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17 貨幣
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宰相の部屋に行ったら石板を使ってなにかを大量に計算し、大勢の人間に指示を出している。許可なく俺が見ても大丈夫な数字なんだろうか。
数人が羊皮紙にカラシフの指示を書き、それをどこかへと持って行く。
「アラヒトさんすみません!あと少々で終わりますので!」
なんだかとんでもなく忙しい時に来てしまったようだ。宰相に相談があると言ったら夜のこの時間に来いと言われたので、日が暮れてから来たのだが・・・
「お待たせしました。お前たち、それが終わったらもう帰ってもいいぞ!」
返事をして退室していった。
「数字が扱えるようになってからというもの、政治のやり方が変わりましてね。とにかく国内にあるものすべてをきちんと計量するという手はずになったのです。それといつぞやに教わった計算!あれは凄いものですね!リーベリの書き文字よりも計算しやすく、これで国のかたちがどう変化してゆくのか見て取れます!」
ちょっと興奮気味だな。
数字があって計算ができるなら内政は変わる。徴税の方法から資源の管理、農作物の生産拡大から土地の測量、軍事的な強さまで数字で分かる。いままでざっくりとした大きさでしか考えられなかったものが、具体的に数字として出てきているのだ。インドア派っぽいカラシフ宰相からすると、これほど強力な武器は無いだろう。
「で、私に相談というのはなんでしょうか?」
「私に下賜された金貨を見ていたんですが、これの発行元ってリーベリですか?」
「そうです。ペテルグには金貨もなく、貨幣はリーベリの貨幣で代用しています」
やはりそうか。数字も文字も無ければ貨幣経済自体も無いんだな。
「この国、食料の生産が弱くなったらとたんに極端に弱くなりませんか?他の国もそうかもしれませんが」
「いえ、他の国よりも弱くなりますね。ですが数字があればこれからは強くなれますよ!」
数字でハイになっているなぁ・・・なんにも感じずに数字を使っていたけれども、数字がスキな人間ってやっぱりいるんだな。
「国が弱体化するのは、富を蓄えられないからです。富を蓄えられないのは、貨幣が行き届いていないからです。しかもその貨幣の発行元もリーベリに押さえられている。これはよろしくありません」
「そうは言ってもですね・・・実際のところ庶民は金貨や銀貨を持てるような人たちでは無いですよ?」
「ジャガイモだけを何年も蓄えられないでしょう。ジャガイモが悪くなる前に貨幣に換えられればより豊かになるでしょう。この国にものちのち貨幣が必要になります。手軽に手に入らず、王家だけが大量に扱えるような金属は無いですか?」
「うーん・・・金属ですか・・・」
無いっぽいなぁ。あったら軍事でここまで苦労はしていない。
「あの、金属でなくてはいけないんですか?」
サーシャが割って入ってきた。なにかあるのか?
「いや、貴重なものであれば何でもいい。できれば黄金と適当な比率で交換できるようなもの、壊れにくくて丈夫なものであればなおいい」
「玉はどうでしょうか?」
ギョクってなんだ?
「奇石か。それなら簡単に手に入らないな・・・」
キセキってなんだ?
「なんですか、ギョクって?」
「これですよ!あとこれ!」
カラシフの持ち物入れに、飾りとして入っている石だ。ベルトのバックルにも使っている。
石?
「希少な石を磨いたものを玉と言います。小さいものであれば庶民でも装身具として使います」
「大きなものは王家に納める決まりになっています。精霊の御力によって作られたとされ特別な加護があると信じられているのです」
そう信じられているのか。宗教が絡むと扱いづらいな。いや・・・精霊が関わるからこそ身近なのか?
