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第一話 生徒会長

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 私立瞭英りょうえい学園。
 校則が厳しく、真面目な生徒が多いこの高校にはそんな生徒の中でもより一層生真面目な生徒会長がいた。

 その名も、来栖くるす かえで

 彼女はその生真面目な性格から教師達からは絶大な信頼を置かれ、生徒からも男女問わず人気がある。

 成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗。
 そして何より、

「会長ー、部活の助っ人お願いしてもいいですか?」

「またか? 私はテニス部員ではないのだから私が試合に出てもあまり意味がないと思うんだが……」

「今日の相手は絶対に負けられないんです! お願い! 会長しか頼れる人がいないんです!」

「そ、そうか……なら、仕方ないな……」

「ありがとうございます!」

 何より、頼られたら断ることのできない性格なのだ。

(確かに頼られるのは純粋に嬉しいし、私なんかの力で良いのなら喜んで手を貸すんだけど……いずれどうでもいいようなことまで頼まれそうで怖いな……今のうちに断れるようにもなっておかないと)

「ん? 少し書類の整理が遅れているようだが……」

「あ、会長……ごめんなさい。昨日遅くまでテスト勉強をしていて、少し眠くて……」

「仕方ないな……ほら、貸して。私がやっておく。お前は少し仮眠をとった方が良い。無理するなよ」

「あ、ありがとうございます会長……」

(まあ、自分から困ってる人の手助けをするのは悪いことではないよな?)

 と、こんな感じで困っている人を見過ごすことができない楓だったが、とある日の朝、事件は起こる。




 その日はいつも通り校門の前で登校してくる生徒達に朝の挨拶をしながら服装のチェックをしていた。

 そんな時――

「きゃあ!!」

「!?」

 女子生徒の悲鳴を聞き、楓が慌ててそちらを見てみると、その女子生徒の視線の先には車道のど真ん中で座り込んでいる猫がいた。

 仔猫というせいなのか、それに気付いていない車がスピードを落とすことなく走り抜けようとしていた。

「いかん!」

 身体が勝手に動いたというのはまさにこの事だろう。
 一目散に猫を助けに車道に飛び出した楓は、飛び付いてその仔猫を抱き抱える。

(……どうやら私は、目の前で困っているのが人間でなくても関係なかったようだ……)

 目の前まで迫る車をぼんやりと見つめながらそんなことを思っていると、胸に抱えた仔猫から眩しい光が発せられ――



 気が付くと、異世界にいた。


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