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第10章
宮廷魔術師フィーネ②
しおりを挟む「いやー、待ってたっすよ~!」
静かな廊下に騒がしい少年(?)の声が響く。
緑色の短髪くせっ毛の彼は、にこにこと人当たりのよさそうな笑顔を浮かべながらクロとイナリの背を押し、強引に部屋に招いた。
まず二人を出迎えたのは、天井に届くほど山積みにされた大量の書籍達。
ほとんどの調度品の代わりに部屋のあちこちに山が陳列し、それは足の踏み場が見当たらないレベルである。
たぶん大きさ的にはクロ達が移住している部屋に近い。
しかし、大半の面積を本が占め、奥の方の部屋にもちらりと積まれた本が見えた。
どこもかしこも本だらけ。
部屋を間違えてしまっただろうか。
顔を見合せたクロとイナリはそろってそんな事を頭に浮べる。
何せ彼が本当に宮廷魔術師たるフィーネならば、マシロから聞いていた人物像とあまりにもかけ離れている。
そもそもフィーネは女性と聞いていたのだが…………。
「え~っとすね…………よいしょっ。ちょっとここで待ってて欲しいっす!」
通路側からも見えていた通りたくさん積まれた本をまとめて動かすと、そこから机やら椅子やらが姿を見せた。
何もかも見境なく置かれていたから分からなかったが、どうやらここはリビングらしい。
ふとイナリが視線を向けた先の書籍には、魔術歴の文字。
試しに手に取ってみた。
だがタイトルは専門用語すぎて理解できない上に、パラパラと内容を読んでも訳が分からない。
数秒でパタンと閉じ、何事も無かったかのようにそっと山に戻した。
イナリにはちょっと難しすぎた。
「ん、あなたがフィーネ?」
「え?ああ、違うっすよ。自分はフィーネ様の助手っす!まぁ助手と言っても雑用みたいな感じっすけどね………」
悲壮感漂う涙目でせっせとどかした本を整理し、少年はそれを持ってふわりと浮かび上がった。
あまりにも当たり前の動きすぎて見逃しかけたが、イナリが思わず驚愕で目を見開く。
何も今更飛べることに驚いているいる訳ではない。
驚くべきは飛ぶ際に魔法ないし魔力を使っていないという点だ。
普通、空を自由に飛ぶと言ったら、飛行機などが無いこの世界では魔法を使う他ない。
もちろん"自由に"でなければ物理的に可能だが、それは単にぶっ飛ばされてるだけなのでカウントしない。
だからこんな風に、翼も無いのに魔力無しでふわふわ浮いているのはありえないはずなのだ。
別の意味で唖然とする二人を置いて、少年は本の山を避けながら奥の部屋に姿を消した。
片付けがてら、彼の主たるフィーネを呼んできてくれるらしい。
おそらく時間が掛かるとの事なので、クロは遠慮なくソファーに座って待つことにした。
イナリも続いて固くなったソファーに腰を下ろす。
「この本の量は凄いですね………」
「ん。主が喜びそう」
そこら中に積んである本は魔法の専門的な資料だけでなく、歴史書を始め物語や教本など多種多様。
クロの言う通り、マシロからすれば天国と言っても過言ではない。
机の横に取り残された本のうち、クロは気になった一冊を手に取る。
─────────『聖魔戦争歴』
それが本のタイトルだった。
「"聖魔戦争"って…………たしか、数千年前に実際に起きた戦争でしたっけ」
「ん」
表紙から分かるようにかなり古びていて、ページも虫食いや雨風に晒されたような風化でボロボロ。
二人で試しにパラパラ覗いて見たが、如何せん損傷が酷くて読めたものでは無い。
そもそも文字が見たこともないような古代言語だったため、仮に本が元の状態だったとしても、考古学者とかでない限り解読は不可能だろう。
クロとイナリはさっさと読むのを諦めて、それを元の位置に戻した。
他にも気になる本を探したり読んだりしているうちに、数十分ほど経って奥の部屋から何やら騒ぎ声が聞こえてきた。
声からして先程の少年と誰かが揉めているようだ。
「ほらっ、もう結構お待たせしてるっすからぁ~!いい加減起きてくださいっすよー!」
「んん………眠い……もっと寝たい………」
「だったら~…………徹夜しないでさっさと寝るっすーーーっ!!」
ド正論と共にブォンッ!と風を切って放り投げられた何かが、クロとイナリの目の前で切り揉みして落下。
お尻を突き出した残念なポーズで地面にキスする羽目に。
そう、今しがた見事な回転で顔面から地面にディープキスしたのは、黒地に白いラインの入ったローブ姿の女性だった。
言葉を失うイナリとジト目のクロ。
続いてかなり頑張ったらしい少年が息を切らしながら帰ってきた。
そして、息を整えると一つ咳払い。
「こほんっ。こちら、オルメスト王国宮廷魔術師にして、考古学の第一人者でもあるフィーネ様っす!」
「……………ども、フィーネで~す………」
少年の紹介を受け、女性は地面に顔を向けたままひらひらと右手を振った。
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