「人に譲ったり、あげたりもするんですか?贈ったら特別な意味を持ったりするとか?」
「譲ることもありますよ。婚姻の時に女性に贈ると喜ばれますね。私は購入しましたが、庶民はだいたい山に入って自分で手に入れて、石工に磨いてもらったり自分で磨いたりするんですよ」
へぇー。そういえば中国にはそういうものがあるって聞いたことがある気がする。
黒曜石が貨幣の代わりになっていたかもしれない時代もあったんだ。石でも貴重品ならイケるかもしれない。貨幣の代わりになるものがあるなら、どうにかなるかな。ギョクをずっと貨幣として使うワケじゃないし、流通量も国で管理できそうだ。
「将来的には貨幣として流通できるようにしてもらいたいんですが、数年後の話です。先に作っておかないとマズいものがあるんです」
「私は職人でも技術者でも無いですよ?」
「作らなくてはいけないのは制度の方です。この国は主食を麦とジャガイモで賄っていますよね?」
「ええ」
「交換比率が毎日変わるような仕組みなんですが・・・」
俺は江戸時代の米本位制を利用した市場の考え方を説明した。
毎日相対して麦やジャガイモを買う人間と売る人間が出る。ギョクとやらで売り買いする。
先物についても説明した。権利を売り買いし、暴騰暴落を防ぐ。
なにかあったら国が市場介入してもいいし、戦争でも起こったら国が市場を止める。
貨幣経済や物々交換という考え方自体は一世紀頃にはあった。だがその先を行く。
目指すは17世紀の堂島。市場経済によって物価の安定を図る。
数人が羊皮紙にカラシフの指示を書き、それをどこかへと持って行く。
「アラヒトさんすみません!あと少々で終わりますので!」
なんだかとんでもなく忙しい時に来てしまったようだ。宰相に相談があると言ったら夜のこの時間に来いと言われたので、日が暮れてから来たのだが・・・
「お待たせしました。お前たち、それが終わったらもう帰ってもいいぞ!」
返事をして退室していった。
「数字が扱えるようになってからというもの、政治のやり方が変わりましてね。とにかく国内にあるものすべてをきちんと計量するという手はずになったのです。それといつぞやに教わった計算!あれは凄いものですね!リーベリの書き文字よりも計算しやすく、これで国のかたちがどう変化してゆくのか見て取れます!」
ちょっと興奮気味だな。
数字があって計算ができるなら内政は変わる。徴税の方法から資源の管理、農作物の生産拡大から土地の測量、軍事的な強さまで数字で分かる。いままでざっくりとした大きさでしか考えられなかったものが、具体的に数字として出てきているのだ。インドア派っぽいカラシフ宰相からすると、これほど強力な武器は無いだろう。
「で、私に相談というのはなんでしょうか?」
「私に下賜された金貨を見ていたんですが、これの発行元ってリーベリですか?」
「そうです。ペテルグには金貨もなく、貨幣はリーベリの貨幣で代用しています」
やはりそうか。数字も文字も無ければ貨幣経済自体も無いんだな。
「この国、食料の生産が弱くなったらとたんに極端に弱くなりませんか?他の国もそうかもしれませんが」
「いえ、他の国よりも弱くなりますね。ですが数字があればこれからは強くなれますよ!」
数字でハイになっているなぁ・・・なんにも感じずに数字を使っていたけれども、数字がスキな人間ってやっぱりいるんだな。
「国が弱体化するのは、富を蓄えられないからです。富を蓄えられないのは、貨幣が行き届いていないからです。しかもその貨幣の発行元もリーベリに押さえられている。これはよろしくありません」
「そうは言ってもですね・・・実際のところ庶民は金貨や銀貨を持てるような人たちでは無いですよ?」
「ジャガイモだけを何年も蓄えられないでしょう。ジャガイモが悪くなる前に貨幣に換えられればより豊かになるでしょう。この国にものちのち貨幣が必要になります。手軽に手に入らず、王家だけが大量に扱えるような金属は無いですか?」
「うーん・・・金属ですか・・・」
無いっぽいなぁ。あったら軍事でここまで苦労はしていない。
「あの、金属でなくてはいけないんですか?」
サーシャが割って入ってきた。なにかあるのか?
「いや、貴重なものであれば何でもいい。できれば黄金と適当な比率で交換できるようなもの、壊れにくくて丈夫なものであればなおいい」
「玉はどうでしょうか?」
ギョクってなんだ?
「奇石か。それなら簡単に手に入らないな・・・」
キセキってなんだ?
「なんですか、ギョクって?」
「これですよ!あとこれ!」
カラシフの持ち物入れに、飾りとして入っている石だ。ベルトのバックルにも使っている。
石?
「希少な石を磨いたものを玉と言います。小さいものであれば庶民でも装身具として使います」
「大きなものは王家に納める決まりになっています。精霊の御力によって作られたとされ特別な加護があると信じられているのです」
そう信じられているのか。宗教が絡むと扱いづらいな。いや・・・精霊が関わるからこそ身近なのか?
「人に譲ったり、あげたりもするんですか?贈ったら特別な意味を持ったりするとか?」
「譲ることもありますよ。婚姻の時に女性に贈ると喜ばれますね。私は購入しましたが、庶民はだいたい山に入って自分で手に入れて、石工に磨いてもらったり自分で磨いたりするんですよ」
へぇー。そういえば中国にはそういうものがあるって聞いたことがある気がする。
黒曜石が貨幣の代わりになっていたかもしれない時代もあったんだ。石でも貴重品ならイケるかもしれない。貨幣の代わりになるものがあるなら、どうにかなるかな。ギョクをずっと貨幣として使うワケじゃないし、流通量も国で管理できそうだ。
「将来的には貨幣として流通できるようにしてもらいたいんですが、数年後の話です。先に作っておかないとマズいものがあるんです」
「私は職人でも技術者でも無いですよ?」
「作らなくてはいけないのは制度の方です。この国は主食を麦とジャガイモで賄っていますよね?」
「ええ」
「交換比率が毎日変わるような仕組みなんですが・・・」
俺は江戸時代の米本位制を利用した市場の考え方を説明した。
毎日相対して麦やジャガイモを買う人間と売る人間が出る。ギョクとやらで売り買いする。
先物についても説明した。権利を売り買いし、暴騰暴落を防ぐ。
なにかあったら国が市場介入してもいいし、戦争でも起こったら国が市場を止める。
貨幣経済や物々交換という考え方自体は一世紀頃にはあった。だがその先を行く。
目指すは17世紀の堂島。市場経済によって物価の安定を図る。
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