を向けるエイナの後ろで、俺とアイリスはぜぇぜぇと荒い息を繰り返しながら悲鳴を上げる。
理由は言うまでもなく、この両手でも抱えきれないほどの大量の荷物。

今の洋服屋のものだけではない。
色とりどりの紙袋には、王都各地を歩き回って買った様々なお土産が詰め込まれている。
食べ物も洋服も髪飾りも、どれがどこに入っているかなんて、もはや俺達ですら分からない。




ご覧の通り、俺達は三人でデートをしにここまでやって来た。

本来ならお姫様たるエイナが外出する場合は、嫌でも複数人の護衛が付くものだ。
そのせいであまり自由な行動が取れないのはご愛嬌。
だが、現在エイナの周りには俺とアイリスの二人しか居ない。
人数だけで言えば護衛として圧倒的に少ないと言わざるを得ない。
さて、なぜこのような状況になったのだろう。

はい、正解はエイナがこっそり抜け出してきたからです。
置き手紙を残してさら~っと王城を脱走したからです。

どうやら昔の天真爛漫さは今も尚受け継がれているらしい。
さぞ、メイドさんを始め使用人の方々の胃がキリキリすることだろう。
ルイスとか卒倒してないだろうな…………。

洋服屋の入口から建物に沿ってメインストリートの端っこに移動し、山積みの荷物を【ストレージ】に収納。
やっとこさ自由になった右手で滲む額の汗を拭う。


「お兄様、あちらの屋台でお売りになっているのは一体なんでしょう!」
「ん?あー、あれはクッキーに似たお菓子だね。確か中にチョコが入ってるんだっけ」
「そうですね。主流はチョコですが、最近は他のものを入れて販売している所もあるそうですよ?」
「へぇ………果物とか入れたら美味しそうだなぁ」


エイナが目をつけたのは、平たいクッキー状の生地にチョコレートを詰めて焼いたお菓子だ。
こっちの世界のチョコは原料の違いなのか香りが独特で、生地と一緒に焼くことによって香ばしい良い匂いが辺りに広がる。
美味しそうだね…………。
名前が思い出せないが、結構メジャーなお菓子だった気がする。


「列の最後尾はあそこですね、早速並びましょう!」
「「あっ!?」」


おめめをキラキラと輝かせ、エイナは一直線に例の屋台向けて走って行ってしまう。
朝のだらけっぷりはどこへ行ったのやら…………すっかり元気いっぱいな様子だ。


「おう、いらっしゃいお嬢ちゃん。こんな真夏にローブなんて暑くないのかい?」
「ふふっ。こう見えて、意外と涼しいのですよ?そちらの小さい方の袋を三ついただけますか?」
「毎度あり!」


そう、今エイナはブラウンの薄いローブを羽織ってフードで顔を隠している。
念の為、身分がバレないようにするためだ。
さすが王女様なだけあって、エイナの知名度は底知れない。
だからたぶん、ぶらぶら適当に街を歩いているだけですぐにバレてしまうだろう。
そうなれば当然、デートを楽しむどころではなくなってしまう。
周りへの配慮も考えて、こんな形になった訳だ。

最初は俺も屋台の店主と同じく暑そうと思ったものの、生地が良いものらしく通気性は抜群だった。
ものすごく軽かったし、無いのと同じような感じ。
あれ普通に欲しいんだけど…………。


お金を払って帰ってきたエイナに連れられて中央区にある広場に向かい、そこのベンチに三人で腰掛ける。
ぺりぺりと包装を剥がし、早速エイナが一口。

途端に満開の笑顔が咲き誇った。


「ん~!美味しいです!」
「お、じゃあ俺も………」


大変美味しそうに食べるエイナにつられて俺も一つ口に放り込む。
サクッと響いた心地よい音と共に、口の中に濃厚なチョコの味わいとクッキーの食感がダイレクトに広がった。

あー…………これは美味しいわ。
前世のチョコクッキーとはまた違った味で大変美味である。
作り方はお手軽だし、今度家でも試してみようかな。

隣でアイリスも一つ頬張り、美味しそうに咀嚼を繰り返す。


「お兄様、アイリスさん。今日は私のわがままに付き合ってくださり、ありがとうございました」
「楽しめた?」
「はい、それはもう!」


そりゃ良かった。
今日はエイナの休息。
徹底的に楽しんで気力が復活してくれたなら何よりだ。

……………………………………………ただ。
気がかりな点がたった一つ。

日も暮れてきたので、俺達はそろそろ帰らなくてはならない。
そう、あの恐ろしいメイド長が待ち構える王城へ……………。

先程も言ったが、俺達………と言うか主にエイナは無断で外出した。
そして俺達はそれに加担した。
つまり。
想像を絶するようなお説教が待っているに違いないのだ。
もしかしたら焼き土下座や膝下セメントの刑なんてのも覚悟しておいた方が良いかもしれない。
おかしいな……………立派な王城が今や恐ろしい魔王城にしか見えない。


「さすがに私もそこまではしませんよ~」

「ですよね~。さすがのレミアさんでも、そんな事は……………………………………………」


俺とアイリスがピシッと石化した。
ものすごくナチュラルに会話に入り込んできた聞き覚えのある声。
ギギッと壊れた機械のようにぎこちなく振り返ると、そこには。


「まったく、探しましたよ~」


笑顔なはずなのに、全く目が笑っていないレミアさんがそこに居た。
普段は穏やかであらあらうふふ的なタイプなのに、今は謎のオーラ効果でゴゴゴゴゴッ………!と圧倒的な圧を感じる。
まずい、当たり前だがかなりお怒りだ。
ここは戦略的撤退を!


「アイリス、エイナ、先に行け………!」
「お兄様!?」
「ご主人様!?」

「大丈夫、後で必ず帰るから」
「それ、確実に死亡フラグでは………?」



振り返りざまのサムズアップに対し、アイリスの冷静なツッコミが突き刺さった。
ともかく。
色々と言いたいことがありそうな二人を先に逃がした。





         ~数十分後~




「……………………」


俺は地面にうつ伏せで倒れ伏していた。
それはまるで車に轢かれたカエルのよう。


「はぁ…………それで、マシロさん」
「はいなんでしょう…………」


ずぽっと顔だけ上げ、目の前のレミアさんを見上げる。


「悪い知らせと悪い知らせがありますけど、どっちから聞きますか~?」
「少なくとも良い知らせはないんですね………」


なにその絶望的な報告。
こんなにも話の続きを聞きたくないと思ったのは初めてだ。


「順番にお願いします」
「はい~。ではまず一つ目の悪いお知らせですが~……………例の財務大臣が、ほとんど黒だと確定しました~」
「……………それは良い知らせでは?」
「う~ん。そうなんですけど~、国としては悪い知らせなことこの上ないんです~」
「なるほど………」


そりゃ選出した財務大臣が国のお金に手をつけてたなんて、信用がガタ落ちしてしまうだろう。
一つ目の悪い知らせは財務大臣が黒確定。
じゃあ、二つ目は?


「その財務大臣が~、マシロさんを自宅に招いて面会したいと~」
「は?」


意外すぎる悪い知らせに、思わず素でそんな声が出てしまった。



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