最強ご主人様はスローライフを送りたい

卯月しろ

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第十四章

第十四章プロローグ

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「………………で、まさか本当にしっぽり一夜を過ごした訳ではあるまいな」
「さすがにそんな訳ないよ………。あの後、ちゃんと帰ってもらったから」


後日。
何とか土蜘蛛の襲撃から逃げ延びた俺は、重たい瞼を擦ってシュカの部屋を訪れていた。
まさか夜通し押し問答が続くとは…………おかげさまで若干の寝不足だ。

何気に例の赤い糸を斬るのが一番大変だった。
何せ単体でも強い硬度を持っている上に、斬ろうとすれば頑なに土蜘蛛が抵抗する。
最終的には、抱きつかれた隙をついて引きちぎったのだが、かなり大変だったので今後は是非ともやめて欲しい。
四苦八苦しながら外した後はすぐにおかえり頂いた。
そこはもうきっぱり。

呆れ顔のセンリに欠伸をしながらそう返す。
…………うん、言いたいことは分かる。
じゃあなんで返したはずの人物が、今、だよね。


「あら、情報提供者は多ければ多いほど良いんじゃないかしら?」
「確かにそれはそうなんだけどさ」


未だぐーすか気持ち良さそうに寝息を立てるシュカに膝枕しているのは、なんと他でもない土蜘蛛であった。
朝来たらさらっとナチュラルに居たからびっくり。

何でも俺に部屋を追い出された後、そーっとこの部屋に忍び込んで二人と一夜を過ごしたんだと。
それにしてもシュカ、全く気にせず爆睡してんな…………。

膝枕の感触が大変素晴らしいのか、頬がだらしなく緩んでヨダレが垂れている。
いつもならそのまま垂れ流しなのだが、今日はきちんと土蜘蛛が拭き取ってくれている。
お母さんか。
傍から見れば、もはや完全に子供と母の微笑ましい光景だ

そんなお母さんこと土蜘蛛が艶然と微笑みながら口にした"情報提供者"という言葉。
文字通り、彼女もまた九尾の狐について教えてくれると言うのだろうか。


「もちろんよ~。でもその前に…………私だけ"土蜘蛛"なんて、よそよそしい呼び方じゃ寂しいわ?ちゃんと真名で呼んで欲しいの~」
「…………分かったよ、夜妬姫ヤツヒメ。これで教えてくれるか?」
「うふふ~。喜んで~」


"ヤツヒメ"。
昨日の夜、去り際にせめてこれだけは覚えて欲しいと土蜘蛛が口にした彼女の真名だ。
"夜に妬む姫"とは中々インパクトがある。


「……………ふんっ、お主なんぞ"土蜘蛛"で十分じゃろうに」
「未だにマシロ君を堕とせてない負け猫は黙ってなさぁい」
「ブッコロッ!」


見事なカウンターを喰らって頬を引き攣らせたセンリが、顔面サイズの氷塊を生成して土蜘蛛ことヤツヒメに容赦なく放つ。
思いっきり顔面を狙っている殺意の高さに戦慄せざるを得ない。

ヤツヒメはため息混じりに漆黒の蜘蛛の足を一本作ると、氷塊を一刺し。
寸前まで迫っていたそれは、見事にど真ん中を貫かれ、ビキビキと音を立てて砕かれた。
「ちっ」とセンリから舌打ちが。

な、仲良くね………?
なんだか早速、先行きが不安である。





                          ◇◆◇◆◇◆





ちょうど鬼人のクニにて朝を迎えた真白が、シュカの部屋を訪れているであろう一方その頃。
とある崖の上に、見覚えのある黒ローブを羽織った集団が密かに集結していた。



「……………ここだ」
「意外だわ。普通の田舎って感じね」
「ですが高度な結界が張られていますわ。半端な力ではびくともしないでしょうね」


その崖の突き出た場所から、眼下の村を覗き見る影が四つ。
内一人が、視認が不可能な結界が張られていることに気が付き、その精度に感心するような仕草を見せる。


「………あん?なぁ、それよりの気配感じねぇぞ?」
「馬鹿ね………だからこそ今にしたんじゃない」
「あの男は必ず我々の障害となる。邪魔をされる前に事を進める必要があるが…………おそらく、間に合わないだろう」
「おいおい、それじゃあ意味ないじゃんかよぉ!」


後ろから戻ってきたもう一人が頭を抱えて舌打ちする。
どうやらほんとうに何も分かっていないらしい。
一体、作戦会議で何を聞いていたのだろう。

三人は………特に姉たる少女は頭痛に耐えるかのように額を抑える。


「本当に馬鹿………だからこそ、"そいつら"を連れて来たんでしょ」


黒ローブの少女が、少年の後ろを指さす。
そこには無言のまま佇む、同じく黒ローブを羽織った者たちが並んでいた。
合計で十人程度だろうか。
彼らは言わば"捨て駒"である。
かの男とその花嫁の足止め、そしてあわよくば時間稼ぎが出来れば上々だ。


「いくら我々と言えど、あの少女達を全員相手するのは少し面倒ですわ」
「あくまで目的を忘れるなよ?」
「分かってるって!まぁ、適度に遊んだら帰るよ」


それは本当に分かっているのか。
今更何を言っても無駄なのは分かっているものの、どうしてもため息が漏れる。


「…………いくぞ」
「ええ」
「分かったわ」
「おう!」


黒い影が動き出す。

何気ない日常を迎えようとするただの辺境の村。
名を"カディア"。
真白の故郷であるその村に、今までの比にならない脅威が迫っていた。




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